これって、幸せだ

一面真っ白な病室というのは退屈だ。あまり騒ぎ過ぎると迷惑だから、安心してポケモンをボールから出すことも出来ない。それに、いつもなら予定一杯に入れている映画の撮影も、毎日通っている地下鉄にも行けないし、今日出場予定だったPWTもキャンセルで、ジョインアベニューの様子も見に行けそうにない。常に喧騒の中に身を置いている私にとっては、この静けさはどうにも居心地の悪いように思えた。こうして一人でものを考える時間は、私はあまり好きではない。絶えず行動し続けることで悪い出来事も、不安も、何もかも忘れて毎日を過ごすことが叶っているのに、今みたいな時間をあるとどうしても、否定的な自分がどこからか顔を出してきて私の休息を苦痛へと変えてしまう。

コンコンコン

「入って良いかな?」

チェレンさんの声がした。お見舞いに来てくれたのだろうか。

「どうぞ」

ガラガラと扉がスライドして、チェレンさんが現れる。

「ソラ、昨日は大変だったね。今は調子、どう?」

ヘッドボードに凭れ掛かっている私の横に彼は座った。

「大分良くなりました。心配させてしまってごめんなさい」

「ううん、良いんだよ。寧ろいつも君は頑張りすぎだったから、たまにはこうして無理にでも休みを取らないとね」

チェレンさんは心から私を気にしてくれているようだった。けれどもいつも予定をいっぱいにしているのも、全部自分がやりたいことだったからだ。疲労からか、倒れてここに運ばれてしまったのは自分のせいだった。だから、ここまで心配されると少し申し訳なくなってしまう。

「そうですよね……。でも、やっぱり私は早くここから出たいです」

チェレンさんは観念したように苦笑して溜息をつく。

「ソラ。君はまだ子供なんだから、もっと迷惑を掛けても良い筈だ。一人で居ると、もしかしたら色々と不安に思うこともあるかもしれない。だけどね、それ以上に皆君のことを心配しているから、それだけは忘れないでほしい」

そう言って彼は眩しく笑うから、なんだかやっぱりそういうことなんじゃないかと思えてきて、少しだけ肩の力が抜けた気がする。

「チェレンさんがそこまで言うなら、もう少し休むことにします」

すると、彼はほっとしたように表情を柔らかくして、忘れてたけれど、と付け加えてお見舞いの品を渡してくれた。

「じゃあ、僕はもう行くね。何かあったら、まあ別に無くても良いけど連絡するんだよ。お大事に!」

ガラガラと扉が閉まり、チェレンさんの姿が見えなくなる。彼がくれた包みを開くと、小さな箱の中に冷たいヒウンアイスが入っていた。いつもはあまり食べ過ぎるとお腹を壊すからって、取り上げられる位なのに。さっきまで彼が座っていた椅子を見ると、少し寂しい気持ちになった。体調も優れているため、明日には退院出来るのだと、状態を確認しに来た看護師さんは伝えてくれた。


……………


「ソラちゃん、もう体調は大丈夫なのかい?君の撮影は明日に回してあるから、今日はまだゆっくり休んでおいで。……それとも、私が頼りないかい?君は無理せず、もっと頼ることを覚えてもいいんじゃないかな、なんてね」

「チャンピオン、今度のトーナメント楽しみにしてるね!でも、前みたいに無理しないでね?だって、次は絶対見たいもん!」

「ソラさん、待ってましたよ!昨日も無事に一日終えられました。やっぱり、ソラさんが細かくどのお店も見ていてくれているからですね。あっ、でもたまには休んで下さいね?私達だってオーナーのためならもっと働けますから!」

皆、私のことを責めてはいなかった。寧ろ、誰もが私の心配をしてくれていた。それでいて、私の存在を必要としてくれる。今まで感じていた不安が温かいものに溶かされていくようだった。私が居ても居なくても、きっと世界は回っていく。でも、私が居るから世界は進んでいく。それって、なんだか素敵なことだ。……それに、もしも傍で支えてくれる人が彼だったら?私はどんなに幸せだろうか。


2019.03.06

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