「わ、私にお料理を教えてください!アクアちゃん!」
当然のコールの訪問と、ぺこりと頭を下げる姿に、アクアはかつてマスターでもあったコール相手にたじろいで胸の前で両手を振る。第一に、レイディアントガーデンにいる彼女が、一人で旅立ちの地に来ることさえ珍しい。旅立ちの地に来る時に限らず、大体彼女の隣にはかつて敵で会ったヴァニタスがいることが多い。
コールはどこか不思議な人だと、アクアは思う。誰に対しても、敵対意識もなければ距離が近いのもそうだが、見た目はヴェンと少ししか変わらないように見えるのに、かつてはキーブレード使いであり、今では魔法使いだと自称しているが、その実態は“予知書の乙女”であるがためのミノがくれである。
アクアは今一度、コールの目を見ると、真剣な眼差しにじっと見つめられていることに気づき、困ったように微笑む。
「別にいいですけど…マスターコールはなぜ私に…?」
「ヴァニちゃ…じゃなくてヴェンちゃんに聞いたんだよね!アクアちゃんの作るケーキはすっごく美味しいって!」
今、聞こえた気がする名前については問わないでおこう、とアクアは心に命じた。それはコールの必死さと期待を裏切らないためのものであり、断じてヴェンの半身の為ではない。でもなぜだろう?とアクアは頭の中で首を傾げる。アクアはヴァニタスに手料理を振る舞ったことはない。振る舞ったとして、ヴァニタスは絶対に手を付けないだろう。
「それならわかりました!マスターコール、一緒にお料理を作りましょう!」
相手はコールだし、気にしても無駄だろうとアクアは笑顔でコールのお願いを聞くことにした。
後にアクアはコールの料理力に絶望するが、当の本人が楽しんでくれたのなら、それも本望だとも思った。コールは、アクアから料理を学べたことに大変満足し、レイディアントガーデンで、ヴァニタスに(1ミリも成長を見せていない)手料理を振る舞おうと考えていた。全ては、ヴァニタスに美味しいものを食べてもらうためだと意気込んで。