06
保護者に叱られるのを恐れて見つからないよう仔猫になったクレアをユウがポケットに押し込み、3人と2匹が学校へ戻ると、きょとんとしたクロウリーが出迎えた。
彼はまさか本当にドワーフ鉱山から魔法石を持ち帰るとは思わなかったようで、もう退学手続きを進めていたらしい。
グリムが文句を言うと、ドワーフ鉱山のモンスターに興味を持ったクロウリーは、学園長室で詳しく話すよう求めた。
「ほほぅ。炭鉱に住み着いた謎のモンスター。それを4人で協力して倒し、魔法石を手に入れて学園に戻ってきたと?」
「や、協力したっつーか……」
「たまたま目的が一致したというか……」
「お…おお……おおお……………!!! お〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
大声で泣き始めるクロウリーに、ユウたちはもちろん、ポケットの中で話を聞いていたクレアもぎょっとした。彼のこれほどの大泣きを見たのは、生まれて初めて父の日に似顔絵を描いて渡した日以来だった。
「この私が学園長を務めて早ン十年……ナイトレイブンカレッジ生同士が手と手を取り合って敵に立ち向かい、打ち勝つ日がくるなんて!」
それを聞いたエースとデュースが手を取り合ってはいないと反論したが、おいおいと泣くクロウリーには全く聞こえていない。
「私は今、猛烈に感動しています。今回の件で確信しました。ユウくん。貴方には間違いなく猛獣使い的才能がある!」
「猛獣使い!? ど、どんな才能…!?」
思わず一歩引いたユウを気にすることなく、クロウリーは先を続ける。
「ナイトレイブンカレッジの生徒たちはみな、闇の鏡に選ばれた優秀な魔法士の卵です。しかし、優秀がゆえにプライドが高く、我も強く、他者と協力しようという考えを微塵も持たない、個人主義かつ自己中心的な者が多い」
「ほとんどいいこと言ってねーんだゾ」
グリムが半目で呟くが、クロウリーはびしりとユウを指した。
「貴方は魔法が使えない。ですが、おそらく使えないからこそ、魔法を使える者同士をこうして協力させることができた。きっと貴方のような平々凡々な普通の人間こそが、この学園には必要だったのです!」
「全然いいこと言ってなくね!?」
「ユウくん。貴方は間違いなく、この学園の未来に必要な人材となるでしょう。私の教育者のカンがそう言っています」
苦笑いしかできないユウに向き直ったクロウリーが、今度こそ真剣な顔をした。
「トラッポラくん、スペードくん。2人の退学を免除するとともに――ユウくん。貴方に、ナイトレイブンカレッジの生徒として学園に通う資格を与えます!」
「「「えぇっ!?」」」
「せ、生徒として!? 魔法が使えないのにいいんですか?」
「ええ。なんせ私、とびきり優しいので」
驚くユウに頷いたクロウリーは、前例のない魔法が使えない生徒のためにと、グリムを呼んだ。
「君は今日、魔法士として十分な才能を持っていることを私に証明しました。よって、ユウくんと2人で1人の生徒として、ナイトレイブンカレッジの在籍を認めます」
「ふな゛っ!」
昨日のような騒ぎを二度と起こさないことを条件に、雑用係としてでなく生徒として学園に通えることになったグリムは、目を潤ませてユウを見た。
「ふな……ふなぁ……ユウ、オレ様……」
「よかったね、今日から一緒に頑張ろう」
「ふなぁ〜〜〜!! やったんだゾ!!」
特別カスタムの魔法石の首輪も手に入れたグリムは、嬉しそうに飛び跳ねている。ユウがグリムの監督を任されると、エースが面白そうに笑った。
「あはっ! すげーじゃん、お前。入学したばっかで、もう監督生になっちゃったわけ?」
「なるほど。お前たちの寮に寮生は2人だけなのか……。つまり、学園長にグリムの監督を任されたユウが監督生ってことになるんだな」
「プッ……前代未聞なんじゃねーの? 魔法が使えない監督生なんてさ。いいね、クールじゃん。魔法が使えない監督生!」
「はは、ちょっと自信はないけど……頑張ります!」
「ドワーフ鉱山で見せた気合いはどうした? 頑張れよ、監督生どの」
監督生というユウの肩書きを気に入ったらしいクロウリーは、さらにユウに特別な魔法がかけられたゴーストカメラというアイテムまで手渡した。
それなりに古い魔法道具のようで、被写体の姿だけでなく魂の一部――『
