永遠の箱庭


2


ヴァニタスはヴェントゥスに引きずられる形で中学生活を送ったが、勉強面で困ったことは無かった。
 元々容量がいいのか、はたまた養父の教えのせいか、一度聞いたことはほぼほぼ記憶しており、今まで家庭教師や塾に頼ったこともなければましてや友達と勉強したことすらない。最悪、何かあれば真面目なヴェントゥスに頼めばなんとかなる話だった。
 ヴェントゥスはヴァニタスとは違い、毎日学校に通い、遅刻欠席もしない。予習復習は毎日する真面目ちゃんだ。そんなヴェントゥスに対して、ヴァニタスは共に暮らし始めてから、気持ち悪い程に劣等感を抱き始めていた。


「新入生代表、ヴェントゥス」
「はいっ!」


 沸々と煮えたぎる感情にヴァニタスは舌打ちをして、壇上に上がる双子の"兄"をぼんやり気だるそうに見上げる。


『つまらない』
『きもちわるい』


 気づいたら、ヴァニタスの脚は出口の方へと向かっており、ヴェントゥスが新入生の言葉を述べ終わる頃にはその姿は会場から消えていた。


 ◇

 ヴァニタスは気持ち悪さを募らせながら、ふらふらと誰もいない教室へと足を踏み入れた。


「誰?!」

 扉を開けると先人がいたのか、ふわりと翻る髪が美しくてヴァニタスの目はそちらに向いた。真っ直ぐなエメラルドの瞳は驚いていたが彼を見つけるとすぐに好奇なものに変わり、長い髪を靡かせて「ヴァニちゃん!」と彼女は勢いよく飛びついた。


「なんでお前が…?!」


 登校中に見た"彼女"はやはり自分が好意を寄せてるコールだと気づくと自身に抱きつくコールを今一度よく見てはヴァニタスは眉間に皺を寄せる。


「あのね、パパの帰りもヴァニちゃんのことも待つのが嫌で来ちゃった!」
「いや、来ちゃった!じゃねぇだろ!」


 俺の気も知らないで。という言葉は口から空気となって沈黙という妙な雰囲気になる。
 ヴァニタスはいまだに抱きつくコールを無理やり引き剥がしては彼女の頬を思いっきりつねる。昔からよくヴァニタスは事あるごとにコールの頬をつねるが、何も怒ってるわけではなく、素直になれないだけの愛情表現で、それはコールも知ってのことである。


「ゔぁにひゃん、いひゃい」
「お前はいつもそうやって俺を振り回して…いいご身分だなぁ?」


 にやにやと笑う顔がコールには嬉しがっている様に見えて、どこか嬉しげにへへへ、と笑う。ヴァニタスはそれを見て「気持ち悪ぃ」と溢してコールの頬から優しく手を離した。


「それにしても、今入学式中だよね?」
「あぁ」
「…抜けてきたの?」


 ヴァニタスはこの街に来てからの暮らしを知らないコールに気難しそうに無言で俯く。コールはそんなヴァニタスを見て何かを察したのか微笑むと彼の頬を愛し気に撫でる。
 幼い頃、出会ってからコールはヴァニタスのことが大好きである。彼に傷が出来れば救急箱を引っ張って手当をし、幼い頃は疲れて一緒に眠りにつきもした。ヴァニタスにとってコールが光だったように、コールにとってもヴァニタスという存在は光と言っても相違ない。ヴァニタスが実家に帰るとなった時も、コールは大泣きして街を出る直前まで手を握って引き止めたことがある。


「昔と変わらないね」
 
 
くすくすと笑う、コールの顔は面影こそ変わらないが、大泣きして町をでるのを引き止めた姿とは打って変わって落ちついた"大人の女性"に成長している。
 ヴァニタスは今一度”大人の女性”と成長したコールの姿を頭から爪先まで見下ろすと顔を歪めてバカにしたように鼻で笑う。


「あ、いま馬鹿にしたでしょ!」
「あー、うるせぇな。……中身は変わらねーなって思っただけだ」
「なぁに? 聞こえない!」


 聞こえてるはずなのに意地悪に笑うコールには目元がピクリと動いたヴァニタスだが、子供のようにくすくす笑うコールを見ると諦めたように肩を落として溜め息をつく。


「……行くぞ」
「え、どこに?」


 顔を上げたと思ったヴァニタスだが、コールの手首を掴んで空き教室を出て、そのまま階段を降りれば学校を後にする。入学式はまだ終わってないのか、校庭付近に人の気配はない。
 最初こそ困惑したコールだったが、ヴァニタスが自分を連れ出している姿になんだか嬉しくなり。コールは黙って彼について行く。

(ヴァニちゃん。かっこいいなぁ…いや、元々かっこいいけど!)

 桜並木までくると。手を繋いで歩く二人の姿が、遠くの方に向かっていくのが見える。二人の姿はまるでどこかの水彩画の様に儚く、絵になる姿だった。
 コールはヴァニタスに連れられて街を案内されゲームセンターでクレーンゲームをしたり、下手くそなカーレースゲームをして、楽しんだ。その姿は先ほどまでとは真逆に年相応のカップルに見えた。


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