#6

「みょうじ‥」
煉獄の骨張った長い指がなまえの頬を撫でる。
「せっ‥先生‥?」
男の肌けた胸元から、細められた炎のような赤い瞳から、むせ返るような色気が滲み出ている。

「どうした?よもや俺が怖いか‥?」
そういいつつ、ニヤリと口角を上げた煉獄はなまえの耳元で低く囁いた。

「俺をその気にさせたのは‥君だ」


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「ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁぁああ!!」(ガバッ)
ピピピピ‥ピピピピ‥

目覚ましと同時に飛び起きる。
「ゆっ‥夢か、何て夢をっ‥!」
バクバクと心臓が煩い。汗が凄い。

自分が怖い。自分の脳内で作られた架空の人物(もはやあれはなまえの知る煉獄ではない!)にこんなにドキドキするなんて‥

‥目があっただけで緊張するのにどうやってお近づきになればよいのだろう。
人って、どうやったら他人を好きになるんだっけ?
心を落ち着けるべく、窓を開け、朝の空気をたっぷり肺に取り込む。ふぅー‥‥

‥こんな平々凡々な私じゃ‥見た目も中身も普通すぎてあんな明るくて優しくて美しい人の近くに行くのも憚られるわ‥

なまえはすっかりしょんぼりしたまま、冷や汗を流すためシャワーを浴びると自宅を後にした。


(遅刻するー!)
起きる時間はいつもと同じであったが、普段は浴びないシャワーに時間を費やしてしまった為髪も満足に乾かせず爆走する。
(すれ違った学ラン男子が「妖怪濡れ女?」と呟いていた気がするけど聞こえませーん)

「っはっ‥ギリギリ、間に合った‥」
校門が見え、一安心‥したのも束の間、立ち当番だったのか門の前に赤い髪が見える。
もっと顔のコンディションが良い時に会いたかったあああタイミング悪すぎるよ好き


今日は髪型も決まってないし、走って顔も酷いから先生の視界に入らないよう他の生徒に混ざってすっと通り抜けよう。

ススス‥と距離を取ろうとすると、

「みょうじ!おはよう!」
なかなかの声量で名を呼ばれてしまい、どきまぎしながら何とか微笑む。

「おはようございます!」
踵を返そうとするも、ちょいちょい‥と手招きされてしまった。
嘘でしょ?可愛いよぉ先生‥


「髪が濡れているな!」
近くまでいくと、大好きな煉獄の匂いがした。夢を思い出してしまい、顔に熱が集まる。

「シャツに染みている。風邪を引くといけないから、これをしばらくかけておくといい」
何でも無いような顔で、教師は自身のポケットからハンカチを取り出すと、ズイと差し出してきた。

「えっでも」
「返すのはいつでもいい。洗濯もいらん。」

戸惑いながら受けとると、手元から煉獄の香りと体温を感じる。なまえは完全にパニックになり、消え入るような小声で「ありがとうございますっ‥」とお礼をいうので精一杯だ。

「うん。さぁ、授業が始まるぞ。急ぐといい。転ぶなよ」
「はい!!」
うんって‥先生‥可愛い。大人の男の人にどうかと思うけど、煉獄先生は格好よくて可愛いんだよな。

まさか私物を貸してくれるなんて。
なまえは煉獄のハンカチを斜めに折り、肩にかけるとにやける口元を隠しながら教室へ向かった。


「おはよー」
「おはよう、なまえ」
「ん?」
前の席の炭治カがにこりと振り向いた後、バッとこちらを二度見した。

「何?」
首を傾げると、何やら気まずそうに頬を染めた炭治カが小声でコソコソ話し出した。

「なまえから、煉獄先生の匂いがする」
「「ブッ」」
吹き出したもう一人は、耳の良い善逸だ。

「え!?何何何!?嘘でしょ!?まさかなまえちゃん煉獄先生と「違う違う!!」」
なまえも真っ赤になって訂正する。
善逸も声のトーンを落としてくれていて良かった。悲しいけど、先生には全くそんな気などないのだろう。こんなことで煉獄先生に迷惑をかけたくない。

事情を説明すると、なぁんだ‥と仏の笑顔になった二人を見て安堵する。
それにしても。
返す時、また話せるなぁ。嬉しい。
今日は良い日だなぁ。
にこにこしていたせいで伊之助に気持ち悪がられたけど。



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