短編
twisted(twst文字書きワードパレット#1)

ハーツラビュルでの事件を経て、私とリドル先輩の仲は急速に深くなり、私達は晴れてお付き合いを始めることとなった。
リドル先輩は自分にも他人にも厳しい人だけど、私と2人きりになると紳士的にエスコートをしてくれるし、かと思えば不意に甘えん坊な一面も見せてくれる。
大人っぽい色気と子供っぽい可愛らしさを絶妙に併せ持った彼に、私は釘付けなのだ。

「ああ、居た。なまえ、帰ろう」

ある日の放課後、エーデュースとグリムと教室で駄弁っていると、リドル先輩がひょいっと教室の扉から顔を現した。
曰く、授業が終わっても中々待ち合わせ場所に来ない私に痺れを切らしたらしい。
私がリドル先輩の元に駆け寄ると、先輩は目を細めて柔らかい笑みを浮かべた。

「そんなに急がなくても良いのに。キミは相変わらず何処ぞの白ウサギみたいに慌ただしいね。……ほら、またタイが曲がっているよ」
「だって、先輩をお待たせするのが申し訳なくて」
「本当にそう思うのなら、授業が終わったら真っ先にボクのところに来てくれても良かったのに……」

リドル先輩は私のタイを直しながら、口を尖らせてそう呟く。
ああ、これは……
もしかしなくても、ちょっと拗ねている。
直ぐにそう察した私は、「帰りましょう」と言って先輩の背を押した。

「エース、デュース。グリムのことよろしく!じゃあね!」

去り際にそう言うと、私はリドル先輩の後を追った。
今日は久しぶりに馬術部がお休みということで、先輩がオンボロ寮に泊まりに来るため、2人で帰ろうと約束をしていたのだ。
グリムはハーツラビュルで預かってもらうことになっているため、オンボロ寮はゴースト達を除けば私とリドル先輩の2人きりになる。
だから先輩は、今日という日をとても楽しみにしていたというのに。

「……」

皆と別れてから、リドル先輩は一言も口を利いてくれなかった。
それが寂しくて不安で、でも私も何を話しかけたら良いのか分からなくて、一緒に無言になってしまう。
オンボロ寮に着いてからも、先輩はこちらに顔を向けてくれることすらなくて、いよいよ私は泣き出したい気持ちになった。
談話室に入ると、リドル先輩はソファに座ってスラリとした足を組む。
私は隣に座るのが怖くて、彼の傍らで唇を噛んで立ち竦んでいた。

「……ねえ」
「は、はいッ」

暫く経った後、痛いほどの沈黙を破ったのはリドル先輩だった。

「いつまでそうして突っ立っているつもりだい?ほら、こちらにおいで」
「で、でも先輩、怒ってるんじゃ……」
「おいで、なまえ」

こういう時のリドル先輩の一言は、決して強い口調ではないのに、有無を言わせぬ力がある。
私はおずおずとソファに近づき、彼の隣に腰掛けた。
先輩は私の手をきゅっと握ると、視線を右往左往させながら慎重に口を開く。

「……すまなかったね。ボクの醜い嫉妬心で、キミの心までをも傷つけてしまった。恋人の友人関係に土足で踏み込むほど、心の小さい男になるつもりはなかったのに」
「い、いえ!私の方こそすみませんでした。せっかく2人きりで過ごせる貴重な日だったのに、すぐに先輩のところに行くことができなくて。それに……」
「それに?」
「私、嬉しいんです。先輩がそうやって、自分の感情に素直になってくれることが」

ー今までは、規則に縛られて、自分の気持ちに蓋をしているように見えたから。

私がそう言うと、先輩はほんのりと頬を赤らめて私から視線を逸らす。
可愛いな。
リドル先輩を見つめて微笑む私の頬も、きっと苺のように赤く染まっているのだろう。

「……お、お茶会!お茶会をしよう」

照れ臭さを誤魔化すようにそう言った先輩は、長椅子から立ち上がって私に背を向けた。
なんだか今日は中々先輩と目が合わない。
それがちょっぴり寂しくて、私はキッチンに向かおうとする先輩の手首を掴む。

「リドル先輩」

そして、爪先立ちになり、ちゅっ、と先輩の頬に唇を押し付けた。

「だいすき」

ふにゃりと笑みを浮かべて先輩を見つめると、彼のトレードマークのハート型の触覚はピンと空へと伸び、スモークブルーの瞳はまん丸に見開かれている。
次の瞬間、私は掴んだままの手を強く引かれ、リドル先輩の腕の中にいた。

「ボクも」

そう呟いてから、彼は私の肩に顔を埋める。
久しぶりに全身で感じるリドル先輩の身体は淹れたての紅茶みたいにじんわりと温かくて、苺タルトのように甘い匂いがした。

ALICE+