#38

教師はどうしたら生徒の事を恋愛対象にしてくれるのだろうか。

ついに、これについて考えなければならない時が来た。何故なら、不本意な島流し(?)のせいで、本来丸3年間かけられるべき貴重な時間を、まだ1年分も消化できていないのだ。
何なら、今5月。あと11ヶ月しか無い。

朝のHRで連絡事項を述べる快活な教師を見ながら、ぼんやり考える。

一昨年、なまえは煉獄に何か良いところを見せられただろうか。歴史の成績は良い。だが‥諸々の迷惑はかけこそすれ、何ひとつ自身の評価を上げる功績を残していない。
そもそも、何をすれば教師からの好感度が上がるのか知らない。

恋愛‥‥‥。恐らく、煉獄は20代前半だと思う。年の差は、まぁ通常範囲だ。だが方や未成年、立場は生徒であるがゆえ、恋愛に持ち込めるようなアクションが起こせない。例えばデートに誘うとか。無理だ。そもそも普通に生活していたら二人で話す機会すらない。

‥‥‥告白は、しない。それは決めている。煉獄は真面目だし、隠し事ができるタイプには見えない。というのがなまえの煉獄への評価だ。9回裏の逆転サヨナラ満塁ホームラン的なものが出たとして、想いを告げるのは卒業後にしよう。在学中は絶対に、フラれる。例え両想いでも。

ふぅ。なまえは息を吐くと、左にある窓から空を見た。3階は見晴らしがいい。

「‥‥」
さて、その両想いである。これだけ生徒がいるのだ。以前のような保護対象から外れた今、なまえは大勢の生徒の一人に逆戻りだ。三年目でスタート地点に戻るってどんな鬼畜双六?いずれにせよ、こちらから話しかける以外、一切‥
「みょうじ!」
「ふぁい!」
嘘でしょ?
思わずガタンと立ち上がった。
いつの間にかHRは終わっていて、生徒達はお茶を飲んだり、談笑したりし始めていた。

慌てて教卓に駆け寄ると、煉獄は「元気か!」と言って板書を消し始める。
そして、黒板消しを置き両手をはたくと、片手を教卓について軽くもたれた。
(何!?このリラックスモード!?)
煉獄の事になると、なまえはポンコツである。瞬時にパニックになり、稼働していない頭をフル回転させるが勿論答えは何も出ない。
「元気です!!!」
とりあえず返事をする。ここで混乱度合いが高いと、珍回答が飛び出すシステムである。

「そうか!」
「はい!」

‥最前列に座る生徒は、「何だこの会話」と思っている。

「‥窓の外を見ていたから」
煉獄は声を落とし、横目で窓を見遣る。ヤバい、ぼーっとしてたの見られてた‥
申し訳なくて固まっていると、煉獄は手を教卓から離し‥腰を屈め、なまえの方へ少し体を傾けた。
「‥君が考え事をしていると気になる」

‥それは、なまえにしか聞き取れないほどの。
ふわりと煉獄の香りがして‥離れていった。

「すみません!お話はちゃんとっ‥」
聞いていました、という言葉は教師が微笑んだ事で消えていった。


「よもや!時間だ!」
声でか!!!

なまえと同時に最前列の面々が耳を押さえた。

「またな!」
そう言うと、早足で出ていってしまった。入れ違いで入ってきた伊黒が「なんだ、まだいたのか」と呆れている。


(先生から話しかけてくれた!!!)
席に飛び込んでから、遅れて顔が熱くなる。

気になる、とは‥恐らくまた何かトラブルが、と心配になるという事だろうが、何か!まるでなまえの事を気にかけてくれているみたいではないか。
更に、顔を近づけてきた事には心底驚いた。あんな距離で話すっけ?
‥ぐるぐる考えたが、自意識過剰ということで完結した。よし、化学の時間だ。





「なまえ、球技大会は何にでるんだ?」
休み時間、炭治カが後ろへ話しかける。

この学校の球技大会は、男女別でバスケ、バレー、サッカーから一科目選択制だ。ちなみに、サッカーのハーフタイムには再びダンス部でチアを踊る予定である。‥そういえば、先日部長が、チアの衣装が昨年から何故かプリーツスカート→短パンに変わったと言っていた。可愛かったのに何でだろう。

「バレーかなぁーこの中では。皆は?」
「俺もバレーにしますよぉー!なまえちゃんと同じ会場一択だから!」
肩をくねくねさせながら善逸が叫ぶ。
善逸がバレーなら、残りの二人もそうするのだろう。

(煉獄先生はどれにでるのかなぁ!)
球技大会は、体育祭と違い職員対抗は無い。その代わり各教員がチームに一人ずつ、助っ人的ポジションで入ってくれるのだ。入るのは男子の試合だが、バレーだったら客席からがっつり見学できる‥!

何はともあれ、練習だ。
一昨年もそうだったが、球技大会までの2週間、体育の授業は出場種目の練習にあてられる。
本番は他クラスと対戦になるので男女別だが、練習は人数が足りないので男女混合だ。

「なまえちゃんは俺の後ろにいて!絶対にボール拾わせないよー!!!」
「善逸くん!それじゃ私上手くならない!」

体育の授業中。
凄まじい瞬発力と脚力で、なまえに飛んできたボールを全て拾いまくる。バレーボールまあまあ痛いからね!気持ちは嬉しいけど!フォーメーションもあるから!


バシーーーン!
硬いボールは体勢が悪いと、只の凶器である。手首の裏側が痛い。
(内出血するんだよなぁ‥素人だから‥)
擦りながら、練習に励む。


「オラァァァァ!!」
「痛ェー!!!この!バカ!手加減しろよ!」
伊之助の弾丸アタックを拾った善逸が隣で転げ回る。
「なまえ〜いくぞー!そーれ!」
「炭治カは加減しすぎだから!紙風船かよ!」

なまえの元にふわっと飛んでくるボールの前に素早く入り込む善逸。突っ込みながらアタックするとか凄い、拍手を送りたい。

冨岡に「手首だけでコントロールするな」とか、「膝を曲げろ」とかアドバイスを貰いながら練習する。

上手くなって良いとこ煉獄先生に見せるぞー!
‥翌日、少し、紫色の打ち身が出てしまった。が‥隣席の善逸の赤黒い腕を見て、男子バレーの壮絶さを実感したのだった。




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