「失礼します…っ…っきゃ!」
部屋から飛び出して来たリシェは、ドアの向こうに人がいることなど全く気付かなかった。
飛び出した勢いでぶつかり、その硬さと衝撃に驚きの声がでる。(ピクリとも動かないなんて!)
ぶつけた頭を押さえながら上を見上げると、そこにはイエローストライプ。大将黄猿であった。
「おやァ〜、リシェちゃんかぁ〜い?」
「大将…!失礼致しました。」
俯き加減に慌てて敬礼をし、足早に去って行くリシェに手を振りながら、黄猿はリシェが今出て来た部屋の中へと入る。徹底的な正義。そう掲げられた前には青筋を浮かべ今にも人を殺しそうな顔をした赤犬が座っていた。
「まぁ〜た親子喧嘩か〜い?パパァ〜?」
「殺されたいんかァ…黄猿ゥ…」
「あの子泣いてたよぉ。可哀想にぃ…
」
怒り心頭、マグマに変化する赤犬の体など御構い無しに黄猿は続ける。
「あの子にもあの子なりに考えがあるんだぁ〜。少しは自由にしてやったらどうだぁ〜い?」
「お前に口出しする権利などないわァ…」
聞く気などかけらもなさそうな赤犬に、黄猿はため息をついた。
「まったくぅ…あまり厳しくしすぎると、君の妹(いも)の様に雲隠れしてしまうかもしれないよぉ〜?」
*
リシェにとって大将赤犬、サカズキは親の様に慕う存在であった。
10年前、何らかのショックで記憶を失い、身寄りのなかったリシェが倒れているのを保護し、海軍士官学校に入れ、ここまで育ててくれたのはサカズキだ。
今日までで1日でもサカズキへの感謝を忘れたことなどない。
「今回の任務の報告書が届きました、こちらに置いておきます」
「あァ…」
書類仕事が多いサカズキの負担を少しでも軽くしようと、任務や訓練のない時間はサカズキの部屋に篭りきりで仕事を進める。
仕事中、リシェの集中力が切れることはほとんどない。サカズキの執務室はいつも静かで、邪魔になるようなものも何もないからだ。だが、今日はしきりにペンを動かす手を止め、リシェはサカズキの顔をちらちらと伺っていた。
「…何じゃァ。」
「…え、…いえ、何でもありません。」
無意識の行動だったらしい。サカズキの言葉にリシェは弾かれた様に肩を跳ねさせ、すぐに手を動かし始める。
そのすぐ後、またペンの音が聞こえなくなる。ちらりと見るとリシェがこちらを見ているのがわかった。
今日は様子がおかしい。声をかけようとサカズキがペンを止めた時、リシェが息を少し吸い込んだのが聞こえた。
「お聞きしたいことがあります。」
真っ直ぐにサカズキを見つめ、一言。彼を見つめるその瞳は星空の輝きの様に美しい。
「…言え」
サカズキがそう答えると、緊張気味にきゅ、と結ばれていた薄桃の唇が開いた。
「…なぜミズミズの実の能力を使ってはいけないのでしょうか?」