#33石畳の地面から底冷えする、酷く寒い雪の日。今日はバレンタインだ。
ドイツでは、日本と違い女性が男性に愛の告白をする‥ような甘いイベントではない。男性から女性へ、日頃の感謝や愛をこめて贈り物をする。欧州ではこちらが主流だ。
まぁ告白イベントだったとしても、私は全然貰えないからね!モテないから1ミリも!
さっき家に入ろうとしたら、隣の家のおじいさんがカラフルな熊のグミをくれた。ありがとね!!‥バレンタイン、貰えてよかった涙
翌日。
「煉獄先生‥30個って‥マジか‥」
こっちのスマホでも、炭治カたちとグループトークでやり取りをしている。
善逸が恨みがましく送ってきたトークを読み、なまえはため息をついた。昨年も28個貰っていたではないか。増えてる‥
"煉獄せんせー!チョコあげる!"
"うむ!ありがとう!有り難くいただく!"
みたいなやり取りが30回あったのかな‥
もしかしたら、告白付きのは受け取らなかったかもしれないからもっと多い可能性も‥
「‥‥‥」
先生の人気は常軌を逸している。おじいちゃんの熊グミ1袋の私との差よ。
肩を落としたなまえは、ココアでも入れようと立ち上がると、自室の扉を開けた。
ピコン
「!」
その時、メール受信の音がした。なまえは瞬間移動でスマホを手に取る。今月の煉獄先生の返信がまだ来ていない。来たのか‥!?わくわく!!!
sent by kagaya.ubuyashiki@‥
(理事長からメール来た!!)
まさか、今年から生徒全員にチョコ配るとか?最近オンラインギフトとかあるもんね?
バレンタインが頭から離れないなまえは、次に続く文面に固まった。
加害者の大学生が、就職とともに地方の実家に引き取られることになった。
なまえ、戻っておいで。
君の帰ってきやすい環境を整えて待ってるよ。
「‥‥‥っ」
ボタボタッ‥と、涙が床に落ちた。
煉獄先生、みんな‥
蓋をしていた思い出が、色付いて溢れ出す。
炭治カと一緒に歩いた帰り道。
相手に半ギレしながら守ってくれた善逸くんの背中。
人の家でバナナを嬉しそうに食べる伊之助。
手を繋いで逃げてくれた、千寿カくんのふわふわの髪。
桜の木の下‥煉獄先生の微笑み。
まだ、ありがとうって言えていない。
大好きだって、伝えてない。
帰れる‥やっと!
日本に。
みんなの元に。
・
・
・
「よもや!!!!!」
「うわァ!びっくりした!」
職員会議中、突然大声を出した煉獄に宇髄が抗議する。隣にいた響凱は、今日耳鼻科に行くことを決意した。
「‥すまない、みょうじからメールが」
「煉獄、みょうじとメールしてたのか‥」
こちらも耳を押さえながらだが‥珍しく冨岡が興味を持ったらしい。
「うむ!めるともだ!」
「古い。それで?」
伊黒が用件は何だ、とばかりに睨んでくる。
何だかんだ、職員は皆一様になまえの事を気にかけており、帰国させてしまったことを悔やんでいた。
「帰ってくるとのことだ!3年の4月から!」
「わぁ!朗報ですね!」
胡蝶が可憐にパチンと手を合わせた。
女同士、もっとやってやれる事があった筈だ。家族の変わりに、抱き締めて寄り添ってあげることが。‥後悔していた胡蝶は、にこにこと嬉しそうに笑った。
「‥ふふ、その様子だともうなまえから連絡があったのかな」
ガラガラ、と扉を開けて、産屋敷が入ってくる。
今日はそれを伝えるために集まってもらったんだよ、と、用意された椅子に優雅に腰かけた。
「クラス編成だけど、彼女が仲良くしていた炭治カ、善逸、伊之助を同じクラスにしてあげようと思う。」
ふむふむ、と本日の書記、煉獄がPCに議事録を打ち込んでいく。
「それから、なまえは受験生だから、皆ブランクを埋めるように全力でサポートしてあげてね」
「特に数学かな。頼むよ、実弥」
「‥‥‥御意‥では、担任は俺で。」
「‥‥‥ちょっと今の先生の話聞いた!?」
「いや!流石に遠すぎて何も聞こえてない!」
同時刻、2年の教室。
善逸が炭治カの両肩を掴んだ。
「なまえちゃんが帰って来やすいように、俺たち3人と同じクラスにするって!!」
「本当か紋逸!」
「お前一生俺の名前覚えねーな!」
進級のクラス替えで離れ離れになったにも関わらず、休み時間になると集まってしまう3人。変わらず仲が良い。
この3人も、なまえが黙って帰国してしまった時は酷かった。連日お通夜のような空気をだし続けるものだから、あの冨岡が同情しラーメンを奢ってくれたらしい。泣きながらおかわりを連発する3人に、流石に引いたとか。
炭治カはまた、別の意味で大変だった。なまえと恋仲だという噂は全校に広まっており、知らない人に同情されたり、何で守れなかったんだと叱咤されたり‥‥。心身共にやつれた炭治カは、秋の文化祭でステージに上がり、俺たち付き合ってません!とマイクに向かって叫んだことで伝説になった。
「それじゃぁ、担任はまた悲鳴嶼先生かな?」
その炭治カが、キラキラとした目で善逸を見る。
「いや、何か‥不死川先生ぽい」
三年の担任とは、受験関連、進路関連で今までとは比べ物にならないほど接点が増える。
それがあの恐怖政治で(?)名高い不死川となれば、スマブラ事件は明日は我が身だ。
珍しく伊之助も沈黙している。
炭治カだけがなまえ、早く帰ってこないかな〜とにこにこしていた。
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