心を失っても尚、思い出すのは彼女の眩しい限りの笑顔だ。
まだ人で会った時、賢者アンセムの城で出会った幼い少女はその見た目にそぐわない立派な研究者で良く城に忍び込んだ俺とリアを見逃してくれた。『あの子』を助け出そうと俺たちが賢者アンセムに弟子入りした時、入れ替わるように魔法使いへと弟子入りしたと聞いたが、たまに城へ来てシーソルトアイスを一緒に食べた。彼女の名前はアルテという。
心を失ってから、ゼムナスから彼女の正体を明かされた。キングダムハーツを守護する使徒、アルテ。そして俺が振るうのは月の力、彼女が俺に与えたプレゼントなのだろうか?心があるのなら、舞い上がっていたかもしれない。
◇
今一度、彼女に真相を確かめるためにホロウバスティオンに降りたった。昔は輝ける庭と言われた程美しかった世界は、今では魔女マレフィセントの統治から免れ、再建中である。
辺りを散策すると、すぐに彼女を見つけた。アルテはそれこそ予知書の乙女と同じく成長してはいないようで、昔と変わらない華奢な体型で握りしめたら崩れそうなほど可愛らしかった。
アルテは花を植えているようで、ご機嫌に鼻歌を歌っている。その姿を見ると、心が無いはずなのに締め付けるような感じがして奥歯を噛み締める。沸々と煮えたぎる感情を抑えられずに回廊を使って彼女の目の前に姿を現す。ぐしゃり。と先ほど彼女が植えていた花はわざとらしく踏みつけ、ゆっくりと被っていたフードを脱ぐ。それを見たアルテは震えてゆっくり俺の方へと視線を上げる。
「あ………アイザ?…アイザなの?」
震える灰色の瞳は、変わった俺の瞳を見て、人間だった頃の名前を呼ぶ。またふつふつと感じて、先ほどの煮えたぎる感情が怒りなんだと思った。勿論、心があれば、の話だが。
「その名を呼ぶな、『キングダムハーツの使徒』」
正体を告げた途端、目を見開いて震える彼女を上から睨みつける。彼女は、きっと正体を知られたくなかったんだろう。今にも泣きそうで、それもまた愛しく、壊してしまいたい。
「俺は抜け殻…サイクスだ」
「サイクス、さん」
アルテの口元が、スローモーションのようにゆっくり動くように見え、俺の名前を呼ぶ。それが面白くて鼻で笑うフリをすれば、また彼女は泣きそうな顔をして俺を見つめる。
「お前に聞きたいことがある。」
「あ、アルテはその、貴方とはお話することはないです!!」
「俺には、ある」
反抗的な態度に嫌気がさして、少ししゃがんで拗ねた子供のようにそっぽを向く彼女な顎を掴んで目が合うように正面を向かせる。
どうやら頑固なところも変わっていないらしい。
「"俺"に月の力を与えたのは…お前か?」
「貴方に、じゃないです!あ、アルテは、その…アイザに加護を与えました!断じて貴方にじゃないです!」
ぷくり、と膨らませた頬は風船のようで、泣きそうな癖に反抗的に俺を睨みつけて来る。彼女はその顔が加虐芯を煽ると、思っていないのだろう。掴んでいた彼女の顎から捨てるように、手を離す。
フードを被り直して、自分一人が入れるくらいに後ろに回廊を開く。
「お前から貰ったものなら、安心してこの力を振るえる」
「え…?」
回廊に後ろ向きで入り、閉じれば、我ながら余計なことを言ったかもしれないと少しばかり後悔した。
それにしても、最後に見せたアルテの期待と驚きに満ちた顔は、当分は忘れられそうはないと、また一人、頭を抱えた。