永遠の箱庭


3


 あれから数日、コールがヴァニタスに会ったのは入学式が最後で学校で彼の姿を見ることは無かった。かと言って、この町に引っ越してきたばかりのコールには人脈も彼の家の場所も知らないのでどうすることもできない。

「うわーーーーん。今日もいない!私って嫌われてるのかな?!それか病気か何かになっちゃったのかな?!どう思うヴェンちゃん!」
 
 机に伏すコールに眉をひそめた困り顔で、コールの友人であり隣の席のヴェントゥスは「えぇー」とやる気のない声を出して彼女を宥める。
 コールとヴェントゥスは入学式以降、隣の席ということもあり、同じ星空に興味があることから一緒に体験入部に行ってからというものの、一気統合し、新学期早々仲良くなりクラスでもそれなりに目立つコンビである。

「この学校の子なら、先生に頼んでプリントを届けるからって理由で家の場所を教えて貰えばいいんじゃない?」
「ヴェンちゃん流石!天才!いい子!!」
「わっ、びっくりした!」

 急に机から起き上がったコールにヴェントゥスは驚いて肩が飛び跳ねる。子犬みたいで可愛いなぁと、コールはその様子を見てくすりと笑うと、いつか前に話で聞いたヴェントゥスの”双子の弟”のことが頭をよぎって顎に右手を当てる。

「そういえば、ヴェンちゃんの双子の弟君は大丈夫?弟君も学校に来てないんでしょ?」
「あー…うん。朝連れ出そうと下の弟達と頑張ったんだけどダメで…」
「会って見たかったなー、ヴェンちゃんの弟君」
 
 あはは。と苦い笑いをするヴェントゥスは、"双子の弟"であるヴァニタスがもしコールに会ったらどんな反応をするんだろう?と首を傾げる。

 "何も知らない"二人は、それからすぐに別れて、コールはヴァニタスの担任を廊下で取っ捕まえてはなんだかんだと理由をつけて休んでる分のプリントと住所の書かれた紙を手に入れ、スキップをしそうな足取りで直ぐに学校を抜け出した。
 ヴァニタスの担任が「彼の兄弟が…」と言ってたが、コールにはその声は届いておらず、担任はどうにかなるだろうと肩を落とした。

 ◇

「ここ、かな?」

 辿り着いたのは二階建ての一軒家で、前にヴァニタスが住んでいた家とは雰囲気が正反対でコールはここに本当に彼が住んでいるのかと担任から渡された住所の書かれた紙を幾度か確認しては恐る恐るインターホンに手をかける。
 一回目、反応はない。寝ているのかな?と首を傾げて二回目も反応無し。不思議に思って三回目四回目…

「うるせぇ!」
「ヴァニちゃん!!!」
 
 怒号と共に勢いよく開いた扉と同時に見えた不機嫌そうな金目と、つんつんとした藍色がかった黒髪にコールは目を輝かせて抱きついた。ヴァニタスは抱きつくコールを振り払おうと身をよじるがそれは叶わず、観念して暫く彼女が離れるまで大人しく待つ。

「もう、心配したんだよ?」
「お前には関係ないだろ」
 
 いい加減離れろと言いたげに思い切りコールの体を突き放す。コールは多少よろけたが運良く尻餅をつくことなく膨れっ面で「なによっ」と頬を膨らませて下から睨みつける。しかし、ヴァニタスにそれが効くはずもなく、鼻で笑われるだけだった。軽くショックを受けたコールがその場でもじもじとしていると、ヴァニタスが家の扉を開いて待っている。

「入らないのか?」
「んぇ……え……?おじゃま、します?」
 
 流されるがまま、コールは靴を脱ぎ家の中を見渡す。整理整頓が行き届き綺麗なそこは自分の家とは大違いでどれも眩しく、四つある靴入れの棚を見ては首を傾げる。しかしそれを考えてる暇はなく「早く来い」「ジロジロ見るな」と言われてしまい、小走りで声の元に向かう。あまりにも彼が予想外の生活をしていることに家中をジロジロ見て回ってしまう。
 あの時とはまるで大違いだ。とコールは生唾を無理やり飲み込む。
 コールは今でもゴミが充満する部屋で、疼くまるアザまみれの少年を覚えてる。あの時の彼は無力で無価値、自身と同じ存在だった。よくコールは彼を手当てしたり、抱き合って眠りについた。…それなのに今の彼は前に進んで新しい家族と暮らしている。彼はこんなにも強くなったんだと、コールは母親のような気持ちになってふふ、と思わず笑みが溢れて胸が温かくなる。

「おやすみ、ヴァ二ちゃん。いい夢を」

 目を閉じた瞼に浮かぶのは、あの日の幼い二人が今と同じように向き合って丸まって眠る姿だった。

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