#26

「ダンス部のパフォーマンスは、欠席してほしい‥」
放課後、悲鳴嶼に呼ばれた指導室で告げられた。

文化祭は、他校の生徒や親兄弟、地域の住民など様々な人出がある。不審者が侵入しやすくなる故、ステージパフォーマンスなど目立つ行為は避けるべきだと。

同席していた冨岡も、同意のようだった。
「不審者の顔は分かっている。見つければ取り押さえるつもりだが‥」

「‥‥‥」
なまえは目を伏せる。
今年の夏休み、部活のほぼ全てを文化祭のパフォーマンス練習に費やした。暑いなか、地獄の合宿にも耐えた。悔しい、何故、私が我慢しなければならないのか。

はい、と元気無く返事をしたなまえを見て悲鳴嶼がスゥ‥と涙を流す。
「お前が努力してきたことは分かっている。今は我慢だ、みょうじ」
いつも淡々と話す冨岡の口調も、酷く優しく感じた。





「絶対コスプレ喫茶でしょ!!!文化祭といえば女子のコスプレ!!!」
「善逸、俺はパン屋がいいと思う!」
「それお前んちの本職だろ!たこ焼き屋台にしよう!アレうまかった!!」

翌日、HR。
筍組は文化祭の出し物で大いに揉めていた。
「え〜クレープとかがよくない?」
「私は演劇やりたい!」
意見が割れる割れる。

「お化け屋敷だ‥」
「「「「「え?」」」」」
「お化け屋敷にしよう‥」
担任の一声に、教室がしんと静まり返る。
「「「「「‥ハイ‥」」」」」

‥何か怖かった‥
‥後に、誰かがそう証言したという。


なまえは項垂れた。
昨日悲鳴嶼は、出し物も目立たないものにしようと言っていた。まさかお化け屋敷一択とは‥皆ごめん‥。

‥先日の煉獄の言葉通り、茶髪ピアスは再びなまえを狙いだしたらしい。その報告を聞いて動いたのは、悲鳴嶼だけではなかった。



HRが終わり、化学室に移動する。
伊黒先生、静かに話すから1限だと眠くなるんだよなぁ‥寝たら磔にされるから誰も寝ないけど‥

「今日は‥催涙スプレーを作る」
「伊黒先生!?」
朝から物騒な発言をする教師に、クラスメイト達が動揺している。どうしたんだろうか。そんなもの教育指導要領にあるはずがない。
生徒の困惑を全て無視して、伊黒は淡々と行程を板書していく。
「‥以上だ。非常に簡単だが、いたずらに作るな。あとテストにも出さない。帰れ」
じゃぁ何で教えた!?
再び教室がざわつく。これが1限目。

2限目、音楽。
「今日は‥最も大きな音が出る、ティンパニを叩いてみようと思う」
「ティンパニ!?」
響凱が、鼓とお囃子以外を教えた事は無い。
「フォルテで叩けば、雷鳴レベルで響く」
「雷鳴!?」
「だが‥防犯ブザーの効果には劣る」
「何の話!?」

3限目、美術。
「練習も兼ねてカラーボールを投げて絵を描け!派手にな!」
「何の練習‥?」

4限目、歴史。
「今日は!騎馬戦ではなく鬼ごっこをしようと思う!さぁ皆、悪代官から逃げろ!」
「今までで一番意味わかんないの来た!」

5限目、体育。
「今日は‥逃げ足を鍛えるために鬼ごっこを」
「4限目とかぶってる!」



ぐえェ‥
教室に戻り、ぐったりするクラスメイト達を見ながら、なまえは心の中で泣いた。
先生達‥メッセージ性が強すぎるよ‥
心配してくれるのは有難いが、他の生徒を巻き込まないで欲しい。






なかなかハードな1日だったが、今日から毎日放課後は文化祭準備だ。部活も無い。

お化け屋敷の担当は、主に男子がお化け役、女子が受付や音響となった。教室では狭いので、2階の中央スペースの半分とその突き当たりの廊下を貰い、迷路のように複雑な道を段ボールと木材で作り上げる。衣装は、経費が少ないので生地を買ってきて手縫いだ。なかなかの重労働である。



「今日はこのへんにするかー」
細かい縫い物をちくちくちくちく、二時間もやっていたので肩がバキバキだ。
うーんと伸びをして、窓の外をみる。
もう11月ということもあり、既に真っ暗であった。

「なまえ、帰ろう」
炭治カは、最近当たり前のように家まで送ってくれる。位置的にはなまえの家を経由しても5分と変わらないらしいが、それでも‥申し訳ないなぁと思う。それを言うと、彼は
「何言ってるんだ!当たり前だろう!」と怒る。聖人だと思う、この子は。


千寿カもまた、なまえを大変気にかけてくれている。
炭治カが実家の都合で早く帰る時は、こちらから頼まずとも「今日は一緒に帰りましょう!」とLNEをくれ、校門で待っていてくれた。暗い夜道にふわふわと揺れる焔色の髪は、酷くなまえを安心させた。

おかげで彼は中等部の男子から、羨望と嫉妬で質問責めにされているらしいと‥炭治カだけは知っている。


- 26 -
*前戻る次#
ページ: