その城の前に、コールは今立っている。
多くも少なくもない階段を登った先には二人の門番がいて、その場に似付かわしくないコールの姿を不審そうな目で睨みつけている。
「あの、これを賢者アンセム様に渡してください」
先に口を開いたのはコールで、一枚の白い封筒を門番に差し出す。封筒には丁寧に紫色の蝋で封をしている。夜な夜な、コールが書いたものである。
門番二人はそれを見て顔を見合わせれば眉ひとつ動かさず、コールに視線を戻すと黒髪の槍を持った門番がその手を振り払う。
なにもコールは不審物をこの門番、そして賢者アンセムに渡そうとしたわけではない。この手紙は列記とした公式の謁見の申請、及びその否を記した正式な手紙である。
「子供はアンセム様に謁見などできん」
「……今すぐ家に帰りなさい。最近外は魔物が出て危ない」
槍を持った門番の言う"子供"という言葉にコールは頬を膨らませる。どこが子供だと言うのだろうか?こんなにも可愛らしい少女(断じて子供ではない)だというのに!
コールには珍しく耐えられない!と言いたげに両手を握り締め、わなわなと肩を振るわせる。
「ちょっと!聞きづてならない!!私これでも魔法使いなんだよ!?」
魔法使い。今度はその言葉に門番二人が顔を見合わせると大声をあげて笑い始める。コールはきょとんとした後に何か変なことを言ったのだろうか?と不思議そうに首を傾げる。
「魔法使い。そんなものは子供の戯言だろう」
「それにこの地には"魔法使いマーリン様"がいる。お前の様な子供が、魔法使いなわけないだろう」
完全に舐められている!
コールはガーンっという効果音がつきそうなほどショックで俯き、頭を抱えたが、疑いたくなる気持ちも理解できる。実力行使しか手がないかと頭を捻らせたが、流石に危険なことはできない。何より目の前の彼らが研究職ではないが実質賢者アンセムの弟子でもある。下手したら偽物め!と、
今、コールの住居はここにしかないのだ。それは逃れたい!
ふと、門の奥から聞こえてきた足音に、コールは顔を上げる。
「おいおい、厄介ごとかぁ?」
赤いスカーフをちらつかせて、飄々とした態度の黒髪オールバックの男性が、そこにはいた。他の門番と同僚なのか、やけに親しげであり制服も彼らと同じ物である。
「この子供がアンセム様に謁見したいと」
「ちょっと!子供じゃないってば!私は魔法使いなの!あと、私の名前はコール!!」
いても立ってもいられず声を張り上げてしまったコールは、レイディアントガーデン中に自身の声が響き、やまびこが聞こえるのを感じてしまい。恥ずかしさから顔を覆う。これには若干門番の二人も子供(?)相手にやってしまったなと冷や汗をかいている。
ふと、コールの手に握られていた手紙が抜き取られる。
「これは俺が預かってやるってハナシ」
「え…」
突然のことにコールは顔を上げる。恥ずかしさから泣きそうになっていたコールの顔を見て、オールバックの男が鼻で笑うと、ひらひらと彼女から取り上げた手紙を掲げる。
「ブライグ!勝手な事を———「もし、だ。その嬢ちゃんが本物の魔法使いでもしたらどうする?お前らが責任取れんのかぁ〜?」それは…」
オールバックの男、ブライグが門番二人の揚げ足をとれば、彼らは黙りこくって俯いてしまう。
「それなら、アンセム様に判断を委ねればいいってハナシ」
「しかし…」
「じゃあどうするか言ってみろ、ディラン。この嬢ちゃんが"未来さえ知り得る"魔法使いだとしたら」
槍を持った門番———ディランはここまで言われても未だ納得いかない様子で口を噤み、隣にいた手斧を持った門番が彼を宥める様に頷く。
コールは彼らの会話を心配そうに聞いていたが、ふと、優しく微笑む。先ほどまで何も知らない少女であったものが成長し、大人びた様な感覚が近いと言える。彼女のその姿を見逃さなかったブライグは密かにまるで“嫌なもの“を見るように眉を顰める。
———厳密には、ブライグにはコールの姿が彼女とよく似た誰かのものに見えている。瞳や目の色、目の形、その全てが確かにコールであることは間違いないが、その服装はファーがふんだんにある袖が長いケープコート、コールが普段来ているものとは似ても似つかない黒いフリルのワンピース。耳には王冠のピアスではなく、銀色のハートと十字架を組み合わせたものに転移と悪魔の羽がついたようなシンボルのピアスが揺れてえいる。
ブライグはそんな"彼女"を見る度に、なんとも言えない感情になるが、その感情は今本当に目の前にいるコールにぶつけるべきではないと分かっている為、奥歯を噛み締めて安易なことを言わない様に自身で枷をかける。
「そのお手紙、賢者アンセムに渡してくれる?」
手紙がブライグの元に渡ると、コールは安心した様に微笑み、彼らに背を向ける。
「良いのか?俺が嘘をついてもしこの手紙をアンセム様に届けなかったら……」
「……貴方は必ず届けるわ“ブライグ“」
振り向きざまに目を細めるコールの瞳は、全てを見透かすように輝き、澄んでいる。
相変わらずブライグの瞳にはコールが別の少女に見えているが、彼女の姿が、一輪だけ咲き誇る花のように美しいことだけは変わらなかった。その姿にブライグ息を飲み、彼の飄々とした表情は一瞬無になる。
そうしている間にコールの姿は風にさらわれた様に消えてしまい、ブライグ以外の門番二人は思わず目を見張りあたりを見回すが、城の周辺に彼女の姿気配はどこにも感じない。
本当に彼女は魔法使いだったのだろうか?そもそも二人はこの城の門番であり、レイディアントガーデンのことなら大抵は把握している。……そういえばあの少女を今までに見たことは一度もなかった気がするが…きっと気のせいだろうと思いたいが……一体彼女は何者なのだろうか?今の二人が知る由もない。
コールが去ったのを確認するとブライグは鼻で笑い、未だ状況がよくわかっていない二人の門番の間を抜け、城の中に戻っていく。その手に握られた手紙を主に届けようと、その足取りは軽かった。
『そうよ、“ルシュ“。そうやって上手く動くのよ…もう少しで最初の戦いが始まる。ここから始まるのよ、この時代の
キーブレード戦争は!!』