今日の任務がいつもと少し違うことに、ロクサスは戸惑っていた。
それはそのはず、任務をサイクスから言い渡された時に小さな女の子、アルテの世話も任されたのだ。この子はキングダムハーツに関係する大事な子らしく、今日こうしてロクサスと顔を合わせるのは初めてだが、ハートを回収していくうちにバグのようなものによって知性も無くなり、今の幼い姿になってしまったという。
お守りの任務だと思いきや、しっかりシャドウブロックの討伐任務も任されたロクサスは、アルテを安全な場所へと連れて行き「ここから動いちゃダメだぞ」っとしっかり伝えると、「あい!」とにこにこな笑顔と元気な返事が返ってきて思わず頬がゆるむ。
大体、自分に任務があるのなら事務作業などをこなしているサイクスがアルテを見るのが適任だろう。機関に入ってそんなに日数のたっていないロクサスがキングダムハーツと関係する大事な子の面倒を見させるなんて、余程人手が足りていないのだろうか?任務を言い渡したサイクスは確かにいつもよりクマが深かったっけ?とロクサスは思い出す。
⬜︎
シャドウブロック討伐任務は、思ったよりもはやく終わった。
安全な場所に隠していたアルテを向かえに行くと、そこにアルテの姿は無かった。そこにいた形跡も、もとからここにいなかった用に消えている。ロクサスの額に冷や汗が浮かぶと、コートの裾を誰かにひっぱられた感じがして後ろを振り向く。
「ろくしゃす!おかえり!」
驚かすつもりだったのか、目の前にはにこにこの笑顔でアルテが後ろに立っていた。
「ここに居ないと危ないって言ったのに……」
「?アルテ、だいじょうぶだよ?…あのね、あのね、ろくしゃす」
もじもじとアルテが後ろの方から差し出したのはシーソルトアイス。ロクサスは驚いて思わず目を見開いた。知性もほぼ今の幼さと同等のはずなのに、アルテはハートレスがいつ現れてもおかしくないのにわざわざシーソルトアイスを買うために一人で安全な場所を飛び出していたのだ。
「これを俺のために…?」
「うん!あのね、さいくしゅにもアイスわたしたいの。かいろー、ひらいてくれる?」
アルテは「どうぞ!」と持っている三本のシーソルトアイスのうち一本をロクサスに渡す。
ロクサスはアルテの言葉を聞いて自分のためではなく、サイクスのためにシーソルトアイスを買いに行ったことに気づく。実際、アルテはロクサスと共に城を出るまでサイクスにべったりくっ付いていた。一人でシーソルトアイスを買いに行ったのは一歩譲ってまぁ許すとして、この子一人を闇の回廊で城に帰すのはどうだろう?と頭を悩ませる。
「はやくしないと、アイス、とけちゃうよぉ」
アルテのうるうるとした上目遣いと、ぷっくり風船のように膨らませた頬にロクサスはぐっと奥歯を噛み締めて闇の回廊を開く。
だれもかわいいものにはさからえないのだ。
「ありがとう!ろくしゃす!」
バイバイ、と今にも溶けそうなアイスを二本手にして笑顔で手を振る姿にロクサスは腕を下げたまま手を振りかえす。城に戻ってからサイクスに怒られるのを覚悟して、ロクサスはアルテを見送るといつものように時計台の上へと向かった。
⬜︎
「さいくしゅ、げんきになってくれるかな?」
ロクサスがこれからサイクスに怒られることを理解していないであろう、アルテは子供らしく小走りで回廊を元気に駆け抜けていった。