短編4 Stories with…feat.
『4 Stories with…』とは
舞燐とその友人とのコラボ企画(?)
ネタ提供、手紙の文章作成→友人
プロット、小説本文作成→舞燐
1つの贈り物(某高級ブランドのヘアミスト)に対して、4つの異なる世界線からメッセージ(手紙)が届いたよ、というもの。
元々、友人が舞燐に対し、4人のキャラからの誕生日のお手紙として、手書きメッセージを送ってくれたことが、この企画のきっかけです。
まあ、4つの世界線は全く繋がってないので、特に設定気にせず読める…と思います。
それでは、どうぞお楽しみください。
☆★☆
恋人の美風藍くんと最後に会ってから、もう1ヶ月。
次に彼に会えるのは、一体いつになるんだろうか?
「……逢いたいな」
私はそう呟くと、手元に残っていた缶コーヒーの残りを全部飲み干して撮影現場に戻った。
☆★☆
「お先に失礼しまーす」
「はーい、お疲れ様でした〜!」
某ファッション雑誌の撮影を終え、現場のスタッフに挨拶を告げる。
私―みょうじなまえは、フリーランスでカメラマンの仕事をしている。
最近はありがたいことに依頼も増え、毎日忙しく活動をさせていただいているのだけれど、中々プライベートの時間が確保できず、会いたい人に会うことが出来ていないのが現状だ。
特に逢いたいのは、やっぱり自分の想い人である美風藍くんなのだけれど―実は彼、今絶大な人気を誇るアイドルグループ、『QUARTET NIGHT』のメンバーの一員なのである。
そういう訳で、彼も彼で仕事が忙しい上に、お忍びデートをしなければならないという制限を掛けられた私達は、連絡は小まめに取っているものの、実際に会うことは殆どできていないのだった。
カメラの機材を持って車に乗り込み、出発前にスマホを取り出す。
すると、藍くんからメッセージが届いていた。
『お疲れ様、なまえ。仕事は終わった?』
「えーっと……『今終わったところだよ』……っと」
私は一人でニヤニヤしながら、彼にそうメッセージを返す。
すると、すぐに既読がついて、その直後に電話がかかって来た。
私は慌てて通話ボタンを押し、「もしもし?」と上ずった声で呼びかける。
『……そんなに慌てて出なくても良いよ。もう、おっちょこちょいなんだから』
「う……だって、藍くんから電話を掛けてくれるなんて滅多にないから、びっくりしちゃって」
『今日は珍しく早く仕事が終わったからね。それに、君に相談したいこともあったし』
「相談?」
私が訝しげに尋ねると、『そ』と藍くんは頷いた。
『なまえ、今度の火曜日の夜って空いてる?』
「うーんと、火曜日は……うん、夜なら大丈夫だよ。どうしたの?」
『久しぶりに、食事にでも行かない?ボクもその日の夜はスケジュールを空けてもらったんだ』
「え!!ホントに⁉良いの?」
私の声がよっぽど弾んでいたのか、藍くんはクスクスと笑って『君って本当に分かり易いよね』と呟いた。
『なまえ、その日は誕生日でしょ。お祝いさせてよ』
「うん……ありがとう!」
信じられない。誕生日に、藍くんに会えるなんて。
私はウキウキの気分でスケジュールにデートの予定を書き込むと、彼と少しの間言葉を交わしてから電話を切ったのだった。
ところが、誕生日の前日。
急遽、私の方で仕事が入ってしまったのである。
先方には予定があるからと伝えたのだが、「どうしても貴方に頼みたい」「明日撮影をしないと間に合わない」とお願いをされては、断ることも出来なくて。
藍くんにお詫びの連絡を入れると、「仕方ないよ、仕事なんだから。頑張ってね」と言って、嫌な素振りも見せずにそう言ってくれた。
久しぶりに会えると思っていただけに、自分が思っていたよりも、心はだいぶ落ち込んでいたようで。
「はぁ……」
火曜日の夜、仕事を終えたその瞬間に、一気に淋しさが募ってきた。
別に、誕生日が仕事で潰れようが、それ自体はどうってことない。
でもせっかくなら、恋人に逢いたかった。
優しい笑顔で「おめでとう」って言って、祝ってもらいたかったな。
私は再び重苦しい溜息を吐きながら玄関にたどり着くと、何気なくポストの郵便物を確認した。
「……ん?」
するとそこには、見覚えのない小さな紙袋がちょこんと置いてある。
「なんだろ、これ」
宛名や差出人の名前を探してみたけれど見当たらず、私は益々首を傾げた。
―もしかして、新手のストーカー、とか?
