真っ暗闇で息継ぎも出来ずに※苗字固定注意
地下都市、サングィネム。
吸血鬼達の住まうその街のとある屋敷に、1人の人間の少女が住んでいた。
否、囚われの身となっていた、と言った方が正しいかもしれない。
その少女は、4年前までは自分の『家族』と一緒だった。
だが、あの日−。
『あはぁ〜。待ってたよ、哀れな子羊君達』
『逃げろ!!みんな走れ!!』
『忘れないで』
『僕らは、家族だ』
あの日、家族はみんなバラバラになった。
いつも勇敢で仲間思いな黒髪の少年は、地上への脱出に成功した。
あの日殺されかけた金髪の少年は、何故か一命を取り留めて、この地下都市で生活をしているらしい。
そして、その少女は−
今日も僅かな希望に縋りながら、誰にも届かない助けを求めて生きている。
屋敷の扉がガチャリと開けば、それはこの家の主が帰って来たという合図だ。
少女は怯えを露わにすると、咄嗟に部屋のベッドに寝転がって眠った振りをした。
「やあ、ただいま」
その吸血鬼−第七位始祖、フェリド・バートリーは、少女がいる部屋のドアを開けてそう言った。
だが、少女が自分に背を向けてベッドに寝転がっている姿を目撃すると、クスクスと忍び笑いを始める。
「おやおや、また眠ってるんですか?それとも……」
フェリドは一瞬で少女のベッドの脇まで移動すると、フッと彼女の耳元に息を吹き掛けた。
「っ……」
「あっはぁ。やっぱり起きてるじゃない」
思わず身を捩らせた少女の姿を見て、フェリドは満足そうに笑った。
「今日は僕がいない間何してたの?もしかして、また窓の外を見てたのかな?」
「……」
「あは、どうやら図星だったみたいだねえ」
フェリドは顔を歪める少女を見て更に笑みを濃くした。
「君は本当に可哀想なお姫様だよねえ。僕みたいなのに気に入られちゃって、来る日も来る日もミカくんや優ちゃんが自分を助けに来てくれるのを待ってるんだから。
でも、言っただろ?君が待ち焦がれてる王子様は2人共、君がまだこうやって生きている事を知らないんだ。だから、君が幾ら此処で待っていようとも、君の騎士(ナイト)は絶対に来ない。本当に君は可哀想な囚われのお姫様だ。可哀想で、憐れで、惨めで……でも、だからこそ愛おしい」
「……やめて」
「ううん、やめてなんてあげないよ。僕はずーっと此処で、君の隣で、こうやって愛を囁いてあげる。嬉しいでしょ?」
「嬉しくなんか……いっ!」
自分の言葉を最後まで言えないうちに首筋に痛みが走る。
「んんっ……」
じゅるり、と血が抜かれる感覚がすると共に、フェリドの髪が一房さらりと落ちてきて、少女の頬を擽った。
「あはぁ〜、やっぱり君の血は美味しいねえ。他の吸血鬼達にとっては君の血は飲めたものじゃない位酷いらしいけど……僕にとってはこの味は極上品だ」
「や……だ、助けて……」
「だーかーら、言ったでしょう?助けなんて来ないって。君は一生、僕だけのもの。未来永劫、僕だけの家畜だ。
……ああ、それとも、」
その吸血鬼は、妖艶な笑みを浮かべて少女を見つめる。
「いっそホントに、僕だけのものになっちゃおっか」
「……それ、どういう意味……?」
「どういう意味もなにも、そのままの意味ですよ。バレたら僕がミカくんに殺されそうだけど……それはそれで見てみたいなあ。だってミカ、昔から君の事大好きだったもんねえ」
「っ、待って、話が見えな−」
少女は再び、最後まで言葉を発する事ができなかった。
と言うのも、フェリドの唇によって少女の唇がふさがれていたからだ。
やだ!
少女は咄嗟に咥内を揶揄するフェリドの舌を噛んだ。
「……あーあ、血が出ちゃったじゃない」
フェリドは眉尻を下げてそう言うものの、何故かどことなく愉快そうで。
「うっ!?」
突然、少女の身体を衝撃が襲った。
身体が熱くて苦しい。
「なにっ、これ……あっ!」
じたばたと転げ回る少女を見下ろしながら、フェリド・バートリーは楽しげに囁いた。
「あ、言い忘れてたけど、人間は貴族の吸血鬼の血を飲み込むと吸血鬼になっちゃうんだよね〜」
「っ!?」
「おめでとう。これで君は、正真正銘僕のものだよ」
その吸血鬼はそう言って高らかに笑うと、絶望に明け暮れる少女の唇に再びキスを落とした。
そして少女はその瞬間悟る。
ミカエラが何故生き残ったのかを。
ミカエラが今はもう、人間ではないということを。
「吸血鬼の世界へようこそ、百夜なまえちゃん」
気がつけば少女には、2本の鋭い牙が生えていた。
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サンタナインの街角で