キミと出会って恋をして

1. 
 少し昔の話をしよう。俺は生まれた場所から東に遠く離れた東成都の石崖区に小学生の時まで住んでいた。
 当時俺の両親は再婚してからと言うものの、義母の負担を考え、義母と父と共に越してきた。もともと霊能者的な家業をしていた家元で、父は有名な霊能者で多忙であり、義母と二人でいることも多かった。学校では、「あいつの父ちゃんはゆーれー退治してるんだぜーー!」とガキンチョばりの拡散力で最早同学年で知らない人は居ない。いじめこそ無かったものの、俺に話しかけてくるやつは物好きか、それを心配する先生しかいなかった。
 そんなある時だ、俺は昼休みに借りた本を静かに読むべく、いい場所を探していた。そのために低学年の廊下を通っていく。長い廊下、一つ下の三年生の教室を通り過ぎる、そこにはぽつんと本を読んでる男の子が一人いた。なんだかその子が気になり、教室に一歩一歩入っていく。
「なぁ、俺もここで読んでええ?」
 いきなり声をかけたのが悪かったのか、男の子の肩が直角にビクッと跳ね、ひぇっと間の抜けた声が出て、ゆっくりと俺の方を見つめた。えっと、その、と、戸惑う男の子を見て、思わずくすりと笑みが零れた、こうして笑うのもいつぶりだっただろうか?とりあえず男の子に まぁ、邪魔はしいひんと一言言って勝手に男の子の机の傍の床に座り込み本を開く。
「あ、あの......君は.......?」
 そう言われて少し顔を上げて、男の子の方を見る。今まで見たこの学校の生徒、先生のよりも澄んだ瞳をしていた。
 そんな彼から"見えた"のは純粋な疑問、それだけだった。男の子からは一切悪い気はなく、真っ正直な人ということを自身の読心術で悟った俺は、彼となら友達になれるのだろうかと思い、少し歩み寄ってみようと口を開く。
「俺?俺は吉田智樹…四年生や。まぁ、よろしゅうな。」
「僕.......僕は三津木慎。よ、よろしく」
 互いに自己紹介をして苦笑いしたあと、本には目を向けず、俺は慎クンと話してみようと今までした事のない"おしゃべり"という未知の領域に踏み入れようと、恐る恐る口を開く。
「な、なァ、慎クンはなんで外でみんなと遊ばへんの?」
 俺の第一声は震えていたと思う。だが、それ以降は思ったより口が軽く動いて、いい終わったあとミントを食べたように気持ちがスッキリとて軽くなる。慎クンは、その言葉に顔を暗くして口をぎゅっと強く結んだ。当時の俺の読心術ではこれを"悲しい"と、とるとしか出来なかったが、俺は「何か言いたくないなら別に言わなくてもええよ?」と付け足した。
「あ.......うん、僕、身体が弱くて、面白いことも言えないし、誘ってくれる子はいるだけど、ここにいるんだ。」
「ふーん、その子、君と仲良くなりたいんやね。」
 今の自分の状況に重ねて微笑む。慎は、そうなのかなぁと更に顔を暗くしてしまった。ポンッと肩を叩き、まぁ、あんたのことやし自分で決めるのが一番やけど無理は良ないでと、ニカッと笑うが、初対面の相手にこれは良くないと思い、肩から手を離し、「すまん。」と言おうとしたところに閉まっていた筈の教室の後ろ側の扉がガラガラと音を立てて勢いよく開く。
 入って来たのは慎クンの友達だろうか?やけに急いできたのか、汗が跳ね、太陽光にあたってキラキラと星屑のように輝いていた。
「慎!やっぱり一緒に.......ってお前誰?!」
 やっと慎の机の横の床に座る俺に気づいたのか、入ってきた男の子と目が合う。彼から伝わってきた感情は"驚きと動揺"
 どうやらこの子も真正直な人間のようだ。それがわかった俺はくすりと笑って自己紹介をして、事の経緯を話し始める。
 ────────────────
「まぁ、要するに、たまたま静かな場所探してたらここにたどり着いたんですわ〜。」
 呑気に手をひらり、と振ると隣の慎に顔を合わせ、ねェ〜と、同意を求めると慎クンは、ははっとかわいた苦笑いをした。俺も釣られてふふふと笑うと俺の隣に自己紹介した後にやってきた佐海良輔が顔を顰め、俺と慎を交互に見る。
「お前ら始めて会ったにしては距離がちっけぇんだよ、特にお前!!」
「あれぇ〜良輔、ヤキモチやいてるん??」
「はぁ〜?!なんでそうなるんだよ!!!」 
 小学生特有とも言える悪ノリでずいっと顔を近づけ、ニヤニヤと口元を三日月型にゆがめては彼の顔を額から顎の先までじっくりと見つめてやると、良輔は顔を真っ赤にし始めたが、それを俺は気にせず彼の綺麗な橙色の髪に触れる。髪は男のくせに少しサラサラと指を通せるぐらいには解いてあって、少しムカつく。
「綺麗な顔してるんやな。」
「はぁっ?!」
 そう、最初はただの悪ノリ延長のつもりだった。つもりだったんだ、でもあまりにも良輔の顔を真っ赤にして驚いた顔が"可愛かった"…が、流石に小学生、この女子で言うトキメキともいえる感情を心の中に押し殺そうと、ぐるりと慎クンの机の方に目を向け、彼の目を見て得意の作り笑いを向ける。
「まぁ、慎クンも負けず劣らず綺麗な顔してはるけどな。」
 ふふ、と笑い出す慎クン、続けて俺、良輔も笑い出す。それから俺たちはつるむようになった。体の弱い慎クンのお見舞いに行って色々な話をしたり、たまに昼休みに集まって話したり、それなりに充実していた。

