#13

「「失礼します」」
昼休み、職員室。
なまえと6班で一緒の女子生徒は、2人で担任である悲鳴嶼の机を訪れていた。

「すまない‥助かった」
次の授業で配られる新しい資料集の受け取りをしに来ただけだが、非常に緊張する。
悲鳴嶼の隣のデスクは煉獄だ。不在がちだが、今日はいる‥!
猫でいっぱいの可愛い机越しにチラと見るが、彼はこちらを見ることなく、忙しくパソコンに何かを打ち込んでいた。たまにコーヒーを飲んでいるのすら輝いて見える。思えば煉獄が何かを飲食しているところすら見たことが無い。あのマグカップになりたい。‥いやいや、私JK 。落ち着け。

受け取った山のような資料集を友人と手分けして胸に抱え、では失礼します!と頭を下げた。のだが。
ズザザザザザザッ‥‥
何と言うベタな。なまえの腕の中の資料集が一番上からトランプの如く連なって地面に滑り落ちた。サーーーッと血の気が引く。静まり返る職員室。

「ブハッ!!!みょうじ、おまっ‥腹痛ぇ!!!」
背の高い宇髄は向かい側だが、見えていたのだろう。お腹を抱えて笑っている。
かーーーーっ‥引いた血の気が顔に集まり紅潮するのを感じた。どうしよう。煉獄先生に呆れられたかも‥
‥でもこういう時、煉獄先生なら笑わずにっ‥‥‥いやこれ笑ってるな!!顔向こうに背けてるけどめちゃくちゃ肩震えてるなこれ!!可愛いなもぅ!

なまえが呆然としている間に友人と悲鳴嶼が拾い集めて渡してくれる。
なまえはお礼をいうと小さくため息をついた。

「あはは、なまえ良かったね!不死川先生に見られなくて!」
どのタイミングでその勘違い披露してくれてんだ!!すぐそこに煉獄先生いるんだよ!いや興味無いだろうけど‥でも!
「何何?みょうじ、不死川のファンなの?」
ほら乗ってきちゃった。宇髄先生が!

「いえ、誤解です。この前お昼寝してたら不死川先生の夢を見て、それを話しただけです」
「夢?どんな?」←宇髄
「数学で赤点取って、怒られた挙げ句赤ペンを額に投げられ、刺さって血が出る怖い夢です」
話ながら視線だけで周りを確認したが、先程のズザザ事件のせいか職員室の全員がなまえを見ている。いや先生達貴重な昼休み何に費やしてんの。あと響凱先生、私の話の合間に合いの手みたいに鼓打つのやめて下さい。

先程から宇髄がにやにやしている。なまえは不思議に思いながらでは、と後ろを向いた。
「みょうじ‥お前俺の事そんな風に見えてたのかいィ‥」
‥不死川先生、いた。額の青筋を見るに、夢のくだりは丸聞こえだったらしい。
心の中では絶叫したが、なまえは先生、こんにちは‥と視線をそらさず後ずさった。

「おいィ‥何だその対応熊じゃねェんだぞォ」
「ふぁ!ひはいへふ!」
‥不死川が女子に優しいという噂はデマなのだろうか?片手で不死川に頬を掴まれ、むぎむぎされる。そんなに痛くはないが、絶対不細工になってる‥

そんな中でも、嗅覚は好きな人の香りを関知した。ふわりと煉獄の香りが鼻を掠めた、その時。
煉獄の腕が、なまえの背後から頭上を通過し不死川の手を押さえた。‥体を前傾させたせいだ。なまえの後頭部が、煉獄の胸に当たっている‥
「不死川、そう苛めてやるな!」
大好きな声が、頭上すぐ近くから聞こえる。
頭が真っ白だ。先生‥。煉獄、先生‥。


キーンコーンカーンコーン‥

遠くで昼休み終了のチャイムが聞こえる。
バタバタと動き始める職員室。
「‥チッ、俺が苛められた気分だぜ」
手を離すと、不死川は赤点取ったら正夢にしてやるからなァ‥と恐ろしい事を言って去っていった。
煉獄の体温もすぐに離れた。教科書を小脇に抱えていた彼はなまえを追い越し様、「若干うなされていたのはそのせいか」と目を細めて去っていった。

「‥‥‥!!!!!」
顔から火が出た。実際出たと思う。
以前踊り場で見せたのと同じ、ちょっと意地悪な顔。なまえだけに聞こえる小声。胸が。
胸が苦しい。キュンどころじゃない。また、頬を殴られたような気分だ。

先程の近さといい、心臓に悪すぎる。そんな私の知らない一面を、急に見せないで。


‥教室への道すがら、友人が「さっきの煉獄先生、格好よかったね。あんなのスルーしそうだけどね」などと楽しそうに話しかけてきたが、何と返事したかもわからない。


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