そんな考えに思い至った頃、彼女はふと、紙袋袋の持ち手の部分に、小さなメモ書きが括りつけられてることに気が付く。
「はは……本当にストーカーだったらどうしよう」
なまえは恐る恐るメモを剥がし、中のメッセージに目を走らせた。
『この香りを纏っている君が、嬉しそうに見えたから。
君が嬉しそうな顔が、ボクも一番嬉しい。』
「これ、って……え、嘘、わざわざ来てくれたの?」
メモ書きの一番下に書いてある、流れるようなサイン。
そして、お手本のように整った小綺麗な細い文字。
それらを見た瞬間、彼女は紙袋を片手に、想い人に電話を掛けていた。
『もしもし』
「あ、もしもし藍くん?えっと、わざわざ来てくれたの?」
『なまえ、ちょっと落ち着きなよ。どうせまだ、家の中に入ってないんでしょ』
「あ……ごめん。嬉しくてつい」
彼に咎められた私ははたと我に返り、一先ず家の中に入って一息吐く。
そして、荷物を机の上に置くと、「おまたせ」と言って再び通話口に向かって話し掛けた。
「藍くん、プレゼント見たよ。ありがとう。せっかく時間とってくれたのに会えなくてごめんね」
『良いよ、仕事だったんだから仕方ない。それより、もう家の中には入ったの?』
「うん。今ちょうど一息吐いたとこ。藍くんはもう家?」
『うん。……良かった、鈍感なキミのことだから、あれがボクからのプレゼントだってことにすら気付いてくれないかと思ってたよ』
「う……さ、最初は誰からだろうってちょっと怖かったけど、藍くんのメッセージカードのお蔭で分かったの。ありがとね、本当に。……中、開けても良い?」
『君のために買ったんだから、開けちゃダメな訳ないでしょ』
「あはは、それもそうか。……じゃあ、開けるね」
私はそう言ってから、そっと紙袋の中身を取り出す。
そこには某有名ブランドの箱が入っていて、それを開けると、私がずっと欲しかった『ある物』が入っていた。
「わあ。ヘアミストだ……!」
私はこのブランドの香水が大好きでいつも使っているのだが、同じ香りのヘアミストも出ており、それはまだ手に入れていなかったのだ。
私が欲しかったものを把握しているなんて、流石、しっかり者の藍くんである。
「ありがとう!このヘアミスト、ずっと気になってたものだったから、本当に嬉しい」
『それなら良かった。まあ、君は良い意味でも悪い意味でも分かりやすいからね』
「え?」
どういうことだろう。
ちょっと愉快そうな調子の藍くんに対し、私はきょとんとしながら彼の言葉を待つ。
『だってなまえ、店の前を通る度に、そのヘアミストを物欲しげな瞳で見つめてたから。そんな表情してたら、キミの考えてることなんて誰が見ても分かるよ』
「あ、あはは……気付いてたんだ」
的確過ぎるその推理に、私は思わず苦笑いを浮かべる。
藍くんはそんな私の声を聞くと、呆れたように溜息を吐いた。
『今回は僕が真っ先に気付いてあげられたから良いけど、今度また同じように物欲しげな顔をした時に、他の人に甘やかされても、そっちに靡いちゃダメだからね。君のことを甘やかすのも、いじわるするのだって、ボクの特権なんだから』
「ッ……」
何、今の。
ズルい。そんなこと言われたら、ちょっとときめいちゃうじゃないか。
『どうしたの、なまえ?電話なんだから、ちゃんと声を出してくれなきゃ分からないんだけど』
「だ、だって……藍くんが、あんな、あんなこと言うから……!」
『ふーん?あんなことって、何?』
「〜〜〜ッ、分かってる癖に!」
『ふふッ。きっと今のキミは、熟れたトマトみたいに真っ赤になっているんだろうね。……ねえ、今から見に行っても良い?』
「……え?」
私の思考が停止したと同時に、インターフォンの音が鳴り響いた。
え……待って、嘘、本当に⁉
大混乱の精神状態の中、私は茫然と玄関のロックを解除する。
「久しぶり、なまえ。……あ、髪、少し伸びたね」
「なんで……どうして……?さっき、家って言ったのに」
「当然でしょ。今日はキミの誕生日なんだから。直接会っておめでとうを言わせてよ」
今何時?と私に訊ねつつ、藍くんは靴を脱いで部屋の中に入って来る。
デジタル時計に眼を遣り、「23時57分、だけど」と答えを返すと、「ギリギリ間に合ったね」と彼は満悦気に微笑んだ。
そして、藍くんは改まった様子で、私の方に向き直る。
「なまえ、誕生日おめでとう。大好きだよ」
ちゅ、と軽いリップ音と共に、額に柔らかい感触がした。
目を瞑る暇もなく降りてきた熱は、一瞬の後に儚い香りと共に消え去ってしまう。
こんなの……嬉しくない訳、ないじゃないか。
私は真っ赤に頬を染め、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。
「……わ、私、も……藍くんの事……す、き……」
両手で顔を覆い隠しつつ、彼に聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声でそう呟く。
それでも、藍くんは充分に満足したらしい。
ぎゅう、と抱き締められ、首筋に顔を埋められ。
嗚呼幸せだな、と、私は力の抜け切った猫みたいにへにゃりと微笑んだ。