美鈴の好きな人

「今日捺の家行ってもいい?」
「…なんで?」

お昼休み。いつもどーりお弁当を食べていると、美鈴が言う。

「…あいつに会いたいからでしょ」

前にもこうやって家に来たいとせがまれたことがあった。理由はあいつに会いたいからだろう。

「ねー!お願い捺!捺がデイダラ先輩の事嫌いなのは分かってるんだけど、どうしても好きなの!!」

お願い!と頭の上で両手をすり合わせた美鈴。一度家に上がってもらって会えなかったら諦めるだろう。幸い、今日は陶芸教室のバイトの日だ。帰ってくるのは遅い。

「…わかったよ。今日家おいで」
「!やった〜〜!!」

私の返答に美鈴はガッツポーズで喜んだ。相手があいつでなければ、全力で応援も協力もするのにな。
上機嫌で話す美鈴を見ながら私はそんなことを考えていた。

「デイダラ先輩に会えるかもだから化粧ちゃんとして可愛くしなきゃ〜」
「美鈴はそのままで可愛いよ」
「捺は優しいな〜。捺に褒められるの好き〜」

ズキっ
ーお姉ちゃんに褒められるの好き!ー

昔の記憶がリンクする。生まれ変わっても、美鈴は言うこと変わらないな。

(今度こそ、守るからね)

「捺が好きな人できたら私全力で協力するからね!」
「ありがとう。…でも、今は恋愛はいいかな〜」

どこにでもいる女子高生と変わらない会話を楽しむ自分にどこかホッとする。こうやって話していると、前世の記憶から解放される気がする。
会話をおえて、授業がはじまり、あっという間に帰りの時間になった。




「お邪魔しまーす!」
「あら、美鈴ちゃん。久しぶりね〜」

美鈴を家に連れて行くと、ママが嬉しそうな顔で出迎えた。ママと美鈴は学校の学祭に来た時に会っているので、会うのは2回目だ。

「捺ママ〜、久しぶりです」
「ゆっくりしてってね。捺、ジュース持っていきなさい」

ママからジュースを渡され、二階の私の部屋へ移動する。美鈴は家の中をキョロキョロしながら後ろをついてきた。

ガチャッ

「ここが私の部屋。適当にくつろいでいいよ」
「捺の部屋初めてきた…」
「そうだね、私も友達入れるの初めてだよ」
「え!そうなんだ!なんだか嬉しい」

なんだそれ。と笑って答えると、私はママからもらったジュースをコップに注いだ。学校でのたわいもない話や、授業の話をたくさんした。私も美鈴も時間を忘れて楽しんでいた。


ふと時計を見ると、時刻は夜の10時を回っていた。

「やば!もうこんな時間…はやいな〜」
「美鈴、帰り送るよ。危ないし」
「捺だって女の子だから危ないよ。大丈夫!タクシー呼ぶから」

そう言って美鈴はカバンからスマホを取り出した。帰る支度をした美鈴と玄関に向かう。

「捺、今日はありがとうね。楽しかった。デイダラ先輩とか関係なくまた来たいなー」
「うん、またおいで。大丈夫な時は大丈夫だから」
「えへへ〜。よし、タクシー呼ぼっかな」

美鈴がスマホで電話をかけようとした瞬間だった。

ガチャッ

「…あ!!」
「…え…」
「ただい…ん?客か?うん」

扉を開けたのはやつだった。なんで、いつもなら陶芸教室のバイトがある時は夜中に帰ってくるのに…。
困惑する私をよそに、美鈴の表情は緩んでいた。

「で、で、デイダラ先輩…」
「オイラを知ってんのか。…ん?…おまえ…」

美鈴の顔をまじまじと見て、何かに気づいたように私の顔をチラ見してきた。
目があうと、私はやつをにらみつけた。

「あっ!あの、私、美鈴って言います。いつも捺にはお世話になってます…!きょ、今日は遅い時間までお邪魔してしまってすいません…!」
「美鈴、そんな謝らなくていいよ。何もしてないんだし」

必死に謝る美鈴をなだめると、私は自分のスマホでタクシーに電話をかけようとした。すると、

「オイラ送っていこうか?うん?」
「!え、デイダラ先輩が…ですか?」
「オイラしかいねーだろ。その方が金もかかんねーだろ?」

冗談じゃない。この男に安心して美鈴を任せられる訳がない。

「送らなくても「お願いします!!」…?!美鈴!」

私が断ろうとすると美鈴の言葉が遮った。美鈴は口パクでお願いと私に訴えた。

「決まりだな。行くか、うん」
「はっ、はい。捺!また連絡するね!」

バタんっ

一緒に帰れることが余程嬉しかったのか、美鈴は私の言葉を押し切っていった。私が玄関で立ち尽くしていると、後ろからママがやってきた。

「あら、お兄ちゃんが美鈴ちゃん送っていったの?」
「…うん…」
「よかったわね〜。夜だと女の子だけだと心配だしね」

ママの言葉に私は何も返すことができなかった。ただ私は美鈴の連絡を待つことしかできなかった。