#16

その後、警察への事情聴取、現場での状況説明(写真まで撮らされた‥)等で大会を一時間ほど中断させてしまった。もう本当に申し訳ない。主である先生のお父様にも謝ったが、「何で謝るんだ!」と怒られてしまった。もう踏んだり蹴ったり‥

ちなみに証拠品であるカメラを壊した件について、煉獄先生まで警察の方に怒られてしまった。
「困りますよー一応現行犯ですけどね?証拠品壊されちゃうと」
「すみません!」
「んーそんな清々しい笑顔だとお巡りさん困っちゃうんだけどね?」
「すみません!誰にも見せたくなかったので!」
「お兄さん確信犯だね?ハァ‥」
本当にすみません‥皆さん‥あと警察の方‥

余談であるが、こんなことがあったにも関わらず、ビュッフェには予定通り行った。
一人でいたくなかったのと、後から犯人に沸々と怒りが湧いてきて、自棄食いしたくなったから。
‥なまえと伊之助のバカ食いにより、料理の提供が間に合わずホテルの厨房は修羅場と化したとか。





翌週、職員会議にて。
「えー‥先週から我が校の周辺に不審者が出没しているようだ‥」
スゥ‥と涙を流しながら、悲鳴嶼は手を合わせる。
「あ、昨日生徒が話してんの聞いたわ。じろじろ見られてキモかったってな」
宇髄が頬杖をつきながら眉を寄せた。
伊黒がス‥と指をさす。
「校門付近に劇薬を撒いてやろうか」
「何で生徒ごと撃退しようとしてんだ」
やめてくれ、と宇髄が顔の前で片手を振った。

「不審者‥あ」
何かを思い出したかのような体育教師へ、一同の視線が集まる。
「何度か追い払った‥」
「ハァ!?言えよ!」
思わず宇髄が声を張り上げた。
その大声に、冨岡は迷惑そうに眉を寄せた。

「特徴は?」
「若い男だった‥。20歳前後‥茶髪で、耳にピアス」

ピク、と、煉獄の指が動いた。

「大学生かァ?ふざけやがって‥」
不死川の機嫌が下降していくのがわかる。
「‥以前も同じような不審者がいたなァ‥」
「3年の胡蝶しのぶのストーカーだな。いつの間にか解決してたけど胡蝶、あん時妹さん何かしたのか?」
宇髄の問いかけに、胡蝶は美しく微笑む。
「燃やしました」
何を!?‥‥誰が!?
職員室はかつてない静けさに包まれた。
隣にいた響凱は泣きながら椅子を少し煉獄側へ寄せた。

「今回も特定のターゲットがいるのかしら?」
「‥‥‥」

<兄上、高等部の‥>
<‥‥ストーカーかもしれません‥>
<茶色い髪で、両耳に金色のピアスを‥>

「‥みょうじだ」



後日、なまえは悲鳴嶼に生徒指導室へと呼ばれていた。窓はあるが個室で、狭い室内に向かい合うように二人がけのソファが二つ、テーブルを挟んで並んでいる。
なまえの目の前には、山のようにそびえ立つ悲鳴嶼と、その横に天女のような胡蝶。
ここ冥土かな?と思ってしまう程度には、なまえは困惑していた。

「みょうじ‥落ち着いて聞いてほしいのだが」
悲鳴嶼が言葉を選びながら、慎重に件の不審者の情報を伝える。
「何か被害に合ったりしてない?」
にこにこと、胡蝶が首を傾げる。
「悲鳴嶼先生には話し辛かったら、私だけでもいいのよ」
隣の悲鳴嶼は若干ショックを受けたようで、すぅ‥と涙が頬を伝った。

「先週しつこくされてからは、全く見ていませんね‥」
そんなことより嫌なことが日曜にあったなまえは、厄日だった‥と内心ため息をついた。
パニックだったとはいえ、好きな人の目の前でその弟さんに抱きつくとは‥カオス。嫌われたかなぁ‥‥
正直今のなまえには不審者<日曜のショックであった。が、本当は前者の方がよほど恐ろしい。

こういうケースは厄介で、実際に被害が出ない限り法で裁くことは難しい。刺激を与える事は逆効果であり、慎重な対応が必要なのだ。

悲鳴嶼も、なまえが割りとしっかりした生徒であることは承知している。若干ドジな部分はあるが、注意散漫とか、素行が悪いとか、判断力が鈍いとか‥そういう心配要素はない。
故に今回は、注意喚起がしたかったのだ。

「もし何かあったら‥警察に電話だが、それが嫌だったら‥学校に電話するといい‥」
そう言うと、悲鳴嶼は職員室直通の番号が書かれたメモを渡してきた。猫柄!!!
「割りと遅くまで、誰かしらはいる」

その後は、
・登下校時は、周囲に十分気を付けること
・オートロック解除時は、背後に注意すること
・宅配ボックスを活用すること
等々、お父さん‥もとい、悲鳴嶼先生にたっぷりと防衛の心得を叩き込まれた。
とても有り難かったが、一度に大量の情報を詰め込まれたため、指導室を出る頃にはなまえはフラフラになっていた。メモリー不足‥

そして、この日からしばらく、「悲鳴嶼先生が美女二人を侍らしていた」という妙な噂がまことしやかに囁かれたという。

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