「ユウくん。貴方はこのカメラでグリムくんや他の生徒たちを撮影し、学園生活の記録を残してください」
「らんららん♪ オレ様がかっこいいところを、じゃんじゃん撮るんだゾ〜♪」
「……特にああいうお調子者が悪さをしたときには、必ず『メモリー』を残しておくこと。私への報告書代わりにうってつけでしょう? 監督生としてしっかり周囲に目を光らせ、記録をとるように」
さっそく撮れと言わんばかりにカメラに近づいてくるグリムをユウが落ち着かせると、時間も遅いので今夜は解散となった。
しかし――。
「ああそうだ、ユウくん」
「はい?」
「……貴方、ポケットに一体何を入れているんです?」
「え゛っ……」
「あ、あ〜〜! じゃ、ユウたちはまだ話があるみたいだし、オレら廊下で待ってっから! おっ先〜!」
「で、では失礼します!」
巻き込まれて怒られる前にさっさと退散したエースとデュースの背を目で追いながら、ユウとグリムは薄情者と叫びたくなった。その上グリムは人間社会に疎いモンスター、つまり――。
「な、何もないんだゾ! 黒い仔猫なんか絶対に入ってねーんだゾ!」
「ちょっ……グリム!!」
「黒い仔猫ですって……?」
――嘘は下手なのである。
こめかみに冷や汗を流すユウに、クロウリーが近づいてくる。終わった――覚悟を決めたユウは、心の中でごめんと謝りながらポケットに手を差し込み、仔猫を取り出した。
「…………みぃ」
「……………………」
ユウの手の上で縮こまる仔猫の首には、オレンジ色の魔法石がきらりと光っている。仔猫の姿になっている間に困らないようにと、人の姿のときと猫の姿のときで形が変わる魔法がかけられた、これもまた特別カスタムのマジカルペンである。それを用意した本人が、気づかないわけもなく。
「貴女は………何をしているんですか!」
「みゃっ」
「ミャッじゃありません! まさかユウくんたちとドワーフ鉱山へ行っていたんじゃないでしょうね!?」
「み、みぃ……」
耳をぺたりと伏せて震えるクレアを両手で包み、ユウは慌てて言った。
「あの! クレアは悪くないんです、グリムたちがシャンデリアを落としたときに騒ぎに巻き込んでしまって……驚いて猫の姿になってしまったクレアを抱えたまま、オレが連れていってしまったんです! その……モンスターと戦うとき、彼女には助けられたんです。ええと、できれば……怒らないであげてください……!」
「………………はぁ……」
頭を抱えて溜息を吐いたクロウリーはユウの手からクレアを掴み上げると、自分の手のひらに置いた。もう怒っていませんよと指で背を撫でると、ぷるぷると震えていたクレアはそろりとクロウリーを見た。
「ユウくん、この子は私が寮へ届けます。どうりでサバナクローの寮生が数人、校内を走り回っていたわけです……クレアを探していたのでしょう」
「みっ!?」
「貴女きっと寮でも叱られるでしょうから、私がこれ以上怒鳴るのはやめておきましょう。私、貴女には特に優しいので」
「…………」
びくりと身を起こしたクレアは、再び手のひらの上でぽてりと項垂れる。同寮生にまで怒られることは予想していなかった。
「さあ、貴方たちも寮へ戻りなさい」
「は、はい……クレア、おやすみ」
「……げ、元気出すんだゾ」
「みぃ…………」
ユウとグリムが学園長室を出た後、クロウリーの手で無事サバナクロー寮へ送り届けられたクレアは、談話室で待っていたらしいラギーとジャック他数人の顔見知りの寮生に囲まれながら、仁王立ちをしたレオナに首の後ろを摘み上げられて震える羽目になった。
「ジャックくんが放課後別れてからクレアを見てないって言うんで……女の子、その上学園長の娘であるキミに何かあったらどんなペナルティを科されるかって……オレら、かなーーーり探し回ったんスけど? そんな潤んだ目してみても無駄ッスよ、こちとらタダ働きの上に骨折り損だったんスから」
今朝は優しかったラギーも、
「お前、おやつ買いに行くから食堂を見てみるって言ってただろうが! それなのに食堂に行ったらシャンデリアが壊れて大惨事になってたし……一体何してたんだ?」
昼間に話したジャックも、怒っている。
「――もちろん、俺たちが納得できる説明をしてくれるんだろうな? クレア」
「み………みぃ…」
「さあ、聞かせてくれよ」
談話室の床に下ろされ、土下座の姿勢で人の姿に戻ったクレアがベッドに入れたのは、日付が変わってからだった。