#2

一通り授業を受けてみてわかったことだが、この学園の教師陣は若い。そして顔面偏差値が高い。
それゆえに女子生徒から好意をもたれる事も少なくないのだが、ガードが固いあまり告白に至らず玉砕する者もしばしば。
まず、物理的な距離感。向こうから触れてくることはいわずもがな、生徒から触れられることも無い。(避ける時の身のこなしがおかしい)
そして、教師と生徒という関係上必要の無いようなプライベートの話には一切応じない。
会話のスルースキルがえげつない。
大抵の生徒たちは一向に縮まらない距離に失望し、ファンという立ち位置におさまるのだ。たまに距離が縮まらないまま特攻する先日のような猛者もいるが、結果は散々だ。

それなのに。
無意識にあの燃える髪色を探してしまう。
授業中の溌剌とした大きすぎる声も、爛々と輝くアーモンド型の大きな瞳も、人懐こい上がった口角も。面倒見がよく優しい性格も、捲った袖から見える腕の血管さえも。
好きになってしまった。
もう、戻れない。


「小テストを行うぞ!」
何回目かの授業の冒頭、唐突に煉獄が言った。何でも、そのクラスに合った授業ができているかのアンケート代わりらしい。

「あ゛ぁ!?テストだぁ!?そんなもん聞いてねぇぞ!」
「お前‥聞いてたら勉強したのか?」
「するわけねぇ!俺は山の王だぞ!」
「意味わかんねーよ!」

後ろと横で伊之助と善逸が騒いでいるが、正直、余裕だ。
なまえは、地頭が良い方だ。そして授業はきちんと聞いているので、中学でも成績は良かった。数学を除いて。
「なまえ、がんばろうな!」
炭治カがテスト用紙を回してくれる。
「2時まで時間を取ろう。では始め!」



「そこまで!後ろから回収!」
(時間ギリギリだった‥)
煉獄の声がでペンを置く。
ざわざわと、あちこちから絶望の声が聞こえる。隣の善逸など白目で机に突っ伏しているが、私は大丈夫だ。ん?
(んんんんん‥‥!?)

自身の解答用紙の違和感。これは‥
一つずつ解答欄からずれている。詰んだ。
終わった‥絶対バカだと思われる‥さよなら私の恋‥
「あ?大丈夫かお前ら。腹減ったのか?」
善逸に続き時間差で机に突っ伏したなまえに、伊之助は首をかしげた。


「よし!では今から騎馬戦だ!弥生人になりきれ!!」
ワーーーーー!!
煉獄の掛け声で、意気消沈していた生徒たちは一斉に机を寄せ、騎馬を組始める。
その間に煉獄は教壇を端に寄せ、採点をするようだ。正直ここで採点しないでほしい。失望する顔を見たくない。

なまえは騎馬戦には加わらず、教室の後ろの壁にもたれて座った。ここなら騎馬の喧騒で教師からも見えないだろう。
すぐに、隣にフラフラと善逸が座り込んだ。

「なまえちゃぁん‥俺テスト全然駄目だったよぉ‥でもなまえちゃんとお話しできて幸せ‥グフフ」
「‥‥‥」
まだ一言も発していないが、一人でべそをかいたり頬を染めてニヤニヤしたりしている善逸の百面相は、何だか微笑ましい。

ぼんやり隣を見ていたなまえは、急に目の前に影がさしたことで顔を正面に戻す。
「!!」

煉獄が、目線を合わせるようにしゃがんでいた。ふわりと、落ち着いた香水の香りが鼻を掠める。この距離は入学式以来だ。ドキドキ。いやそうじゃなくて!

「みょうじはドジっ子か!」
「「え?」」
咎めるわけでもなく優しく言い放たれた単語に、なまえだけでなく隣の善逸までぽかんとしている。

「解答が一つずつずれていた!しかし解答自体は全て正解していたぞ!感心感心」
「あああああなまえちゃんこんな綺麗な顔してドジっ子かよおおおおおギャップが萌える!!俺をどうしたいの!?」

「我妻少年!君は記述が弱点だ!単語だけでなく時間の流れを意識するといい!」
「はいいいい!!!」
一人で悶絶していた善逸は何故か急に背筋を正し、教師から回答用紙を両手で受け取った。その様子をなまえはじっと見つめる。

この距離も、授業の受け答え以外での会話もあの日以来だった。
好きな人にドジ認定されたのは痛手だったが‥それすらも嬉しく思ってしまうほど、なまえは煉獄に入れ込んでいた。


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