#21

今日から二学期!
また煉獄先生に会える!!

学校へ向かう道中、嬉しさが隠しきれない。
(途中で「ママー、あの人大人なのにスキップしてるよー」「しっ見ちゃいけません!」という会話が聞こえたけど気にしない!)

結局花火は見られないし、不審者の件は警察→学校→親にまで連絡がいき、「次何かあったら帰ってくるように!」などと言われるし、合宿はきついし、ブライダルバイト以降先生とは一言も話せなかったしで、散々だった。

‥この半年、少しでも目標に近づけただろうか。ファンの子曰く、煉獄は挨拶は返してくれるがお喋りには殆ど応じてくれず、「ほら、早く教室に戻るんだ」が定型文らしい。
これは推測だが、恐らく煉獄は無意識に自分に異性としての好意を露にする者には、より厳しく一線を引いているのではないか?
その証拠に、男子やなまえにはやや込み入った話にも応じてくれるではないか。炭治カからはパンも受けとるし。
え?私男子枠?

校門が見えてくる。
ええい、考えるな、折角の新学期‥
「ヘブッ」
熟考していたなまえは、唐突な額の痛みによろめいた。
「てめェはァ‥みょうじ‥」
立ち当番の不死川にぶつかったらしい。いやわざとぶつかられたのかもしれない。
「おはようございます!」
「おう。いやダラダラ歩いてんじゃねェ。周囲に気を配りながら忍者のように素早く登校しろォ‥」
嫌だ!涙

恐らく件の不審者の事を危惧してくれているのだろうが、それでは誰が不審者か分からない。あーもう、早く飽きてくれないかなあの茶髪ピアス!




HRでは、二学期の行事の予定表が配られた。
ふむふむ、9月に体育祭と11月に文化祭。12月はもうクリスマスからの年末だ。

「なまえと善逸は足が速いからリレーの選手だろうな!」
休み時間に、炭治カがにこにこと後ろへ声をかける。体育祭は、全員参加の基礎種目の他にクラス代表制で男女混合リレーがある。
また、教員の借り物競争もある。煉獄を応援する他ない。たとえ敵チームでも!

「なまえちゃんとリレーかぁ‥!ムフ!バトン渡すのと受けとるのどっちがいいかなぁ!俺に向かって走ってくるなまえちゃん‥俺を待ってるなまえちゃん‥ギャァアアアァァ幸せ!!!」
「「‥‥‥」」←炭治カ、伊之助
善逸はニコニコと幸せそうである。

空は高く、秋の訪れを感じさせる。まだまだ座っているだけで汗がでるほど蒸し暑いが、もう蝉の声はかなり小さくなったし、日の入りも早くなった。
なまえは窓の外を眺める。今日は、歴史の授業が無いから寂しい。




「お疲れ様でした!」
部室で制服に着替えた後、練習場所にスマホを忘れた事に気付く。階段を上り、無事回収してふと窓の外を見た。
猫がいる。ここは3階。
「え?」
慌てて近寄ってみると、この下には非常階段(外)が通っており、そこから登ってきたようだった。
(もふもふだぁー‥触りたい‥)
茶色い長毛が元気に爆発している猫である。
アーモンド型のクリクリした大きな目が煉獄を思い起こさせ、自然と顔が綻ぶ。
(動物大好き!)
なまえは、周囲を確認すると、こっそり廊下の突き当たりまで移動し、非常用扉を開けた。
ふわっと風が舞い込み、スカートが捲れあがる。反射的に手で押さえながら、猫に近づいた。

「にゃーん、おいで〜」
猫は冷たい目でこちらをチラと見ると、外階段を下っていってしまう。
「あ、待ってー!なでなでさせて!」
カンカンカン、となまえも階段を下っていく。
猫は2階から少し降りたところで止まり、ぐーんと伸びをすると、好きにしろとでも言うように寝転がった。
「うわ〜ふわふわ、可愛いねぇー」
満面の笑みで撫でてくるなまえに、猫は冷たい視線を投げてくる。だが気にしない!はぁー幸せ!よーしゃしゃしゃしゃ!!


「煉獄先生!待ってください!」
「!!!!!」
突然真下から聞こえた女性の声になまえは飛び上がる。
恐る恐る覗き込むと、例の桜の木の下で、煉獄の背中のシャツを女子生徒が掴んでいるのが目に入った。

これはっ‥
なまえは天を仰いだ。告白だ。告白か?とにかく見ちゃいけないし、見たくもない。音をたてないよう、そーっと立ち上がる。

「諦めません、勉強もちゃんと頑張ります!だからっ‥」
「離してくれないか」
低い声に、胸の奥が怯えてゾクッとした。
女子生徒もビクリと肩を震わせると、手を離す。
‥怖い。煉獄の拒絶の言葉が、聞くのが怖い。なまえは震える足を奮い立たせ、物音をたてずに上へ登る。
「好きな人がいるんですか!?」
そろりそろり状態の為、全然進まず会話の内容が耳に入ってきてしまう。

「君には関係の無い事だ。もう一度言う。俺は君を好きにはならない。」
「でもっ‥」
「この話は終わりだ。帰りなさい。」
「っ」
女子生徒は、泣きながら去っていった。

ああ、傷付けた。‥煉獄は今、明確な意思を持ってあの女子生徒の心を切り裂いた。
その前に何があったのか知らないけど。
もっと柔らかく言えた筈なのに、何故。
あの優しい煉獄が、何故‥

泣きそうだ。泣くな、頑張れ!足を動かせ!
気付かれないうちにここから去るんだ!
「にゃー!」
猫おおおおおおおおおおお!!!

「‥‥‥っ」
目があった。
木の下の煉獄の赤い瞳と、泣きそうに歪んだなまえの瞳が。
赤い瞳が、ハッと見開かれるのを見た瞬間、なまえは全力で駆け上がった。

脇目もふらずに3階まで駆け上がると、扉を開けて校舎内に雪崩れ込む。
そのままスマホを掴むと、人目も憚らず走って校舎を出た。

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