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2.
「……煩い、って言いたいのが解らないのかな?今の君は、言わば俺に飼い馴らされた家畜と同じようなものだ。俺にそんな大口叩ける立場にはないんだよ?」

「ッ……私、家畜なんかじゃありません」

「何それ。もしかして自分を1人の人間として見て欲しいとかそんなくだらない事考えてるの?お気楽だねえ。言っただろ、俺は全人類を愛してるんだ。君個人と向き合ってやるつもりはないよ。今の俺にとって君はただの餌でしかないしね」

「……」

「そんな傷ついたような顔するのやめてくれる?俺は事実を言ったまでだけど」

「別に、傷ついてなんかいません。ただ……可哀想だなって」

「……は?可哀想?」


臨也さんは、そこで今日初めて眉を顰める。


「だって、散々人間が好きだと言っておきながら、臨也さんは愛し方を知らないじゃないですか。だから、可哀想です」

「誰かの愛し方なんて人それぞれで違うものだよ。君にとやかく言われる筋合いはない」

「そうかもしれません。でも主観的にはそう見えるんです。
私はお母さんはいなかったけど、お父さんにはちゃんと愛情を注いで貰って生きてきたって自覚はあります。だから私は人の愛し方を知ってるつもりです。そんな私から見ると、臨也さんの愛は愛じゃありません。ただ人間を駒として使いたいだけの独占欲じゃないですか」

「……っは、あははははは!」


突然、臨也さんは大声で笑い出す。
あまりにも唐突だったので、私は臨也さんの変わりようについていけなかった。


「いやー、あはは……想像以上に面白いねなまえちゃん。
独占欲、ね……なるほど、そういう考えもあるんだ」


ひとしきり笑った後、臨也さんは再び私の顔を見る。
彼の顔はいつも以上に上機嫌で、思えば私に向かってこんなに楽しそうな表情を見せるのは初めてなんじゃないかと思った。


「じゃあさ、君が教えてよ。
人間なりの『愛し方』って言うのをさ」

「……え?」


どうしてそうなるんだ。

私は臨也さんが愛し方を知らないと言っただけで、私が臨也さんの事を愛している訳じゃない。
そんな輩に愛を教えろだなんて無理に決まっている。

その旨を伝えると、臨也さんは「ふーん」とつまらなそうに言ってから、


「じゃあ、君は愛する人ができたら、その人と何をしたいの?」


と聞いてきた。


「……何でそんな事を貴方に話さなきゃいけないんですか」

「別に?興味本位で聞いているだけだよ」

「じゃあ聞かないで下さいよ……」

「良いじゃん。話したって減るモンでもないんだしさ」


聞かせてよ、と言って、臨也さんは私の手と腰を離してソファへと促す。
一瞬躊躇ったものの、吸血される危機は一応免れられたんだし、此処で反抗して臨也さんを怒らせると、今度こそ本当に血を吸われる気がしたので、私はおずおずと彼の横に座り込んだ。


「じゃあ、さっきの質問の答え、聞かせてよ」


有無を言わさぬ口調で話しかけてくる臨也さん。
私は小さく溜息を吐くと、ポツリと言葉を紡ぎ出した。


「……別に、大して特別な事はしなくて良いんですよ。ただ、一緒にいてくれて、手を繋いだり、キスしてくれたり……。
『好き』とか『愛してる』って言ってくれなくても、気持ちが伝わればそれだけで私は充分です」

「……」

「それだけで、良いんですよ」


何コレ凄い恥ずかしいんだけど。
両手で顔を隠そうとすると、冷んやりとした何かがそれを阻んだ。



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