EAT ME?

※グノSQちゃんなのでつまり中身はアレです



今回のループでの私はグノーシアだった。
私達グノーシアからは明らかに白が確定している人物達をコールドスリープに追い込み、遂に最後の空間転移の時間となった。今回はバグはいない設定だから、ここで守護天使に阻まれずもう1人消す事が出来れば私達グノーシア陣営の完勝となる。
最後の空間転移が始まった瞬間に時が止まる。私は自室から抜け出し脅威となり得そうな人物を消しにかかった。
グノースに接続されたこの状態で触れたその人物の輪郭が膨れ上がり、めくれ上がり、パチンと弾けて消えた。守護天使は他の人物を守ったか、既にいなかったようだ。これでグノーシアの数が半数以上となり、私達の勝利が確定した。
空間転移が完了しグノースからの接続が切れ、時間が再び動き出す。今回のループで鍵は何の情報を求めているのだろうか。残っている同じグノーシアの面子にでも会いに行くか、と廊下を歩いていると特徴的な赤い髪が目に入った。

「あ、リツじゃーん。えへ、これってアタシ達の完勝ってやつ?消すのリツに決めてもらって正解だったZE!」

SQだ。彼女はロジックよりも自分の感情最優先で動く上、分が悪いと察すると同じ陣営でも身内切りをしてくるので敵に回すと厄介この上ない人物なのだが、今回はそんな事も無く上手く議論を進める事が出来た。
さて、鍵は反応するかと思ったが何も反応は無かった。今回は特に何も起こらなそうかな、と思っているとSQが話を続けて来た。
何か特記事項の手掛かりになるかもしれない。次のループが始まるまでは彼女の話に付き合う事にした。

「アタシはこれからレムにゃんの所に行くけどリツはどうするのん?何?一緒に遊ぶ?あ、レムにゃんはあげないからそこは弁えてNE」
「いや……私はいいかな」

以前のループでわかった事だがSQとレムナンは何かしら関わりがあるようで、レムナンが生存している状態でグノーシアの時のSQと対峙するといつも何かしら起こっていた事を思い出す。遊ぶ、と彼女は言っているがきっと碌でもない事に違いない。レムナンは今もこの船に生存しているが、今回も彼を助ける事は出来ず心の中で謝罪してるとずいっとSQが顔を近付けてきた。

「アタシ的にはリツと一緒に楽しむのもアリかなーって思うんだけど。リツ、そういうの疎そうで教え甲斐ありそうで目付けてたんだよNE」
「疎そう……?何が?」
「そりゃイイコトに決まってるじゃん」
「聞くんじゃなかった……」

初めて沙明に会った時のセツの反応の時と同じ感想を抱く。つまりグノーシアSQにとっての『遊ぶ』とはそういう事なのだろう。そういえば沙明もまだこの船に残っていたな、とぼんやり脳の片隅で考える。
これはもしかしてSQの特記事項が開くフラグだろうか。鍵の反応は未だ無く、もう少し待ってみる事にした。

「んじゃあ鈍感なリツにアタシが教えてあげよっかなー。んふ、何か楽しくなってきちゃった。こういうのも偶にはイイかも」
「……一応聞くけど、何?」
「お、リツ興味ある?直球に言うとー、恨まれたり憎まれたりするのってさ、ゾクゾクしない?」

てっきりR18的な話題かと思っていればまさかの返答に思わず顔を顰めた。成る程。以前のループでLeViが教えてくれた『擬知体の私ですら目を背けたくなるような事例』がSQの遊びに関係するようだ。
思ったよりキツい話になりそうだ、と身構えているとSQの綺麗な指先がするりと私の下腹部のあたりを撫で上げた。

「ひっ……!」

予想だにしない行動に身の毛がよだつ。その私の反応すら楽しむようにSQは蠱惑的に笑った。

「憎悪とか籠った目で見られちゃうとさ……ここがキュンってしてね、堪んなくキモチイイの。ていうかリツってもしかしてまだ未通?ありゃ、じゃわかんないかー。勿体無いのう」
「やめて……!あと余計なお世話だから!」

乱暴にSQの手を振り払って距離を取り背を向ける。こんな話もう聞きたくない。早く次のループへ、と願ってもループが始まる兆しを見せない。つまりは鍵はまだこの宇宙に用があるという事だ。
次のループではセツに会える。そしてセツと一緒にループの謎を解き明かす。それだけを考えて今回はやり過ごそう。そうでもしなければ発狂してしまいそうだった。

「アタシはレムにゃんだとしてー、リツは……誰だっけ、あの黒髪の……沙……まぁ何でもいっか。ソイツなんでしょ?」

背後から耳元に囁かれた声に心臓がどくりと嫌な音を立てて跳ね上がる。
それからも心拍数は向上して呼吸が次第に浅くなる。せめてそれは悟られまいと振り向かずにいたが、果たして私のこの行動は正解だったのだろうか。ふふ、と楽しそうな吐息が耳にかかる。足が床に根を張ったように動かない。

「バレてないと思った?ザーンネン、他はどうか知らないけどアタシの目は誤魔化せなかったNE?」
「……何が」
「もう、トボけちゃってー。アタシがレムにゃんに色々シたいようにさ、リツもシたいんでしょ?つまり同士ってコト」
「何の事を言っているのか理解できない。離れて」
「ムム、頑固ですなー。認めちゃった方がキモチイイ事沢山出来るのに」

自分の心の触れて欲しくなかった場所にズブリと手を突っ込まれてぐちゃぐちゃに掻き回されてるような感覚。否、違う。余計な部分まで弄られて自分の知らない事実を抉り出されそうで気持ちが悪い。吐き気が込み上げて咄嗟に口を手で覆う。
じゃらり、と音がしたかと思えば目の前には鎖と、その先に付いた首輪が目に入った。それをSQはこれ見よがしにじゃらじゃらと弄ってみせる。

「首輪着けて飼い慣らして、それでも言う事聞かなかったら色んな方法使って教え込んでアゲルの。その時のレムにゃんの怯えきった顔ったら……やン、今思い出してもゾクゾクしちゃう。
……ね、グノーシアってそういう本能が出やすくなるんでしょ?だったら何も可笑しくないじゃん。アタシ、リツとならWデートも悪くないって思ってるんだZE?寧ろステキじゃん。それともリツはアレコレ教えてもらいたいタイプ?うんうん、イイんじゃない?アイツなら従順にアレコレヤってくれそうだし」

ぐらりと視界がブレる。気分が悪い。気持ちが悪い。ズキズキと頭が痛む。胃酸が込み上げて喉の奥が焼けていく感覚がする。ここまで保っていた理性に隠れた人間を消したいという衝動。その奥底にある、また別の本能が顔を出しそうになる。
しゃがみ込みたいがSQの持つ鎖付きの首輪がそれを許さない。せめて次のループが始まるまではと理性を繋ぎ止めようと上を向いて吐きたい衝動を堪えた。耳元に厭な吐息がまたかかる。

「せっかくここまで生き残ったのに遊ばないとか損だZE?
ね、リツ……アタシと一緒に楽しも?」

その瞬間、私の意識はブラックアウトした。

eclipsissimo