#5

「俺、みょうじさんの事が好きなんだ。付き合ってくれない?」

ここは校舎裏。校舎と外壁に挟まれており、人目を遮断できるため告白の定番スポットだ。周りには校舎の外階段(非常時以外使用禁止)くらいしかない。

「ごめんなさい、今は誰ともお付き合いする気がないので」
本当は煉獄先生以外見えないからなんだけど。なまえは男子生徒に頭を軽く下げる。

「じゃぁ、せめてLNE交換だけでも」
「おいごるぁあああああああ!!!」
ドドドドドド

‥‥食い下がる男子生徒は、自分目掛けて前ボタン全開の美少年が突撃してくるのを視認した。
「え?」
ガッ
現れた美少年に襟首を掴まれた彼は、目を白黒させて困惑する。

「誰?」
「てめェこそ誰だ!俺の子分に手を出すたぁいい度胸じゃねぇか!」
「ヒィィー!!ごめんなさい!こっ子分!?とにかくごめんなさいもう諦めます!!!」

開放された男子生徒は、失望と困惑と、とにかく恐怖に涙目になりながら走り去っていった。
校舎裏に静寂が戻る。
「ありがとう、伊之助」
入学してまだ数ヶ月、もう5人目だ。




「というわけで、俺様が子分の仇をとってやった!」
「生きてるから」

教室にて先程の出来事を意気揚々と話す伊之助。
「はぁあぁーーーーなまえちゃん今回も無事でよかったよおおおおおもう俺ずっと監視していたい位昼も夜も」
「善逸、それは犯罪だ。」
炭治カと善逸は安堵の表情をしている。


なまえは、非常に男子人気が高い。
善逸曰く、「顔だけで飯食っていけそう」、
つまり美人なのだ。
本人は中学まで海外で暮らしており、向こうでは一切モテなかった為状況を理解しておらず、「高校生って積極的だなぁ」などとのんびり考えているのだが。

‥入学してすぐのこと、初めて告白を受けたなまえは相手に執拗に迫られ、非常に怖い思いをした。
たまたま通りかかった炭治カが手にしていたフランスパンを投げつけた為大事には至らなかったが‥

それ以降、なまえが呼び出しを受けるたび、何故かタイミングよくこの三人が誰かしら表れ、冒頭のように守ってくれるのだ。
(何で呼び出しわかるの?と以前聞いたが、音が‥とか匂いが‥とか言われたので聞かなかったことにした)

ちなみに、炭治カは執拗な男子生徒にくもりなきまなこで「何で恥をさらすんだ!」と叱責、相手の心を打ち砕くし、善逸は般若のような顔で「俺のなまえちゃんに馴れ馴れしく話しかけるんじゃねええええええ!!!」と追いかけてくるので、一度なまえにフラれ、再挑戦してこようとする猛者はいなかったという。


しかし、この事案は教員の耳にも当然入っていた。


「うちのクラスの‥みょうじなまえの事なのだが‥」
朝の職員会議。
スゥ‥‥と涙を流した悲鳴嶼が口を開くと、不死川がスッと手を上げる。
「‥数学の成績ですか?」
「数学の話ではない」
以前赤点を取らせてしまった不死川は、安堵し乗り出した身をおさめた。

「男子生徒からの呼び出しが多い。素行を見る限り本人には問題が無さそうだが‥」
言葉を選びながら話す悲鳴嶼に、宇髄が首をかしげる。

「問題あんのかね?みょうじに限ったことでも‥」
「‥冨岡」
悲鳴嶼は、無表情で机を見つめていた体育教師に話を促す。
「‥‥‥高校生は、力が強い」
「あ?」
年始のセール並みに割り引きされた台詞の文字数に、宇髄は苛立ちを見せた。

「みょうじに、無理矢理迫る生徒を見た」
「!」
「あら‥それは最低ですね」
にっこりと、美しく微笑む胡蝶の額には青筋が走っており、隣にいた響凱は怯えて心の中で泣いた。

「非常階段で昼飯を食った時だけで‥三回は見た」
「さすがボッチ飯」←宇髄
「俺はボッチじゃない」


「俺も見た!!」(クソデカボイスby煉獄)
カッと目を見開き冨岡の50倍の声量で発するものだから、隣にいた響凱は耳を押さえて今度こそ泣いた。

「介入しようかと思ったが、竈門少年が助けていた!」
「‥俺のときも、我妻や嘴平が来た」
「親衛隊かいィ‥みょうじに事前に報告させるかァ、俺が」
「すまぶらはやめて欲しい‥」
ボキボキと手指を鳴らす不死川を悲鳴嶼が制する。

キーンコーンカーンコーン‥
始業のチャイムが鳴り、慌ただしく教師たちが散っていく。
本当は、みょうじは一人暮らしだからストーカー被害などが心配だ、様子がおかしくないか一緒に気にかけてほしい‥そう言おうと思っていた悲鳴嶼は、猫のテイッシュケースを静かに握りしめた。



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