明日に向けて

   
 小さな雨粒が窓ガラスをノックする音をBGMに聞きながらキーボードの上で指を弾かせながら昨日受け取ってきた資料を見ながら先月遭遇した、というよりも巻き込まれた事件に関しての報告書をまとめていた。


『……り返し、お伝えします。地下鉄ホームで起きた脱線事故の影響で、周辺ダイヤに大幅な遅れが……』


 テレビから流れてきたニュースを聞いてキーボートを弾いていた指が動きを止めた。ジッとニュースを見ていればそういえば先月、今日みたいに雨が降っている時にスクランブル交差点で大きな事故があったことをふと思い出した。

 先月は色々と忙しかったという事もあり、身近に起きた事故だったというのにすっかり忘れていた。

 その事故では重症者が複数名出たものの死者は出なかったことに奇跡だとテレビで騒がれていた。

 そのあとすぐにKIDの予告状や精神暴走事故などといったものでなくなってしまったが。


「……確か、未だに意識が戻ってない人もいるんだっけ」


 事故に巻き込まれたのは可哀想だとは思うが、自分には関係ないと思った葵依は冷めきった珈琲を飲んでからパソコンに視線を戻した。


『この事故に伴い、渋谷駅周辺に交通規制が敷かれ、渋滞に拍車がかかることが予想されます』


 アナウンサーの声と雨の音を聞きながら明日から来るという来栖暁監視対象にどうやって接触しようかな、と考えた。

 学校にいる協力者がくれた情報によると彼とは同じクラスではないらしく、クラスメイトという接点は無くなった。のであれば一人でいる所に興味本位で声を掛けるのが妥当だろうか?

 しかし、警戒される可能性が高いと頭の中でそれに×を付ける。

 それからもあーだこーだと考えながら報告書を作る葵依はそのまま朝を迎えてしまい、いい案が浮かばなかったことと全く寝れなかったことに対してう゛あー!!と奇声を上げながら頭を抱えた。