#22

本日、体育祭。

校庭には白線でひかれたトラックが出現し、校舎側には職員と放送席のテントが設けられている。
爽やかな秋晴れの空の下、響く徒競走のピストル音、歓声。舞い上がる砂埃。

(この祭り感‥!楽しい!)
なまえは全力で楽しんでいた。

先程の玉入れでは、コントロールが悪すぎて伊之助の顔面にど真ん中ストレートを入れてしまい、凄い勢いで追いかけられてお腹が痛くなるほど笑ったし、
綱引きでは男子の馬鹿力で綱が切れてしまい、全員が吹き飛んだのでまたお腹が痛くなるほど笑った。
明日の腹筋が怖い。

おかずを交換しあいながら皆で弁当を食べ、食休みをして午後に備える。
午後の部が始まる前に、ダンス部のパフォーマンスがあるのだ!
ちなみに球技大会でもダンス部の演技はあったが、なまえ達1年生は経験が浅いため、本番は上級生のみの参加だった。今回はなまえのデビュー戦、気合いが入る。

ちなみに、体育祭のダンス衣装は決まっている。チア服だ。おヘソが出る短めのノースリーブに、ミニのプリーツスカート。(このために腹筋100回やった)
勿論ダンス部はチアはやらないのだが、この学校にはチア部が無い。本格的ではないが、体育祭を盛り上げるための恒例行事らしい。

衣装に着替え待機場所へ行く途中、
「ギャアァァァなまえちゃんちょっマジか可愛くて死にそう!!!」という絶叫と「「善逸ー!!!」」という声が聞こえてきたが、聞かなかったことにする。有り難いけども!



最後にポンポンを高く投げ、演技は無事終了した。すごくうまく動けたので、なまえはご満悦である。
ただ冨岡先生が終始竹刀を持って徘徊してたのと、不死川先生がスマホで撮影しようとする生徒を投げ飛ばしているのが視界に入るものだから、部員全員やりづらかったと思う。
ダンス部、可愛いこ多いからなぁ‥

煉獄先生は見てくれていただろうか。職員テントをチラっと見たとき、宇髄先生の隣に立っていたのは見えたけど。
‥周りの子が華やかすぎて、私なんて視界に入っても気付かないだろうなぁ‥しょんぼり。



プログラムは進み、ついに学年対抗の男女混合リレーが始まった。1年の色は緑だ。
以前煉獄に「逃げ足は速い」等と言ったが、なまえは実際駿足である。ゆえに炭治カの指摘通り、クラスで一番だったので善逸と共に代表に選出された。

スタートの空砲が鳴り響く。体格差もあり、1年は不利であるが、なかなか善戦している。
1年の走者は始め3位であったが、何名もの走者を繋いでいくうちに、じわじわと追いあげてきた。2位の背中をとらえたところで、なまえへバトンが渡る。
(大丈夫、走るの得意!!!)
緊張する自身を鼓舞し、後ろ手で緑のバトンを受け取る。走れ走れ走れ!!!

「なまえー!!!頑張れーーーー!!!」
炭治カの声が聞こえる。
「猪突猛進んんんんんー!!!」
伊之助は黙ってて!

カーブを曲がって直線ラインに入ったとき、ついに2位の2年生を抜いた。1年の応援席から歓声が上がる。
「いけー!!みょうじー!」
職員席から宇髄の大声が聞こえる。嬉しい!
‥煉獄先生は2年の担任だから応援してはくれないだろうけど!

2つ目のカーブを曲がったところで3年の走者の背中をとらえた。善逸はなまえよりもずっと速い。これはいけるのではないか?

「なまえちゃん!」
善逸が見える。走れ私ーーーーー
「えっ」
突然、目の前に地面がある。
斜め前で3年のアンカーがバトンを取りこぼし、そのバトンをなまえが踏んだのだ。
綺麗に前のめりになったのが幸いしたのか。
なまえはそのまま手をついて前転し、勢いがつきすぎて膝を強打したが、その姿勢のまま腕を伸ばし善逸にバトンを渡した。

その間に3年走者はバトンを拾い、受け渡すとアンカーが走り出した。善逸が追う。速い。
速い!!
最初のカーブを曲がった時点で3年のアンカーを抜いて、そのまま1位でゴールテープを切った。
なまえちゃあぁぁぁん!!大丈夫!?と涙でぐしょぐしょの顔で寄ってくる善逸は、他クラスの選手にもみくちゃにされて見えなくなった。


「ふぅ‥」
さて、膝である。派手に出血している。
友人が肩を貸してくれようとするが、職員席から珠世先生と‥保健室の睨んでくる少年(!)が走ってきて、肩を貸してくれた。睨まれたけど。
少年、君は‥何をされてる方なの?




「さぁ、これで大丈夫ですよ」
消毒をし、丁寧に包帯を巻いてくれた珠世先生は、とても優雅に、柔らかく微笑んだ。白衣の天使過ぎる‥。薬品の匂いに混ざって、何かとても良い匂いもする。
ほわほわと幸せな気持ちになっていたのだが‥少年がつかつかと歩んでくる。殺気出てない?ここ保健室なのに?
「珠世先生に迷惑をかけるな。もう帰れ。」
ピシャーン!
保健室の扉、閉められた。‥追い出された‥


出場種目は終わったが、まだ体育祭は続いている。校庭へ戻ろう。

「‥!」
まだ痛む足でトボトボと角を曲がると、剣道場からでてきた煉獄と目があった。
‥煉獄が生徒の告白を打ち砕いた、あの日以来である。そういえば、目があったのに逃げてしまった。何だか気まずい‥

「みょうじ!足は大丈夫か!」
‥だがそれは杞憂だった。煉獄は大人だ。至極いつも通りに接してくれる。

「よく転ぶ事は承知しているが、まさかあの大舞台で前転するとは!」
見られてた!!
恥っずかしいーーーーー!!!←3回目

本当に恥ずかしい。顔は真っ赤だ。
「だが、素晴らしい走りだった!感動した!」
「えっ本当ですか!ありがとうございます!」
俯いた顔をパッとあげると、先生は微笑んでグーモ!と親指をたてていた。


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