#17

明日から、夏休み!
半分は部活。合宿もあり。秋の文化祭の目玉イベント、キメツ☆音祭のバックダンサー並びに後夜祭でのパフォーマンスに備え、猛特訓を行うのだ。頑張るぞー!
あとはクラスの女子で海!
あと、班の皆で夏祭り!

そして、単発の日雇いバイトをちょこちょこいれた。
花火大会の日は皆忙しかったから遊覧船の給仕をしつつ一人で見ることにした!涙
あとは披露宴、イベント‥新しい水着と浴衣も欲しいし、気合いが入る。

(それにしても‥)
ミーンミーンミーン‥
開け放たれた教室の窓からぬるい風と蝉の声が入ってくる。透き通る青い空に真っ白な入道雲。夏である。
(あの日から全く煉獄先生と話せてない)
燃料切れよろしく、なまえは机に両ひじをつき、合わせた手の甲に顎をのせた。
‥もう一ヶ月程だろうか。プライベートで会えたからといって、友好度が上がったわけではないらしい。現実はシビアだ‥

休み時間のクラスの喧騒を、どこか遠くで聞きながら思いを馳せる。

高校生活は、三年しかない。教師である煉獄から生徒に好意を持ち、かつ近付いてきてくれる可能性はゼロである。
一年生のうちに、何とか「大量の生徒のうちの一人(多分今ココ)」から「(男女問わず)お気に入りの生徒」位には上り詰めたい。そんな生徒煉獄にいるのか?いや、今は考えるな!
そのあと手法は全く思い付かないが、何とか自分が女性であることを認識させ(多分煉獄先生は生徒の性別なんか気にした事無いと思う!)、三年生では‥受験あるけど‥好きになってほしい!どうやって!!!

ガンッと机に頭突きしたまま突っ伏した。前方誰もいないと思ってたけど後ろで「うぉっ」て声したから伊之助いるな!恥ずかしい!!!


‥とある研究によると、人間が恋に落ちる速度は一秒にも満たないらしい。
私か。一目惚れじゃないけど、二回目に桜の木の下で会ったとき、何でか好きになっちゃったんだよね、そう。頬を殴られたみたいな衝撃で。
であれば、さっき立てた長期戦のプランとは。‥分からない。ただ平々凡々な私は、まだリングにも上がっていないと思う。あがらせろ!一発殴らせろ!!

ガタッ
(ダメだ、混乱してるわ)
自分に引いたなまえは、何か冷たいものでも飲もうと席を立ち自販機へ向かった。


一年生の教室は、一階である。二年生は二階(職員室も!)、三年生が三階だ。
なまえは一階中央エリアの自販機へ向かっている。中央エリアは売店と、カフェのようなテーブルと椅子がある。その奥に自販機があるのだが、硬いベンチがあるのみなので人気が無く空いており、なまえはお気に入りの場所だった。
クーラー効いているとはいえ、暑いなぁ‥

ガコンッ

フォンタグレープを取り出し、ベンチに座ってプルタブを開ける。
「サボりか!」
「ゴフッ」
突然真横から聞こえた大きな声に、ちょっとジュースを吹いてしまった。
「煉獄先生‥」
真横から自分を見下ろす赤い瞳を、恐る恐る見上げる。一ヶ月ぶりに見る近距離の煉獄は相変わらず格好良くて、声をかけてくれた事が嬉しくて。‥いや今休み時間です!

煉獄は片手に教科書類を抱えている。一年のどこかのクラスで授業なのだろう。
ドキドキと緊張するなまえの横を通りすぎ、冷たいコーヒーを買う背中をじっと観察する。
あ、ブラック無糖だ。うん、イメージ通り。
教師は缶コーヒーを手に取ると‥コの時型に配置されたベンチの、反対側に腰かけた。

(えっ座るの!!?どうしよう!!!)
繰り返しになるが、煉獄は、そのガードの固さから女子生徒と二人で駄弁ったりしない。やはり自分は性別すら意識されていない‥

‥やはり、告白はしないまでも、自分が好意があることを匂わせてみようか?そうすれば、否が応でもなまえを女子だと認識するだろう。
いや待て。この前の茶髪ピアスはどうだ?好意を見せられたが為に、余計に生理的嫌悪が走ったではないか。やはり友好度が低いうちに好意を明け透けにするべきではない。‥あれ?とき●モかな?

「千寿カが、君を心配していた!」
「!」
‥なるほど。先日の盗撮事件を気にして時間を作ってくれているのか。あぁ、心臓に悪い。
「千寿カくんに、迷惑かけちゃいました‥」
「迷惑か!なんだ!」
先生は、本当に明るくはきはき話すなぁ。
あと鈍い(誉めてる)。
「怖くて混乱してしまって、誰かに抱き締めてほしくて‥抱き締めてしまって。」
(セクハラと訴えられたらどうしよう。何より、先生に嫌われたらどうしよう。)
‥本人に相談しているあたり、まだなまえはテンパっているのかもしれない。
煉獄はなまえを見つめたまましばらく黙っていた。が。
「抱き締めて欲しかったのか!ならばそう言えばよいだろう!」
「ゴハッ」←二回目
どういう意味!?言ったら抱き締めてくれたの!?くれないでしょ!!

煉獄の言葉に、いつも振り回されている。
口の回りをハンカチで拭いつつ頭をフル回転させていると、
「‥怖い思いをさせてしまって、すまなかった」
‥とても優しい声が降ってきた。
「助けてやれず、不甲斐ない。」
‥何かあったら、迷わず頼ってほしい。
そう言って真っ直ぐこちらを見るから。なまえは、蛇ににらまれたの如く硬直してしまった。
いつも感じのよい笑顔なのに、急にそんな真顔を見せられたら。
‥もっと深いところまで落ちてしまうではないか。

「千寿カも、迷惑などではない。」
「‥‥」
「あの子も年頃だから、照れてはいたがな!」
そう言って目を細めた煉獄は、また酷く優しい顔をしていた。千寿カくんのことを話す煉獄先生、優しくて凄く好き。

なまえもつられて微笑んでしまい、自身の缶ジュースへと視線を落とす。
ちょっと蒸しているけど、凄く幸せな空間だ。好きな人の影響力って計り知れない。

「明日から夏休みだな!」
「はっはい!」
ふわふわした気持ちでいたから、またビックリしてしまった。つられて元気に返事をする。
「遊ぶのは結構だが、夜遊びはするなよ!」
「はい!」
「うむ!いい返事だ!」

丁度、始業のチャイムが鳴った。
ああぁ折角先生とお話できたのに!そして遅刻決定!
「遅刻だ!」
先生もかい!

慌てて残りのジュースを飲んで走り出す。
走るな、転ぶ!と注意してくれる先生も隣で走っているものだから、声を出して笑ってしまった。

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