#11

あれ?私いよいよ妄想と現実の区別つかなくなったかな?煉獄先生の匂いがする‥

遠くで聞こえた子供の笑い声。意識が覚醒していく。
目を開け、半身を起こすと。

「おはよう!目が覚めたか。」
「‥煉獄先生‥」
何だ煉獄先生か‥煉獄先生!!?
ガバッと起き上がり、正座をするなまえ。
「‥‥‥‥‥」
状況が理解できず、頭が真っ白になる。

「気持ち良さそうに寝ていたな!俺も眠くなってしまった!」
石化したなまえを気にする風もなく、教師は晴天を仰いだ。その横顔を凝視してしまう。
「‥‥」
‥室内の彼も格好いいが、太陽光の下の煉獄の破壊力が凄い。
焔色の髪が光を浴び、柔らかに風にそよいでいる。いつもより色素が薄く見える赤い瞳はきらきらと光を灯し、長い睫毛から細い影が頬骨まで伸びている。すっと通った鼻先から薄い唇へかけての陰影が、この男の造形の美しさを引き立たせていた。

「‥先生‥」
何で先生が隣に座ってるの、とか。
ハンカチありがとうございました、とか。
あぁ、本当に格好いいなとか。
怒涛の勢いで頭のなかを駆け巡ったけれど。
それよりも。

「‥私寝言言ってませんでした?‥夢の中で不死川先生に怒られてたんですけど‥」←※事実

‥何カミングアウトしてんだ私!雰囲気!
言ってから恥ずかしくなって顔を手で覆ったなまえを、煉獄はきょとんとした顔で見て‥「ははは!」と笑った。
笑った!?
ガバッと顔を上げて顔を見た時にはもう、表情はいつも通りだった。
‥笑った顔近くで見たかった。可愛いんだよな‥

「言ってたぞ!」
「(ガビーーーーーーーーーーン!!!!!)」
「嘘だ!何故倒れる!」
気持ちとしては泡を吹いてぶっ倒れたかったが、何とかこらえて膝の前に両手をつくに留めた。嘘かよぉ‥可愛いけども!!!

さっきからずっとパニックだ。
折角初めての校外、二人きりで話すチャンスなのにろくな話ができていない。もっと‥知的で高尚な話をすれば大人の先生に近づけるかもしれないのに!
「みょうじは見ていて飽きないな!」
ハイ私の恋終了ーーーーー動物園のゴリラですね、笑え!笑えよ!
「だが屋外で昼寝は無防備すぎる!控えてほしい。よいな?」
「はぃ‥‥‥(しゅん)」
‥ゴリラ怒られたよ。無防備かな?あ、財布とかか。

チラリと煉獄を見ると、優しく目を細めている。うっ‥格好いぃ‥
さぁっ‥と、爽やかな風が通りすぎる。

「なまえちゃぁぁぁああん!!!ただいま!!」
後方から善逸の声が聞こえる。
同時に教師が立ち上がった。
「煉獄先生、ありがとうございました!」
何で炭治カがお礼を言ってるのだろう?
もしかして私じゃ貴重品危ないと思って連れてきてくれたのかな?
だとしたらありがとう炭治カ‥!色んな意味で‥!
ぼーっと集まり出す班員達を見ながら、なまえはぐっ‥と伸びをした。



教師が去ったあと、シートを片付けながら班の女子達がこそこそと話しかけてくる。
「ねぇねぇ、煉獄先生と仲いいの?マジ羨ましい〜」
「ほんとだよね!私全然話したこと無い‥」

煉獄は、学園人気No.1だ。(男女問わず)
ライバルというか、同志というか‥様々な意味で好意を持つ者が多いのだが。
彼はにこやかで人当たりもよく、真摯に話を聞いてくれるが、如何せん見えない壁がある。物理的にも近づかせてくれないし、質問以外で女子生徒と二人でいるのをなまえも見たことがない。(そもそもそんなに見てないけど!)

「炭治カが連れてきてくれたっぽい!でも私不死川先生(に怒られる)の夢見ててさ、寝言‥」
「えー!なまえ不死川先生のファンだったのね〜」
「え?ちが‥」

「ほら皆、博物館着いたぞ!静かにな!」
誤解されたまま、炭治カの声で女子トークは終了してしまった。
まぁいいか‥私が誰のファンとか誰一人興味無いだろうし‥
気持ちを切り替えて博物館に入る。

明るくて煌びやかな美術館とは正反対、天然石をベースとした内壁や柱、薄暗い証明がおどろおどろしい。何より氷河期かな?というほど寒い。クーラーが効きすぎだ。

先に入っていった生徒達は各々上着を取り出している。なまえのは‥さっき破れた。
「ああああなまえちゃんごめんよおおおぉ俺がさっきぶつかったせいで上着がっ‥寒いよねぇぇえ」
善逸が泣いて謝ってくるが、班の男子は三人ともTシャツ一枚であり、貸せる物が無い。
‥しかし、鳥肌どころではない。ちょっと汗をかいていた事もあり、風邪を引いてしまいそうだ。
「ご、ごめん皆、凍えそうだから私外で待ってる‥!」
「みょうじ、寒いか!」
「!!」
急に後ろから聞こえた明るい声に、同級生達も何事かと振り返る。
「煉獄先生‥」
薄暗い館内に燃える焔色の髪が、先日の車内での出来事を思い起こさせて動悸がする。
今日は二回も話せるなんて嬉しい‥寒い‥
「上着は持ってないのか!」
「持ってきましたけど‥さっき破いちゃいました」
なまえは震える手で鞄から背中が裂けた上着を出した。
「転んだのか!!」
あああ私のバカ何で自分から‥恥ずかしい!!!
隣で善逸が泣きながら「違うんですううう俺があああ」と弁明してくれるが‥

「ならば、これを羽織っているといい!」
「えっ‥‥‥」
キャーーッと、女子生徒が色めき立つ声が聞こえる。
暖かい。今、煉獄先生が、‥羽織っていたカーディガンを脱いで、後ろからかけてくれた‥?
「っ‥‥‥」
これはヤバい。ハンカチよりもずっと‥

ぬくもりが、匂いが。上半身をすっぽり覆って、まるで‥
「よかったな!なまえ!これで見学できるな」
無邪気な炭治カの声にも、返事ができない。
お礼くらい言え!頑張れ私!!

「ありがとうございます!命の恩人です!」
言えた!余計な事も言っちゃったけど!涙

何とか笑顔を作れたらしい。
「恩人か!ならばそれは俺の弟だな!今朝博物館は寒いと持たせてくれた」
弟を思い描いたのか、目を細めて話す煉獄。家族の話をしてくれた。非常に珍しい‥!

「出口に冨岡がいるから、渡しておいてくれ」
そう言ってまた次の班の出迎えに行ってしまった背中を見送ると、なまえはほぅと息をはいた。煉獄先生、弟がいるのか‥凄く可愛がってそう‥見てみたいなぁ。


煉獄の香りに包まれながら回る博物館は‥正直内容は1ミリも頭に入ってこなかった。
余談であるが、出口で冨岡に上着を託したとき、「男物の上着を羽織るなまえちゃん‥良かったなぁウフフ」と漏らした善逸は再び殴られたらしい。
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