苛立ち

『瞳の色近くで見させてもらったよ。じゃあまたね』

最悪だ。まじで最悪だ。気分がとてつもなく悪い。あんな不意打ちにキスされるなんて油断しすぎた。うん。捺もこんな日に来ねぇし。タイミング悪すぎんだろ。オイラは自宅の布団に寝転がって何をするでもなく横になっていた。

ブーブー

スマホのバイブ音が鳴った。画面を見るとサソリの旦那だった。

「もしもし」
「出るの遅ぇよ。いつまで待たせんだ糞ガキ」
「そんなに待たせてないだろ。うん」
「俺の中では1コール以内に出なきゃ遅ぇんだよ」

相変わらず待つのが嫌いな旦那は少し声がイラついていた。まぁいつもの事だからオイラは何も気にせず会話を続ける。

「なんかあったのか?」
「何もねぇよ。ただ、おまえの学校の前通ったら美術部の教室の電気が消えてたからな。いつもならまだやってる時間だったから風邪でも引いたのかと思って電話してやったんだよ」
「あー…風邪は引いてねぇ」

なんだ違うのか。とぶっきらぼうに答えた旦那はすかさず「じゃあどうしたんだよ」と続けた。

「いや、ちょっと色々あったんだよ…うん」
「んだよ、女にでも告られたか?」

どうしてこの人はこう勘が鋭いんだ。告られた…とは違うか。告られたってだけならどんなによかったか…。

「まぁ、そんなとこかな」
「なんだ、あんま嬉しそうじゃねーな」

旦那は経験豊富だからな。言えねぇ。まさかこの歳になってファーストキスもまだだったのに呆気なく奪われてショック受けてるなんて言えねぇ。うん。

「ほぉ。ファーストキスだったのか」
「え?!な、なんで…っ」
「おまえ今声に出てたぞ」

やっべー。疲れか?声に出てたとかダセぇ…。まじでダセぇ。よりにもよって旦那に知られるとかまじでついてねぇ。

「それでへこんでるっつー事は、他にしたい奴がいたって事か」
「べ、別にそういうんじゃねぇよ」
「素直じゃねーな。ま、おまえが同意してねぇキスならカウントしなくていいだろ。本当にしてぇ奴としろ」
「だから、…そういうんじゃねーって!うん!!」

もうきっとバレバレだろうな。でも、旦那の言葉でさっきよりは気分がマシになってきたな。

「…旦那、ありがとな」
「素直すぎて気持ちわりぃな。…まーいい。ちゃんと筆記もやれよ。じゃーな」

用件すましてさっさと切っちまうとこは相変わらずだな。旦那のおかげで少し気分が晴れたな。筆記試験の勉強でもするかな。布団から起き上がり、オイラは試験用の問題集を開いた。

ブーブー

「ん?」

スマホのバイブ音が再び鳴る。また旦那か?そう思って画面を見る。ん?捺から?今日来なかった理由かと思い、LINEを開く。シンプルなメッセージがただ一つ書いてあった。

『デイダラ彼女できたの?』

このメッセージで、オイラは捺が今日部室に来なかった理由がわかった。