12.

ヴェルヌの拳を軽々と避け、爽子は下から上に向かって拳を突き上げる。
彼はそれを仰け反って避けると、後ろに飛んで距離を置いた。

直ぐ様、乾いた銃声が3発鳴り響く。


「っ、私は武器を持っていないのに、それは公平(フェア)じゃ無いンじゃない?」

「僕は狙撃は得意だけど、接近戦は嫌いなんだよ。それに生憎、僕は闘いに公平さを求めない性格なんでね」

「性格悪いですね、貴方」

「あはは、褒めても何も出ないよ」

「褒めて無い、ですっ!」


爽子はそう云うと、床に転がっていた鉄パイプを持ってヴェルヌに突進して行く。
飛んでくる銃弾を避け、或いはパイプで弾き飛ばし、彼女は彼の腹に蹴りを入れた。


「……はは、中々体術に長けているんだね。見た目からは全然想像が付かないなぁ」

「褒めても何も出ませんよ」

「うわ、君ってホント可愛くない」


ヴェルヌは呆れたようにそう云って笑う。


「でも君も、全くの無傷って訳じゃ無さそうだね。僕の弾、何個か掠ったでしょ?」

「……」


爽子は何も答えなかったが、頬や腹から血が出ている事から、ヴェルヌの云っている事が事実だというのは明らかだった。


「ていうか、そろそろお互い本気出さない?異能力者同士で闘ってるのに、僕達全く異能を使って無いじゃん」

「……私は、余程の事が無い限り、異能力は使わない」

「……へぇ。じゃあ、君が異能力を使いたくなるように僕が誘導すれば善い訳だ」


ニヤリ、と彼が笑う。
爽子はゴクリと唾を飲み込んだ。

次の瞬間。
両手に拳銃を持った彼は、鉛玉の雨を彼女に浴びせ掛ける。
爽子は咄嗟にドラム缶の陰に隠れてそれをやり過ごそうとした。


「−異能力、《地底旅行》」


ヴェルヌが初めて異能力を発動した。
と同時に、爽子が立っている処の地面が高く盛り上がり、姿が顕わになって仕舞う。


「僕の異能力は地面を操るものなんだ。地面を盛り上げたり割ったりできる。でもね、僕の異能(ちから)はそれだけじゃないんだ」


パチン、と彼が指を鳴らす。
勢いよく地面が割れ、其処から熱いマグマが勢いよく飛び出して来た。


「あはは、凄いでしょ?こんなのに触ったら即死だね」

「……前言撤回します。貴方には異能力を使って闘う程の価値も無い」

「……は?」


ヴェルヌは初めて貼り付けたような笑みを消して眉を顰めた。


「異能力は己の力を誇示する為の道具じゃない。大切な何か−自分でも他人でも、国でも家族でも何でもいい、其れを守る為にあるんじゃないですか?」

「はっ!元暗殺者の君が何を云ってるの?その能力(ちから)で何十、何百人も人を殺めてきた癖に」

「……確かに私は今迄多くの人の命を奪って来ました。でも、でも私は、好きで此の異能力を使った事だなんて一度も無い!」

「五月蝿いよ」


パンッ。


「ッ、ぐぅっ」


爽子は脇腹を押さえてその場に蹲った。


「『好きで使った事なんて一度も無い』?だから何だよ。好きだろうが嫌いだろうが君が誰かを傷つける為に異能力を使った事は確かだろう?」

「そう、ですね。でも、人は、変われるんです。私は、此の能力(ちから)を、傷つける為に使いたく無くて、自分が変わる為に、組合を抜け出し……うぁっ!?」


爽子が立っている部分の地面が突如として割れ、彼女は数メートル下に叩きつけられた。


「……本当、訳が判らない。如何してフランシスさんは、アンタみたいな奴に執着してるンだか」


爽子を見下ろすヴェルヌの瞳には、先程迄は見られなかった殺気が渦巻いていて。


「もう佳い。君、飽きた。骨の髄まで焼き尽くしてあげる」

「!」


爽子が目を見開いた時だった。


「爽!!」


聞き覚えのある声と共に、ドラム缶の中に入った……え、ドラム缶?

唖然として爽子が見ていると、(太宰の入った)ドラム缶がヴェルヌに直撃した。


「がっ!?」


ヴェルヌが床に転がり、起き上がろうとした処で、太宰がヴェルヌの肩を掴み、もう片手で頸に短刀を宛う。


「悪ィな爽。遅くなった」


一方中也は、爽子が倒れている処まで降りてくると、彼女を抱き上げて異能力で太宰の隣にふわりと降り立った。


「太宰さんと……中也?如何して此処に……」

「其の説明は後だ。今は此奴の処分が先だろ」


中也はバキバキと指を鳴らす。


「其れにしても中也も酷いよねえ。幾ら私が異能力を使えない体質だからと云って、私を手っ取り早く此処まで飛ばすのにドラム缶の中に入れるだなんて」

「あぁ?そうしろっつったのは手前だろうが!」

「あれ?そうだったっけ?」


ふふふ、と太宰は笑う。


「……巫山戯るな」


突如低い声が響いて、太宰は鳩尾を殴られ後ろに飛ばされた。
大人しく捕まっていたヴェルヌが抜け出したのだ。


「君達が噂の『双黒』?笑わせて呉れるね。黒社会最悪の二人組(コンビ)がこんな低レベルだなんて、日本の異能力者集団は大した事無いな」

「……へェ?」


ヴェルヌの言葉に、中也はそう云って口元を歪めた。


「おい太宰」

「……はぁ。判ってるって。爽、」


太宰はくるりと後ろを振り向くと、彼女の方を見てにこりと笑みを浮かべた。


「其処で見てて」

「……うん」


爽子は太宰と中也の背中を見つめる。
其の後ろ姿は、今迄見たどんな異能力者達よりも美しくて、爽子の目には眩しく映った。


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