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リビングへ降りると、双子の兄であるヴェントゥスが食事を並べて「おはよう」と微笑む。相変わらず早起きだなと、ヴァニタスはうつらうつらに大きな欠伸をして冷蔵庫から牛乳を取り出し、並べられたコップに均等に注いでいく。
「奴らはまだ寝てるのか?」
「ロクサスは起きてるんじゃないかな?ソラはまだ寝てそうだけど」
弟たち二人もまた、双子であり元気で顔はヴァニタスにそっくりの三男のソラと反抗期気味でクール、顔はヴェントゥスにそっくりの四男のロクサスは、ヴァニタスとロクサスとは二つ違いの兄弟である。
ヴァニタスは、あいつ(ロクサス)ならソラを起こしてくるだろうと思い、牛乳を注いだコップを一つ持って一足先に席についてパンを齧る。
「今日から高校生だね。制服似合ってるかな?」
「……似合ってるんじゃねーの?」
ヴァニタスとヴェントゥスは今日から高校一年生である。不登校気味であったがなんとかヴェントゥスにびっぱられ、中学校を卒業できたのは奇跡である。そんなヴァニタスのことを、ヴェントゥスは兄として人一倍心配していた。ヴァニタスはぶっきらぼうで、たまに上から目線で人から反感を買いやすいがその反面、傷つきやすく、繊細である。そして人嫌い。これには理由があるが、ヴァニタスのことをヴェントゥスはヒビの入ったガラスの様だと思っていた。
ヴェントゥスもヴァニタスと向き合う様に席につくと、ソラとロクサスを待たずにパンを齧り始める。
「友達、沢山できるかな〜」
「できなくてもなんも変わらねーよ」
ヴァニタスはヴェントスの頭まで腕を上げるとそのまま手刀を振り落とした。ヴェントゥスは突然のことにパンを口から落とし、頭を抱えた。そんなヴェントゥスを見て、ヴァニタスは鼻で笑う。
ヴァニタスはいつの間にか食べ終わっていた皿を片付けながら「先に行くからな」と言ってリビングを後にした。それを目の前にしたヴェントゥスは「待ってよ〜」と情けない声を出して、パンと牛乳を口に放り込んで今だリビングに来ない弟達に階段から一声掛けてからヴァニタスを追いかけた。
ヴァニタスは昔から人が嫌いだった。人はみんな簡単に嘘をつくし、下品、何より思っている事と行動は伴わない場合が多い。最悪の場合は暴力で押さえつける。弱肉強食である獣と変わらない、人型の獣。それがヴァニタスの思う"ヒト"であった。
ヴァニタスは幼い頃、今の家から養子に出されていた時期がありここから遠く離れた町で幼少期を過ごしていた。海からそう遠くない町は、町に唯一ある無人駅から、波打つ音が聞こえてくる。
とある老人に育てられたヴァニタスは、そこで虐げられ、暴力を振るわれていた。そんな中、ヴァニタスの光は近所に住む同い年の女の子だった。名前をコール。その女の子もまた、父親と二人暮しだったが、仕事人間で家に帰ることはほぼ無かった。幸い家政婦を雇っていたみたいだが、『愛を知らずに幼少期を過ごした』という点で二人は一緒だった。
二人が出会ったのは深夜の公園。下手すれば補導される時間帯、公園で一人ぶらんこで軽く地を蹴り歌を歌い遊んでいたのがコールだった。
コールの歌声は透き通り、幼子だとは思えないものであったが、ヴァニタスと目が合うと年相応の顔つきとなり、子犬の様に駆け寄っては話しかけてきたのをヴァニタスは今でも覚えている。その"彼女が"だ、登校中の彼の目の前で桜の木の下で必死に風で落ちた花びらを拾おうと右往左往する姿を目にしたら、どうするべきなのだろうか?
ヴァニタスは今起こっていることが信じきれず、頭を抱える。
(アイツがここにいるはずはない。だってアイツはまだあの街で父親の帰りを待って…)
数秒後、顔をあげた時に彼女の姿は消えており、ヴァニタスは幻覚か、と止めていた足を進め始めた。
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