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 クレアが大食堂で朝食をとっている頃――グリムと雑用係を任されたユウは、今まさに新たな騒動に巻き込まれようとしていた。
 グレート・セブンを知らないユウたちが石像の前で首を傾げていたところ、エースと名乗る生徒が親切に説明してくれたのだが、それは純粋な親切心からではないようだった。

「プッ……あははっ! もう堪えるの無理だ! あはははは! なあ、お前ら昨日入学式で暴れてた奴らだろ? 闇の鏡に呼ばれたのに魔法が使えない奴と、お呼びじゃないのに乱入してきたモンスター。やー、入学式では笑い堪えるの必死だったわ」

 突然大声で馬鹿にされて、グリムは怒り、ユウは混乱した。
 ええ…この状況どうしよう――ユウがオロオロしている間にグリムが炎を吹き出し、エースは風の魔法でそれを逸らす、魔法の撃ち合いになっていた。魔法を使えないユウが止めに入れるはずもなく。
 いつの間にか周りは野次馬の生徒たちが囲んでおり、喧嘩を煽る声を上げていた。

「くらえ!」
「そんなん風で矛先を変えてやれば……そらっ! あ゛ーっ! やべっ! ハートの女王の石像が黒焦げに!」
「ああ……まずい……」

 責任を押し付けるように言い合うグリムたちを見ながらユウがひくりと口の端を引き攣らせたそのとき、肩をいからせてクロウリーが現れた。

「こらー!!! なんの騒ぎです!」
「げっ、学園長……」
「アイツ、アイノムチで縛ってくるんだゾ! 逃げろっ」
「いでーっ!」
「ふぎゃーっ! 2日連続でいてぇんだゾーー!」
「愛の鞭です! この私から逃げようなんて100年早いんですよ!」

 瞬く間に捕まったグリムとエースは涙目になっている。相当痛いらしい。

「先ほど『騒ぎを起こすな』と言ったばかりのはずですが? しかもグレート・セブンの石像を黒焦げにするなんて! よほど退学にさせられたいと見えます」
「ちょっ! それは勘弁!」
「ユウくんも、これではグリムくんを監督しているとは言えませんよ」
「ごめんなさい、一応止めたんですが…」

 ユウが深々と頭を下げると、クロウリーが厳しい声で言った。

「ではトラッポラくん。グリムくん。そしてユウくん。3人には罰として、窓拭き掃除100枚の刑を命じます!」

 グリムとエースが抗議したが、あえなく却下される。連帯責任だと理解はしていても、ユウも肩を落とさずにはいられなかった。
 放課後、大食堂に集合――心の中でメモを取り、深い深い溜息を吐き出した。


 ▼△


 入学初日を無事に終えたクレアは、席が隣になった同寮生――ジャックと話ができたのが嬉しくて鼻歌混じりに廊下を歩いていた。
 背が高いので年上かと思えばジャックも1年生で、式典での様子を見ていたからか「昨日はよく眠れたか」などと聞かれた。クレアの中で彼の肩書きは、すでに【友達】になっていた。向こうはどうだか知らないが。

「食堂に行ったら何かおやつあるかなぁ」
「オレ購買行ってみたかったんだけど」
「ああ……でもここまで来たら食堂のほうが早いから見てみようよ」
「ノア、周りの生徒がすごくこっち見てる。上半身だけ実体化するのやめなさいよ」
「はいはい、クロエもな」

 何もない空間から突然2人が顔を出す様子は、1日かけて見慣れてきた一部の同寮生以外にとっては少々心臓に悪かった。しばらくの間はギョッとした顔でじろじろ見られるだろうが、おやつに何を食べるかで頭がいっぱいのクレアはまるで気にしていない。

「………あ」
「? どうしたの、ノア」
「なーんか嫌な予感」
「……ノアも? 私もよ。何かしら」
「え?」

 ノアが渋い顔で答えると、クロエも同意する。クレアが大食堂に入ろうとすると、目の前を見覚えのある毛玉――グリムが横切っていった。

「あれは……」
「へっへっへ! 捕まえられるもんなら捕まえてみろ〜だゾ!」

 さらにそれを追って、3人の男子生徒が駆けていった。1人は昨日の式で見覚えがある、闇の鏡に寮分けされなかった生徒だ。
 何事かと後に続いてみれば、特大のシャンデリアに飛び乗ったグリムに向かって赤毛のほうの男子が投げられそうになっているところだった。

「嫌な予感しかしない……」
「ちょ、ちょっと待って! そのシャンデリアは――」
「よく狙って……いくぞ!」
「ぎえええええ!!」
「ふな゛あああ!!??」
「……あーあ」

 額に手を当てるユウの隣からクレアが止めようとするが、時すでに遅し。赤毛の生徒は思い切り飛ばされ、グリムに突進した。

「シャ、シャンデリアがーーー!!! 何してんのこの人!?」
「……これはとっても怒られるね」
「やっぱり……?」

 勢い余ってシャンデリアごと落ちたグリムたちを見て、クレアが呟く。思わず声を張り上げたユウだけがその呟きに反応して、冷や汗をたらりと流した。投げられた赤毛の生徒は、埃に咽せながら大声を上げている。

「グリムは捕まえたけど、シャンデリアぶっ壊したのが学園長に知れたら……」
「知れたら……なんですって?」
「あ………学園長………」
「あ〜な〜た〜た〜ち〜は〜〜〜ッ、一体何をしているんですか!!!!」

 生まれて初めて聞くようなクロウリーの大激怒モードの怒鳴り声でびくりと飛び上がったクレアは、ぽふんと音を立てて仔猫の姿になってしまい、思わず必死に隣にいたユウに飛び乗った。
 ユウは驚きながらも仔猫が落ちないように抱え直してやりながら、あのシャンデリアがいかに貴重な物だったかを語って聞かせるクロウリーの声を聞いていた。

「……そうだ。1つだけ。1つだけ、シャンデリアを直す方法があるかもしれません」
「「えっ!?」」

 男子生徒2人が声を上げると、クロウリーは顎に手を当てて考えるように呟いた。

「このシャンデリアに使われた魔法石は、ドワーフ鉱山で採掘されたもの。同じ性質を持つ魔法石が手に入れば、修理も可能かもしれません」
「僕、魔法石を取りに行きます! 行かせてください!」

 もう魔法石は残っていないかもしれないと説明されても、紺青色の髪の男子の意志は固く、ついにクロウリーも頷いた。
 鉱山へは鏡の間のゲートを使って移動するようで、ユウの心は不安でいっぱいだった。

「闇の鏡よ! 僕たちをドワーフ鉱山へ導きたまえ!」

 ぎゅっと目を閉じたユウが次に目を開いたときには、彼らはドワーフ鉱山の静寂の森に立っていた。それぞれが辺りを見回すと、気味の悪い暗い森が広がっており、人の気配はしないが小屋も見えた。

「………あ゛」
「ん?」
「? どうした」
「なんだゾ」

 蒼い顔で腕の中を見つめるユウを、とりあえず小屋に向かって歩き出そうとしていた皆が振り返る。そしてユウの視線を辿ると、全員が顔を顰めた。

「お、おい……まさかそれ……」
「確か学園長の娘の……」
「つ、連れてきてしまった……」
「どーすんだよ!?」

 ユウの腕の中で目を真ん丸に開いてぷるぷると震えるクレアが今思うことといえば、"帰ったら絶対怒られる"、それだけであった。

 その頃クロウリーは――。

「そういえばユウくんの隣にもう1人生徒がいた気がしたんですが……まあいいか」

 と、学園長室で書類を整理しながら独り言を漏らしていたのだった。


 

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