乙女の正体

 「予知書の乙女を闇と光から守れ、干渉させるな」
 そうマスターは俺に命じられていた。キーブレードも握れなくなった元マスターに利用価値などないだろうに。

 予知書の乙女、コール。最初はあいつが何者なのかよく分からなかった。闇を臆せず、光を避けず、闇である俺を“綺麗”と言い笑顔で近寄る姿に憎しみも憎悪も怒りも悲しみも見えない。だからといって光がみえる訳でもない不思議な女。そもそも、こんなに憎悪や憎しみ、怒りにまみれた負の感情そのものである俺が綺麗なはずがない。
 最初は「黙れ」と近寄る女を突き放した。けれども女はまた笑顔で俺に近寄ってくる。なんとも強情な。
 そんな女が最近どこか懐かしく感じるようになった。なんなら過去に一度、どこかで出会ったような気がする。それを一度マスターに聞いてみたが知らぬと言うように首を横に振った。だだ、一つ心に引っかかるのはたまにあの女の見せる悲しげな表情。俺が「過去に俺と会ったことでもあるのか?」時も一瞬そんな顔をしていた。無論、すぐにいつもの笑顔になって「そんなわけないじゃん〜」と心地のいい声でくすくすと笑う。その姿が懐かしくて、愛おしくてノイズに塗れたいつか見た光の塊、人の形を模った影が重なる。

「ヴァニちゃん、もしかして運命でも感じちゃった〜? 割とロマンチストなんだね!」
『私は未来を知っています。それが私の存在意義です。』

「ヴァニちゃんのそんなところも大好き!」
『私は貴方をとても気に入ってます』

 二人姿が重なる度、目の前はぐるぐると回り、酒に酔ったような心地になる。心配そうに駆け寄る女の姿はこんなにも歪んでいたかと思わず笑いそうになる。俺はこれ以上ここに居ては何かに呑み込まれる気がして、くらくらとする頭を抱えながら女の手を振り払えば回廊の中に急いで飛び込んだが、一瞬、ピッタリとノイズの影と重なる女がまた"あの顔"をしている風に見えた気がして、歪む視界に小さく舌打ちをした。

「そういうことかよ」
 全てを理解した俺に誰かがまたくすくすと笑う。それと同時にぽつん、と俺の心には光が差し込んだ気がした。



 "全てを知りながら記憶を手放した乙女は一人だけ。古の地からずっと純粋な闇を愛していた乙女の正体は──"
 


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