13.

「で、如何する太宰」

「んー……『造花の嘘』は?」

「あー……まァ悪く無ェ」


中也が頷くと、「じゃ、其れで宜しく」と太宰は小さく笑った。
作戦暗号(コード)の確認をしていたのだろう。
中也がヴェルヌに飛びかかると、ヴェルヌは異能力を発動させて中也と自分との間に大きく地面を盛り上げて壁を作った。


「ふむ、地を操る系の異能力者だね」

「チッ、初っぱなから防御壁発動かよ」


中也は拳に重力を込めると、打拳(パンチ)1つで壁を粉々に粉砕した。


「……太宰さん、中也の異能力って?」

「中也は触れたものの重力を操る異能力の持ち主だよ。勿論、自分自身の重力も自在に操る事が出来る」

「へえ……」

「おいサボってンじゃねェぞ糞鯖ァ!」

中也は太宰に向かってそう怒鳴り乍ら重力を込めてヴェルヌを蹴り上げた。
その余りの勢いに、ヴェルヌは壁にのめり込んでしまう。


「やだなァサボってなンかいないよ。ちゃんと此処で敵の異能力の分析をしていたじゃないか」

「ほざけ。じゃあ其の分析した内容とやらを云ってみろよ」

「うん。恐らく彼の異能力の欠点は、其処迄広い範囲では能力を使えないって事だろうね。せいぜい自分の周りの半径数米(メートル)以内って処かな」

「あぁ?何でそう思ったンだよ?」

「だって、あれだけの破壊力を持つ異能なのに、此の廃工場の損傷は余り酷くは無いだろう?」

「……確かに」


爽子は頷いて辺りを見回した。
彼の破壊力ならば床の全面を砕いていても可笑しくは無い筈だが、派手に壊れているのは一部分のみである。


「……はは、流石はポートマフィアの最年少幹部になっただけの事はあるね。僕の異能力の弱点を直ぐに見抜いて仕舞っただなんて」


ヴェルヌは弱々しくそう云って小さく笑った。
だが次の瞬間、懐から取り出した拳銃を真っ直ぐに太宰に向かって構える。


「太宰!」「太宰さん!」


中也と爽子がそう叫んだのと同時に、ヴェルヌは容赦無く引き金を引いた。


「確かに僕の異能力は近距離戦闘に特化していて遠距離からの攻撃には不向きだ。だからこそ僕は射撃の腕を磨いたんだ」


ニコリ、とヴェルヌが笑う。
だが彼は直ぐに其の顔から笑みを消す事となった。
と云うのも、銃弾が全て綺麗に切断され、床に落ちていたからだ。


「……異能力は使わないんじゃなかったっけ?爽ちゃん」

「誰かを見殺しにする位なら、自分に与えられた能力(ちから)で誰かを救う方が余っ程善い」

「ふぅん……吐き気がする位素敵な正論だ」


ヴェルヌはギリリと歯を食い縛った。
一方の爽子は、太宰の元に駆け寄り声を掛ける。


「大丈夫ですか、太宰さん」

「うん、有り難う。お陰でまた死にそびれたよ」


−そうだ此の人確か生粋の自殺嗜好家(マニア)だった。

頭を抱える爽子の脇で、中也は「莫迦か手前は」と云って太宰の後頭部を思いきり叩いた。


「『異能力無効化』と『重力操作』……はは、矢っ張り敵わないね。僕じゃ勝てる気がしないよ」


降参だ、と云ってヴェルヌは両手を上げる。


「……は?」

「……降参だァ?」


ヴェルヌの言葉を聞いた瞬間、太宰と中也の纏う雰囲気が変わった。
2人から沸き上がるのは−凄まじい、殺気。


「ねえ君、それ、本気で云ってるの?」


太宰が一歩、ヴェルヌに詰め寄る。


「はっ、だとしたら笑えねェ冗談だなァ、おい。俺達に喧嘩売った時点で、手前の運命は決まったようなモンなんだよ」


中也が太宰の隣に並んだ。

ヴェルヌは目を見開いてゆっくり後退するも、直ぐに背中が壁に当たって仕舞う。


「手前は、」

「此処で、」

「「死ね」」


太宰が拳銃を、中也が短刀を構えた時だった。


「待って!」


爽子がヴェルヌの前に立ちはだかり、2人を阻む。


「もう佳いよ2人共。こんな奴態々殺す価値も無い。もう充分だよ」

「退け、爽」

「厭だ」

「爽、退いて」

「退かない」

「……中也」


太宰が中也の名を呼ぶと、彼は黙って頷いて爽子に一歩近づいた。


「来ないで」


途端に爽子は自分の懐から銃を取り出し、中也に向かって其れを構える。


「……何でそンな奴庇うンだよ」

「此れは私の問題だから。助けて呉れた事に関しては感謝してるけど、中也と太宰さんには其処迄干渉する権利は無いよ」

「嘘吐くな。本当は只自分の目の前で人が死ぬのを見たく無いだけだろ」

「!」


中也の指摘に、爽子は小さく息を呑んだ。
爽子の反応を見て、中也は呆れたように肩を竦める。


「元暗殺者が甘えた事抜かしてンじゃねぇよ。此処は戦場だ。そンなだと足元掬われて死ぬ羽目になるぞ」

「その通り」


突然背後から聞こえてきた声に、爽子は対処し切れなかった。
後ろから爽子を羽交い締めにしたヴェルヌは、自分達と中也、太宰の目の前に大きな地割れを創る。


「君って何処迄お人好しなの?熟(つくづく)呆れちゃう」


そう云って彼は、地面の割れ目に爽子を突き飛ばした。


「爽!」


中也が躊躇いも無く割れ目に飛び込む。


「掛かった」


ヴェルヌは其れを見てにやりと笑った。
次の瞬間、割れていた地面が一気に元に戻っていく。


「どう?僕のお気に入りの技。異能を使った生き埋め地獄だよ。最も手っ取り早く最も効率的で……尚且つ最も被害が少ない殺し方だ」

「……そうかい」

「わあ、珍しいモノを見られたよ。ポートマフィアの最年少幹部が俯いて落胆してる処だなんてね!」

「……」


太宰は暫く何も云わなかった。
だが次第に肩を震わせ、クスクスと忍び笑いをし、最終的には腹を抱えて笑い始める。

−何故、笑っている?

ヴェルヌはぎょっとして太宰を見つめた。


「いやあ失敬失敬。君の余りの愚かさに呆れを通り越して笑いが込み上げて仕舞ってね」

「はぁ?」

「判らないのかい?君は私と中也を本気で怒らせた。其れが何を意味するのか」


太宰がそう云い終わるや否や、塞いだ筈の床が内側から割れた。


「汝、陰鬱なる汚濁の許容よ」

「更めてわれを目覚ますことなかれ」


中から出てきたのは、腕に赤い刻印を浮かび上がらせた中也と、彼の背中にしがみつく爽子の姿だった。


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