#9

今日は晴天。遠足日和である。

「梅雨なのに晴れて良かった〜」
メッセンジャーバッグを肩にかけたなまえは集合場所へ向かっていた。
筍組のコースは午前中美術館見学→昼前に公園内の森林ゾーンでどんぐり拾い(何で皆納得しちゃったの?)→昼食は班毎に別れるがなまえ達6班は芝生ゾーンでピクニック→午後博物館見学(途中併設されたカフェで休憩)→解散だ。

今日の服装を決めるのは非常に苦戦した。外でも動くし、美術館など屋内にも行くし‥何より付き添いの教師の中に煉獄がいるのだ。
博物館での解説要員だろうから、午後に会えるか会えないかだが‥できるだけ好印象の私服を選びたい。
前日深夜2時までかかって選んだのは、ノースリーブシャツにカーディガン、スキニーデニム。シンプルイズベストだぁぁぁ!だって先生の好み知らないんだもん!

(緊張するなぁ)
先日車で送ってもらった日から一月以上経過したが、その間一度もまともに話していない。歴史の授業終わりもいつも生徒に囲まれて忙しくしているし、職員室を覗いても不在であるのでハンカチ返却もついぞ諦め、お礼の手紙と共に煉獄の机に置いてきてしまった。
そも、翌日挨拶してくれた煉獄があまりにもいつも通り、爽やかに程よい距離感だった為拍子抜けしてしまった。
‥よくよく考えると、煉獄は相手が誰であっても送った筈だし、危機管理がなってない生徒であったら同じように諭した‥と思う。
確かに距離は近かったが、他の生徒たちと違い、彼からは劣情の類いは一切感じなかった。ただ真っ直ぐな、生徒を守りたい気持ちが勝り‥物理的距離が近くなっただけ。
‥そう頭で理解してはいるものの、あの夜を思い出す度になまえは動悸がおさまらなくなるのだが‥。

「ぎゃぁぁああぁあなまえちゃん私服!!!可愛くて死にそう!!!(バタッ)」
「「善逸ーーー!!」」←炭治カ&伊之助
待ち合わせ場所にいくと、上記三名が付き添いの冨岡先生と立ち話をしているところだった。
こちらを見た瞬間に倒れた善逸に怯えつつ挨拶をする。
「なまえちゃぁん‥パンツスタイルも似合うねぇ‥スキニーとかピッタリしてて鼻血出そう!勿論そういう意味で!!ゴフッ」
善逸もアレだけど躊躇なくグーパンする冨岡先生よ!言論も取り締まりだしたよ!
わーきゃーと騒々しいところに、残りの女の子2名も到着する。曰く、「何か汚い高音が遠くからでも聞こえた」らしい。


まずやってきたのは美術館。世界各国から集められた美術品がジャンル毎に展示されており、欧州の華やかな様式を模した豪華絢爛な内装に何ともいえない居心地の悪さを感じる。ドレスコードでもありそうな場所だ‥デニムにスニーカーでごめんなさい。

ぴかぴかに磨き上げられた大理石は鏡のように美しく、装飾で縁取られた大きな窓から燦々と光がさしている。
その中を進むと、「よぅ、いらっしゃぃ」と美術教師が我が家のように迎え入れた。
「まぁ、楽にして寛いでってくれや」
「お邪魔します!」
‥前から思ってたけど、炭治カって頭はいいんだけどちょっと天然だ。

炭治カ達三人と宇髄は何やら仲がいいようで、頼んでいないが教師が見学コースを一緒に回ってくれる。宇髄先生、先生を見つけて大量の女子生徒がついてきてるんですけど‥先頭の私がリーダーみたいになっちゃってんだけど。

「そういえばみょうじ、この前煉獄の車に乗ってたよな。派手にビビったぜ」
「ブッ‥ゲホゲホッ」
有名な作品の前で生徒達が盛り上がっている隙に、宇髄がなまえに耳打ちしてくる。
何も飲んでいないがむせた。唾液がお邪魔しまーすって肺に入った。
「な、マジで珍しいっつか‥俺煉獄が女子生徒車に乗せてんの初めて見たわ。何?そういう事なの?」
「落ち着いてください先ゲェーーーッホ」
「お前が落ち着け」
「ゴフッ」
バシィッと背中を叩かれ、目から火が出た。力強っ

「‥もとは悲鳴嶼先生が送ってくださる筈で、」
「え?何?悲鳴嶼先生との逢引からの略奪?」
「怒りますよオォ‥!」
これは、からかわれてるな。よーし喧嘩だ、負けないぞ!
なまえは心のなかで腕捲りをする。

「ブハッ、冗談だって!お前ツラに似合わず派手に三枚目だな!」
「何ですってェェ」
今度こそ本当に腕捲りを始めたなまえに両手を上げた宇髄は、「もう煉獄には吐かせた」、と言い咳払いをした。
「あんな堅物の煉獄が生徒に手出すわけないからな、理由聞いて納得だわ」
「そうです、煉獄先生はそんな方じゃありません」
「何でお前が誇らしげなの?」
ぞろぞろと女子生徒達が戻ってきた為、会話は強制終了となる。
プリプリと怒りながら6班のもとへ帰っていったなまえの背中を見ながら、宇髄は件の人物へメッセージを送る。
<1年のみょうじなまえ、いいね!気に入ったわ>
送信完了後ポケットへしまわれたスマホがすぐに着信を知らせ、再び取り出される。
画面には、<絶対に手を出すなよ。親御さんから預かっている大切な生徒だぞ>。
「‥へぇ」
満足そうに口角をあげると、宇髄は自分を呼ぶ生徒の群れへ歩いていった。

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