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3.
目の前でニコニコ笑っている得体のしれない男性に、私は最早恐怖しか湧かない。
私はちゃんと確かめた筈だ。この人の心拍数がなかった事を。
なのに……どうして?
「そんな事よりさ、」
その人は私の上から退くと、ソファから立ち上がった。
私も起き上がるものの、ソファには未だに座り込んだままの状態だ。
「君、誰?
って言うか、何しに来たの?」
「え?えーと……今日から此処にお世話になるみょうじですけど……父から聞いてませんか?」
「……聞いてないけど」
その人は怪訝そうに私を見る。
私は私で驚いた。
住所は間違って無かった筈なのに……
「あ……その、きっと父の手違いだと思うので……失礼します!」
何はともあれ好都合。
こんな得体のしれない男性にお世話になるなんて私としても御免だ。
住所に間違いはないけれど、相手が私の事情を知らないなら手違いという事にしてしまおう。
立ち上がってからその男性にクルリと背を向けると、後ろから「待って」と言う制止の声が掛かり手首を掴まれる。
「ちゃんと確認とるからさ、もう少し待ってよ」
「……」
私は渋々ソファに座り直した。
男性は私が座ったのを確認すると、デスクに置いてあるパソコンや携帯を調べ始める。
少ししてから、その人は私の所に戻ってくるなり結果を言った。
「君のお父さんから留守電が入ってたみたい。
間違いなさそうだね」
その人は私にニコリと笑みを浮かべたが、私は絶望感にうちひしがれていた。
「取り敢えず、自己紹介をしようか。俺は折原臨也。下の名前で気安く呼んでくれて良いよ」
「……臨也、さん?」
「そうそう」
オリハライザヤ……変な名前。
私も自己紹介をしようと口を開きかけるが、その前に臨也さんが話し出した。
「君の名前はお父さんから聞いてるよ。みょうじなまえちゃん、だよね?」
「その通り、です」
「なら良かった。
ねえなまえちゃん、何か俺に聞きたい事があるんじゃないの?」
「!」
いきなり核心を突かれ、私は目を見開く。
臨也さんの赤い瞳は全てを見透かしているようで、見つめ返すのがとても怖かった。
「……臨也さんは……臨也さんは、人間……ですか?」
「……」
臨也さんは俯いたまま答えない。
暫しの沈黙が、私と彼の間を通り抜ける。
ドクン、ドクン。
自分でも音が解る位、心臓は五月蝿く鳴り響いていた。