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 この危機的状況 一体私には何ができる。

 この子が襲われているのは明らかだ。人を呼ぶ、これが一番妥当な考えかと思うが、しかしそれは叶わない。
 周りは住宅街と言っても空アパートばかり。思いっきり叫んでも誰も来ない。
手元にはスマホがあるが……助けを呼ぶ行動なんてしたら即座に襲われるに決まっている。
 水へと変化したそれはゆらゆらとうごめいている。隙を逃さないためなのか知らないが、変な動きでも見せたら襲ってくる雰囲気を醸し出している。
 とにかく敵の狙いはこの子。どうにかして逃さなければならない

 辺りにゴミ捨て場があるのを思い出し、即座に行動に移した。子供をしっかりと抱きしめ、その場からゴミ捨て場に突っ込んだ

「何をしてるンだ!!」

 敵はゴミに突っ込むなんて考えていなかったのか、驚いている。当たり前だ 自らゴミへ突っ込むやつなんて私以外いるだろうか。
 ゴミの中となればもう私の独壇場。
 どんどんゴミを食べる。体の中に取り込むことが大切だ。子供は怖くて必死に私にしがみついているだけなのであとは楽だ。

ゴミ壁ダストウォール!」
「なに」

 ゴミで壁を作り、時間を稼ぐ。
敵を倒そうなんて思わない。ただ人を呼べる時間をつくるだけだ

 そのあと私は子供を抱きしめ、思いっきり走った。ゴミを吸収しなければいけないので、少し離れたゴミ捨てボックスの中に入り込んだ。
 狭かったのでその分ゴミを食べ、スマホで連絡を取る。
 警察にかけ、すぐにヒーローが向かう。その場で待機と言われた

 安心感を覚えるのは、まだ早かった


 グォゴゴゴゴ、ピトッピチャッ


 変形している音が聞こえた。するといきなりゴミ捨てボックスの扉が開き、首を掴まれ、思いっきり外に投げられた。そいつの姿は人型になっていた。
 子供は抱えていたので、衝撃はなかったようだ。しかし私は背中を強打し、ズクズクとした痛みが背中を襲う。 それを言ったら子供も打撲痕があるわけで、挫けるわけにはいかないと思ってしまう

「こンの、クソガキィァァァァァッ!!!」
「……!げほっ、ゴミ壁ダストウォール!!」

 瞬時に左手腕からゴミを発射し、ゴミ壁を作って 攻撃から身を護る。幼少期から個性の特訓をした甲斐があるってものだ……
 ガズゥンッという音と共にゴミ壁が崩れていった。 くそっ、ゴミの量が足りなかったか……

 左手に違和感を感じたので、左手を見ると 指一本一本が折れているようだった。恐らくゴミを一箇所からとても多く出したので、負荷がかかり過ぎたんだろう。

「ハァッ…ハァッ、……(痛みは少ない……アドレナリンでも出ているというのか)」
「ニゲれねぇぜ……」

 そいつは一歩ずつ近づいてくる。もうすでにゴミ壁を作れる分のゴミも底がつきしまった。もう少し食べておくべきだったと後悔してももう遅い。

 しかし次の瞬間、敵の動きが停止した。ようやくヒーローが到着したようだ。

「大丈夫か!」

 そんな声が聞こえたが、糸が切れたように私は意識を手放した。



ーーー



 目が覚めたら、そこは病院のような場所だった。起き上がろうとしても背中が痛くて起きれなかった。

「目を覚ましたか 塵岡少女」
「……は、ぇ?」

 ……私はNo. 1ヒーローに助けられていたようですね……。安心感より、女の子のことを思い出した私は慌ててオールマイトに問う

「ああの!女の子は一体…」
「ああ、軽い怪我だったのでリカバリーガールが治してくれたよ。君が助けてくれたんだろう?」
「はい……」
「お礼を言わせてくれ。ありがとう。それと、私が遅れてしまい君は怪我を負ってしまった。すまない」
「いえ!オールマイトさんは全く悪くありません……ヒーローにもなれない私が、お礼と謝罪なんて受け取れません」

 そう言うとオールマイトはとても驚いた顔をした。はて、何か気に触るようなこと言っただろうか?


「君はヒーローの素質がある。」
「……え」
「君は幼い子を守り抜いた。それに敵と出会ったというのに二人とも今此処にいる。これは私の推測でもあるんだが、それは塵岡少女 君が冷静に物事を判断し、最善なルートを割り出し実行したからだ」
「……」
「君は誇っていい。将来を私は楽しみにしているよ。それに、どんな個性だろうとヒーローには成れる」
「!!…っ、はいっ!」


 自然と私の目から涙がこぼれ落ちた。私が求めていた、答えて欲しかったことをこの人は言ってくれた。 しかしその後、無理をしたことや個性の件について説教をされた。まぁ、当然のことなのでしっかりと話は聞いた。
 リカバリーガールが来て、治癒をしてもらった。1日入院して、次の日には学校へ登校できた。(兄にはものすごい怒られた)

 どうやら学校の人は誰も知らないようで、安心した。すこし怪我をして病院に行ったなどと適当に答え、過ごした


「ねぇ、希沙 少し変わったね」
「そう?……うん。そうかもね」
「……悩みが消えた感じ!良かった」


 私はこの一件があってからは、雄英高校普通科からヒーロー科を目指すようになった。
 完全に抵抗がなくなったわけではないが、オールマイトとの一件から前向きに捉えるようにした。



ー欲しかった言葉ー



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