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1.
此処数日、折原臨也と言う名のヴァンパイアと生活してきて、幾つか解った点がある。


1つ。
ヴァンパイアと言えども、人間と同じような食事は摂る事もあるという事。
臨也さん曰く、『人間の食事は嗜好品』なのだそうだ。


「俺はね、血の滴るような味がする生の大トロが最高に好きなんだ」


いつだったか、楽しそうにそう話してくれた事がある。
ルックスは人と同じに見えても、やはり中身はヴァンパイアそのものなのだと身に染みて実感させられた。


2つ。
私達人間が抱いている吸血鬼への偏見は捨て去った方が良いという事。
『ヴァンパイアはニンニク、十字架、教会を忌み嫌う』なんて迷信は人間が作った迷信に過ぎないようで、特にそれらを見ても臨也さんは何の反応も示さない。
以前興味本位でその迷信の話が本当かを聞いてみたら、「あんな馬鹿馬鹿しい作り話、一体誰が思い付いたんだろうねえ」と言ってクツクツと笑っていた。


3つ。
本来、ヴァンパイアは夜行性だという事。
臨也さんの場合、表向きは人間の振りをして情報屋を営んでいる為日中でも目を覚ましているが、やはりそれでも夜の方が生き生きして見える。
今の時代、多くのヴァンパイアは人間の振りをして生きている為、昼間でも起きて仕事をしている輩も増えてきているようだ。



「ところでさ、なまえちゃん」


ある日の夜、臨也さんは私の顔を見つめてニコニコ笑いながらそう言った。


「俺、お腹空いたんだけど」

「じゃあ、何か作りますね。
何が良いですか?」

「違う違う。そう言うんじゃなくって、」


「来て」と言って、臨也さんは私に手招きをする。
疑問に思いながらも恐る恐る近づくとー


「っ!?」


腰をグインと引き寄せられ、臨也さんに飛び込む形になってしまった。
何とか体勢を立て直すも、私の腰に回った臨也さんの手は離される事はなく、寧ろさっきよりも密着している気がする。


「な、何なんですかいきなり!?」

「今夜は満月だ」

「は?」


突飛な発言に思わず顔を上げると、臨也さんが嫌な笑みを浮かべて私を見ていた。

危険、危険。

私の脳内で警鐘が鳴る。


「俺達みたいな闇の住人は、満月の夜には特に喉が乾くんだ。
俺が言いたい事、解るよね?」

「ッ! い、嫌っ……!」

「はいはい暴れないでね」


臨也さんは腰に回していない方の手で、思わず振り上げた私の手をギリリと掴む。
骨が軋むようなその痛みに、私は一瞬顔が歪んだ。


「や……やだ……やめて下さい臨也さん!」

「やめないよ。第一俺がヴァンパイアだって知ってる癖に、俺に手招きされた位でやすやすと近づいて来る君も君で悪いんだ。そんなの俺に血を吸ってくれって言ってるようなものだよ。ああ、それとも吸って欲しかったのかな?」

「そんな訳ッ……!」


ドスッ。

私が反論しかけた時、鈍い光を放つ『何か』が私の横を通り抜けていった。

恐る恐る後ろを振り向くと、一本のサバイバルナイフが床に突き刺さっている。



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