 2.
 四年生にれいのうしゃの子供がいる!いつも一人で本を読んでて不気味なやつがいる!
 前々から、小学校で気になってた奴がいた。それはどこか、同じクラスの病弱でいつも一人でいる友達の慎の姿と重なった。どんなやつなのか気になって、クラスを覗き込んだことがあるが、どいつか分からなくてそのまま教室に戻ったことを覚えている。
 ある日、いつものように慎をクラスメイトとと一緒に遊ばないか誘ったけど断られた。そこまではいつも通りだったが、この日は何故か慎を一人にしたくない気分で、少しクラスメイトと遊んだ後に「ごめん、俺やっぱ慎を誘ってくる。」と言って、気がつけば教室の目の前まで来ていたのだ。
 だが、扉を開けようとしたら扉の中から声が聞こえてきて、気になって耳をドアにくっつけて聞き耳を立てたけど、聞こえてきたのはどうやら知らない声だった。怖い気もしたけど、物は試しだと思って思いっきりドアを開けると、底にはカラスのように真っ黒の髪をした男子が地べたに座って驚いたように鮮やかな紅目を二度素早く瞬きをしてこちらを見ていた。
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「まぁ、要するに、たまたま静かな場所探してたらここにたどり着いたんですわ〜。」
 能天気に話す、彼、吉田智樹は例の噂の子らしいが、思った感じと違った。慎みたいに、もっと静かで大人しいタイプだと思っていたがその逆だ。騒がしいほどでもないが明るく、能天気でお喋り、友達がいてもおかしくないタイプだ。そんな彼をなんだか怪しく思ってじっと見つめていると、「あぁ。」と何か思いついたように俺の方を向く。
「まさか、俺に惚れたん?」
「ちっがうわ!」
 バンっとクイズ番組の早押しのように思いっきし慎の机を叩く、と、慎が驚き肩を揺らした。小さく「ごめん。」と謝る。
「お前みたいな奴なら、慎に構わなくてもクラスに友達の一人二人、いるだろ?なんで「上辺だけ」.......は?」
「上辺だけの友達作ってたのしい?」
 馬鹿にするような顔で、智樹は目を細めてふ、と鼻で笑う。
 その言葉は小学三年生が理解するのに難しかったが、それを理解するのに混乱したみたいに頭の上を回る。慎は、「えっと」と考え出してしまい
 考え出したらループに入ってしまう、と「今のは忘れろ」と息を吐く。「でも、君たちとはちゃんと友達に慣れそうな気がするから。」と小さく聞こえたので、俺が真ん中になり慎と智希を抱き寄せるように肩を組む
「気がする、じゃあなくて、する、んだよ!」
 ふと、智樹の方を横目で見ると、彼の紅目の中に星が生まれたように輝いた。
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 こんな時間が続けばいいのにと、何度も願ったが、智樹が小学校を卒業をするタイミングでそれは唐突に叶わなくなった。いきなり姿を消したからだ、家に尋ねてももぬけの殻、電話をかけても誰一人としてでない。まるで"吉田智樹"という存在が消えたみたいだ。
 何としても理由を知りたくて智樹の担任だった先生に話を聞くと「おじいさんの体調が良くなく、卒業式も出ないで遠く、西の方に帰った。」という。
 俺たちに何も教えてくれなかったのは腹が立ったが、それは本人も同じだろうと思い、二人で河原で思いっきし叫んだ。智樹のいるところまで届くように。
「なぁ、慎。智樹が帰ってきたら、一発殴ろうぜ。」
「あはは。怪我はしない程度にね。」
 智樹、お前を待ってる。もう一度お前に会いたいよ。俺も、慎も。お前なら何としてでも帰ってくるって信じてる。でも、お前がいないとぽっかり穴が空いたみたいなんだ。あの時のお前の顔が忘れられずにいる。

 なぁ、お前が帰ってきたら、この気持ちの意味を教えてくれよ。
 

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