私がまだ幼い頃、とても不思議な経験をしたことがある。あれは母と二人で旅行に行った時のことだ。ルミナスメイズの森、そこで私はいつの間にか母とはぐれてしまったのだ。そんな私の前に一匹のピンク色の小さなポケモンが、光るキノコの蔭からそっと姿を現した。襲われるのではないか。そう思った私はどうか見逃してとばかりにキャンディを差し出した。それに気を良くしたのか彼は襲ってくることも無く、途方に暮れていた私を手招きした。もしかしたら森から出られるかもしれない。そんな期待とは裏腹に、どうやら私は森の奥に足を踏み入れてしまったようだった。相変わらず薄暗いものの、少し開けた所に辿り着いた。そこには私を案内してくれた彼と同じようなポケモンが沢山と、彼らより一回り大きな、髪の毛が生えたポケモンが数匹確認できた。おまけに見たことの無い植物が生えていたりと、あまりに幻想的で、どこか異世界に紛れ込んでしまったかのような心地だった。不安に思う私の元にその少し大きな、髪の毛が生えた数匹の内の一匹が私に近づいてきた。何しに来たんだ、と言わんばかりの形相に足が竦む。どう伝えるのが良いのだろう。私には彼らの言葉は分からないけれど、とにかくこの森から抜け出したいのだと必死に伝えた。彼は考えるような仕草をする。そんな彼に、私はキャンディの入った瓶を手渡した。ドロップタイプで、彼が手に取るとカラカラと小気味良い音が鳴った。興味深いとでも言うような顔をした彼は、しっかりと片手で瓶を握ったまま、私にもう片方の手を差し出した。その手を握ると、彼は目を細めて楽しそうに笑った。その様子はさながらイタズラっ子のようで、どこか可愛げがあった。その笑顔になんだか私は安心させられて、そのまま彼の先導を受けながら森の中を歩いていった。気がつくと、前方に町明かりのような光が差している。このまま進んでゆけばきっと森を抜けられる。そう思いここまで案内してくれたポケモンににお礼を言おうとしたけれど、彼はいつの間にか姿を消していた。無事に森を抜けられた私は、結局そのポケモンにお礼を言うことは出来なかった。今この瞬間までは。
私はまたルミナスメイズの森に来ていた。約十年を跨いでこの地に立っている。ジム巡りの通過点として通る森なのだけれど、私はずっとここに来たかった。それが漸く叶ったのだ。以前の如くキノコの蔭から姿を表したベロバーにキャンディを手渡すと、彼は森の奥に案内してくれた。そこには昔と変わらない、息を飲む程の美しさがあった。よく見渡すとその中に一際大きな木が立っていて、その木にはなんとキャンディがなっていたのだ。これには思わず笑ってしまった。ポケモン図鑑によると、ギモーには農作物を育てる力があるらしい。その木に近づくと、一匹のギモーが木の蔭から姿を表した。何となく、あの時森の外に案内してくれた彼なのではないかと思った。私はありがとう、とお礼を言った。彼はニカッと笑って私の手にキャンディをのせてくれた。口に入れると甘酸っぱいレモンの味がした。言葉は分からないけれど、キャンディが溶けてなくなるまでのんびりと木の傍で過ごした。ねえ、私と旅をしない?私は彼に尋ねてみた。彼は少しの逡巡の後、辺りを見回し一匹のベロバーを呼んだ。代わりに連れて行ってあげて。彼がそう言っているように感じた。あの日のように、今度はベロバーの先導を受けながら森の外、アラベスクタウンの一歩手前まで来た。モンスターボールを渡すと彼はボタンを押して、三回揺れた後私の手持ちに収まった。彼には色んな世界を見せてあげよう。そしていつか、もっと強くなってこの森に戻って来たら、さっきの皆もきっと驚くだろう。そうだよね、ベロバー?