#7

私、みょうじなまえは、人様にお借りしたハンカチを数回(過少申告)に渡り嗅いだり、頬擦りしてしまった事を反省しに参りました。

‥どんな禊だって受ける!先生のにおいをダイレクトに嗅げることなんてきっと最初で最後だから!!




「‥6班、放課後時間あるか‥?」
HR終わりに、担任の悲鳴嶼は教室向かって右奥に声をかける。

「申し訳ありません先生!今日は実家の手伝いで買い出しに行かなければいかないので残れません!明日なら朝4時から来れます!!」
「竈門‥先生はそんな早朝から来たくない」
スゥ‥と涙を流し、悲鳴嶼は首を横に振る。

「私も‥」
「私も部活が‥」他の生徒も申し訳なさそうに頭を下げた。
「「「‥‥‥」」」←伊之助、善逸、なまえ


そして、現在18:30。
「‥こんな時間になっちゃった‥」
暗くなった窓の外を見ながら、なまえはため息をついた。
今日は、1年の遠足のコース決めのため呼ばれたのだった。行き先は決まっている。国立公園に博物館、美術館、レストランが併設されている遠足の定番スポットだ。自由度が高いのでクラスごとにルートを決め、後は班で回ればいい。
悲鳴嶼は「決めたら帰っていいぞ‥」と言い残し職員室に帰ってしまい、残された3人で考えたのだが‥

「紋逸、この山側にもっと時間を割かなきゃだめだろ!どんぐり探しは外せねぇぞ!」
「はぁ!?カフェで休憩時間取るのが定番だろ!女子疲れちゃうだろ!あとどんぐりは却下だ!」
「食事はてんぷらがいい!」
「ここにはねぇよ!」
‥上記のようなやり取りが続き、当初の想定より2時間オーバーとなってしまった。


「お前達‥まだいたのか‥」
消灯に来た悲鳴嶼が呆れている。
「遅くなってしまったから送ろう‥着いてこい‥」

普段騒がしく光が溢れる廊下は薄暗く静まり返っており、自分達の足音がやけに響く気がする。こんな時間まで学校にいたのは初めてだ。

悲鳴嶼について駐車場へ来ると、まだ車が何台も停まっている。教師がキーを操作し、解錠とともにヘッドライトが光った。

「おそいな!今帰りか!」
「!!!」
車の影で見えなかった。
瞑色の空を背負って、焔色の髪色が近づいてくる。今日は歴史の授業が無く会えなかった。姿を見ただけで胸が震える。重症だ。

「頼み事をしたら遅くなったから‥送るところだ‥」
悲鳴嶼の話をふむ、と聴きながら自身の車の扉を開ける煉獄。
「三人とも一丁目の方面か?俺は反対だから、逆方面の者は俺が送ろう!」
ビクッ
雷に打たれたかの如く飛び上がってしまった。悲鳴嶼先生が一丁目なら、私は逆だ。どうしよう、どうしよう。二人とも逆方面であれ!


ブロロロロロ‥
(皆行ってしまった‥)
「さぁ、乗ってくれ!」
ガチャリと助手席の扉をあけて穏やかにこちらを見る煉獄。

「すみません!ありがとうございます!」
時間を取らせないよう速やかに身体を滑り込ませる。
運転席の扉を開け、教師が隣に座る。バタンと扉が閉まると車内は闇に包まれた。

近い。密室、二人きり。
どうしようどうしよう。緊張で膝が震える。


「こっち側に座ったの初めてです!新鮮だなぁっ‥」
弱冠声が上ずりながらも話題を絞り出す。頑張れなまえ、頑張れ!脳内で炭治カが応援してくれる。
エンジンをかけシフトレバーを引いた煉獄は、車を発進させるのをやめこちらを向いた。

「みょうじは帰国子女か!」
「はい、父の仕事でドイツにいました!高校からこっちに」
「そうか!」

苦し紛れに振った話題だが、我ながら素晴らしいチョイスだった。ドイツに行ったことが無いという煉獄は、風土や文化、美味しい食べ物についでまで興味深く質問し、話を聞いてくれた。時々世界史の話を織り混ぜつつ彼からも話をしてくれ、あっという間に自宅に着いてしまった。あんなに緊張していたのに、着いた事が残念に思えるほど。楽しい時間だった。


- 7 -
*前戻る次#
ページ: