#10

"一番多くどんぐりを集めろ!優勝した班には有名ホテルビュッフェのランチ券プレゼント!"
遠足の栞にポップな字体で書かれた文言を見て、生徒達はやる気に満ち溢れている。
(だから皆okしたのか‥!)
自分で決めた行程なので栞を見ていなかった。どうやら景品が出るらしい。
集めたどんぐりは園内のリス園に餌として提供するらしく、公園側も快くokしてくれた。

「おっしゃぁぁー50個!」
「早っ」
雲ひとつない紺碧の晴天のもと、高校生達が
必死にどんぐりを探す様子はなかなかにシュールである。
なまえも動物大好き、美味しいもの大好きなので張り切って取り組んでいるのだが‥。

「みょうじさん、調子はどう?」
(どちら様でしょうか‥)
男子は、可愛い子の情報共有が驚くほど早い。1年の全体行事のためクラスがごちゃ混ぜになっており、普段は話しかけづらいなまえのもとへ、他クラスの男子が寄ってくるのだ。それも一人や二人ではなく。
「そうやって話しかけて遅らせる作戦ね?リスのごはんがかかってるんだから負けないよ!」
「そんなにリスの事を!?」
だがなまえはどんぐりに全集中だった。

広い公園だが、視界のどこかには炭治カや善逸がいてくれたし、善逸を見張っているのか冨岡先生も近くにいる。‥伊之助は‥どこか遠くだろう。

「なまえちゃん、どんぐり重くない?俺が持って差し上げますよぉ〜!」
しばらくすると、善逸が飽きたのかえへへと近づいてくる。
善逸が近づくと冨岡先生がじっ‥とこちらを見てくるから緊張するなぁ‥。
「善逸、頑張ってるな!俺ももっと取らなくちゃ!」
炭治カもにこにこと歩いてくる。癒される‥けど背中に背負ってるその竹籠は何?まさかどんぐり?
「なまえも凄いじゃないか!優勝したらビュッフェ皆でいこうな!」
「うん、行こう!」←なまえ
「ええぇぇえ!!??炭治カ、グッジョブ!!入学して一番のグッジョブ!!!なまえちゃんとプライベートで会えるなんてグフフ‥」
叫んだと思ったらくねくねしだした善逸。
本当に見ていて飽きない子である。

「ところで善逸、さっきから言おうと思ってたんだが頭に蜘蛛ついてるぞ」
「え?」
炭治カの指摘で、善逸の頭を見ると確かに‥いる。うわぁ、大きめ‥
「ギィィヤァァアァァァア!!早く言えよぉおおおおおお」
善逸が絶叫し、蜘蛛を振り払うべく走り回る。ちょっ、こっちに来ないで!お約束か!

ドンッ
「ぎゃっ」
善逸に衝突され、落ち葉が敷き詰められた山の斜面でぐらりと体が傾く。
あ、今日も転ぶんですね、了解でーす。
どこか冷静ななまえの脳内が反応する。
一度木の幹に背中をぶつけたところで、斜面を落ちそうになったなまえの腕を炭治カが掴む。
今回もセーフのパターンで助かる。
この山のなか転んだら顔面真っ黒だからね!野人だからね!帰るわそしたら!

「なまえ、大丈夫か!?」
「ああああごめんねぇぇえなまえちゃんっ‥怪我はない?‥グスッ」
心配した二人が駆け寄ってくる。
怪我は無いが、羽織っていたカーディガンの背中部分がざっくり裂けてしまった。

大粒の涙と鼻水を流し土下座で謝る善逸を宥めながら、なまえは破れたカーディガンをしげしげと見つめる。
「炭治カ、ハードロックみたいな雰囲気でごまかせるかな?」
「無理だと思う!」←くもりなきまなこ





「はぁーお腹いっぱい‥」
「気持ちいいねー」
伊之助の桁外れの収穫(リスも迷惑だと思う)により、6班は無事優勝を果たした。
今は昼休憩。
広大な芝生ゾーンに大きなピクニックシートを広げ、皆で弁当を食べた。
先の一件で上着がなくなってしまったが、6月の昼下がりは暑いくらいで、腕が出ていても全く問題ない。
食べ終わった炭治カ、善逸は伊之助に引きずられ公園散策に行ってしまった。
女子3人でぽかぽかと日光浴。最高だ。

それにしても‥お腹いっぱいになると何故こうも眠くなるのだろう。
燦々と降り注ぐ太陽光を全身で浴びながら、なまえの瞼のシャッターは閉店準備をはじめてしまった。
「なまえちゃん、眠そうだねぇ」
「昨日準備に時間かかって目が冴えちゃってさぁ‥2時くらいに布団入ったんだけどね、‥バスケできるくらいギンギンで」
「そんなにっ‥!?」
女子達は楽しそうに笑っているが、なまえは限界だ。
あ、ダメだ‥寝る‥私は寝ます‥
「私ここで寝て荷物番してるから、好きにお出掛けしてね〜」
「あはは、了解!じゃーうちらはデザートに向こうのアイス食べに行ってくるね」
風邪ひくなよ〜と言い残して、二人は去っていく。なまえはピクニックシートに横になり、すぅすぅと眠ってしまった。
‥寝ているなまえを見て、炭治カが戻ってきてくれたことにも気付かず。





「竈門」
ぽかぽかとスマホゲームに耽っていた炭治カは、教師がこちらを見下ろしていることに気づく。
「煉獄先生、こんにちは!」
にこーっと満面の笑顔を浮かべる炭治カに、煉獄もにこりと微笑んだ。
「みょうじは寝ているのか」
「はい、気持ち良さそうですよね。見てると俺も眠くなってきちゃいます」
でも俺は頑張ります!と力こぶを作る炭治カを、さながら番犬のようだと煉獄は思った。

「なまえにご用でしょうか?」
起こそうと手を伸ばした炭治カを、教師は「いや、いい」と手で制した。
「誰かが倒れているように見えたので様子を見にきたんだが」
気持ち良さそうに寝ている、と目を細める教師からはとても優しい匂いがした。
炭治カは煉獄が大好きだ。

「君は遊びに行かなくていいのか」
「えっ」
パッと顔を上げた炭治カは、眉を下げた。
今頃伊之助あたりが怒っているだろうか。
「みょうじが心配なら、俺が見ていてやろう」
「でもっ‥」
申し訳ないと思ったが、遊びに行きたい気持ちが顔に出ていたのだろう。煉獄はなまえが視界に入るようシートの端に座り、靴だけ外に出して長い脚を組んだ。
「ありがとうございます!1時には戻ります!」


そよそよと、風がそよいでなるほど気持ちがいい。夏を目前に控え、精一杯背を伸ばした若草の匂いがする。教師という立場でなければ、自分もなまえのように四肢を投げ出して昼寝をしたくなるだろう。
煉獄は持っていた本を開いた。が、一度閉じ、再びなまえに視線を向けた。
数秒間見つめて、先程の宇随のメッセージを思い出す。

「‥よもやよもやだ」
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