#34

「当機は、間も無く着陸態勢に入ります。シートやフットレスト、テーブルを元の位置にお戻しください。」

長いフライトを経て、漸く愛する日本の上空まで来た。ここまで長かった!
‥なまえがあまりに嬉々として日本行きを決めるので、親に心配は無いと思われたらしく、帰りはエコノミークラスであった。それはいいのだが、3名がけの真ん中、両側はふくよかなご夫婦。狭いし暑いし、トイレに立とうとすると毎回立ってもらわないと通れないしで散々だった。10回以上ソーリーって言ったわ!

おかげで顔も洗えていないし、体もベトベトだ。
なまえは飛行機から降り立つと、日本の空気を懐かしむ間もなくシャワールームへ駆け込んだ。生き返る!
‥今自分が日本にいるというだけで、煉獄と出くわす気がして緊張する。空港にいるわけないし、学校内でもそんなに会わないのが現実なのだが。それでも!欧州にいると邂逅の可能性は0であるが、日本ならば!!!
ドライヤーで丁寧に髪を乾かす。今日は、このまま新しいマンションに入居手続きだ。


「!!!」
透明なガラス扉の先、到着ロビーへ降り立ったなまえは目を見開いた。
炭治カだ!炭治カが手を振っている。善逸と、伊之助も。
「みんなー!‥‥グエェ!!!」
ダンプカーに突撃されたかの如く、衝撃が来た。三人に潰されたのだ。
「うわぁぁぁぁぁんなまえちゃん寂しかったよぉぉーーー!!!」
善逸の絶叫が木霊する。嬉しいけど恥ずかしい!あと鼻水つく!
「おかえり、なまえ!」
「親分に黙っていなくなるんじゃねーよ!」
3人とも、ありがとう。
何だか嬉しくて涙ぐんでしまう。
うわ、周りの人が凄い見てる!恥ずかしい!


「本当は6班の2人も来たがったんだけど、先生の車に乗りきれなくてさ、」
「そうなんだ〜ありがとう!‥先生?」
てっきり3人だけで来てくれたものと思っていたので、思わず聞き返した。

‥先生が車で来てくれてるの?
まさか‥でもこの展開は!!
シャワー浴びてきてよかった!
どうしよう、どうしよう、緊張‥

「遅い(ずぬーーー)」
「まさかの伊黒先生!!!」

理想煉獄、現実悲鳴嶼で考えていたので思わず驚いてしまった。

「何だ、俺では不満か?みょうじ」
ウィンカーを出して後ろを確認しながら、伊黒がじとりと睨んでくる。
「いえ!悲鳴嶼先生かと‥とにかくお久しぶりです!ありがとうございます!!鏑丸くんおはよう!!!」

自主的に助手席に乗り込んだなまえは、嬉しくて満面の笑みだ。今日は日曜だ。学校は無い。伊黒も私服であるし、わざわざ休みを返上して来てくれたというのか。

「‥‥‥理事長に頼まれたから来ただけだ。」
フンと鼻を鳴らした伊黒は、しかし優しい目をしていた。


「‥ところでさ、」
前の席に聞こえないように、善逸が小声で話しかける。
「‥なまえちゃん、めちゃくちゃ綺麗になったよね?」
「うん、俺も思った。大人になった。大きくなったなぁ(ホロリ)」
「お前はお父さんかよ!」
「俺はよくわかんねェ」←伊之助

善逸の指摘は間違いではない。
あれから一年以上時が経った。この年頃の成長はめざましい。
身長はあまり変わらないが、スラリと爽やかだったなまえの体はメリハリがつき、程よく豊かな胸から細い腰、綺麗に上がったヒップまでの曲線が美しい。顔もあどけなさが消え、まだ成熟しきっていないとは言え、艶っぽい。

かくいう善逸達も、身長が伸び、成長してはいるのだが。本人はよく分からないものだ。

(また悪い虫がつくのは防がねば‥次は俺直々に催涙スプレーを撒いてやろうか)
しっかり拾っていた伊黒は、物騒な事を考えながら‥高速に乗った車のアクセルを踏み込んだ。




「本当に、ありがとうございました!!」
夕焼けが差し込む部屋で、なまえは深々と頭を下げた。

‥新しいマンションの部屋に着くと、丁度引っ越しのトラックが来ており、大量の段ボールが搬入されているところだった。
荷解き手伝うよ!ね、先生?と言う炭治カのくもりなきまなこに焼かれ、伊黒まで手伝ってくれたのだ。こんな時間まで。
これは凄いことである。恐らく、全校集会で発表したら全員が腰を抜かすだろう。

なお、途中で炭治カが悪気なく下着の箱を開け、鼻血を出すというお約束のハプニングもあったが、詳細は割愛する。

ネチネチ文句を言いながら帰る伊黒と三人に手を振り、なまえは床に大の字になった。

嬉しい、幸せだ!


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