#43

‥何だか、朝から頭が痛い。

"求!!キメツ祭 ミスコン出場者!!"
バーン!
HR中、文化祭実行委員から配られたチラシは、目がチカチカするほどの色使いでそれを謳っていた。最初フォント大きすぎて何書いてあるか分からなかったわ。

一瞬、もう文化祭の時期!?等と焦ったが‥ミスコン出場者は、今の時期からブログを開設したり、校内をまわったりしてアピール活動をするらしい。一昨年はそれどころじゃなくて気付きもしなかった‥

「ねぇ、みょうじさん出るよね?」
席の近い女子生徒がにこにこと話しかけてくる。
(‥今年のバレンタイン、おじいちゃんからしか貰えなかった私が!?予選落ちだわ!)

鼻がむずむずする。
出ないよ〜と適当にいなそうとした所、くしゃみが出た。あー、鼻水まで。
すいません、と断り席を離れ、廊下へ。
ずびー。‥認めよう、風邪をひいた。


「みょうじさん絶対いけるよね、可愛いもん」
ねー!と女子達が沸き立つ。
そこへ。
「あまり目立つのは、許可しかねるな!」
炭治カが、後ろを振り返る。1年の教科書を小脇に抱えた教師が立っていた。

「うん、俺もそう思います」
「あいつ、一昨年えらい目にあったからな」
炭治カと伊之助も、反対らしい。

「いや、そもそもなまえちゃんは出られないから」
「え?」

今まで黙っていた善逸が、呆れた声を出す。
何で?という顔で一同が首を傾げた。
「え?マジで言ってんの?キメ学三大美女は出場資格無いんだよ。これ常識」

「そうなのか!善逸は物知りだな!」
炭治カが感嘆の声をあげると、ガラガラと教室の扉が開き、なまえが戻ってきた。
(喉も痛い‥帰ろうかな)
ため息をつきながら自席に着く。

‥え?何で皆私を見てるの?煉獄先生まで?





ピピピピ‥
珠世先生の美しい眉間に影ができる。
「37.8°‥風邪ですね」
「帰れ馬鹿。珠世先生にうつったらどうする」

‥幻聴かな?病人にかけるには辛辣すぎる声が聞こえたぞ。

1限だけ受けたが、体調は悪化の一途を辿るので、荷物をまとめて出てきてしまった。
熱もあるし、今日は早退しよう。

「私から、担任の先生には伝えておきますね」
白衣の天使は今日も美しい。
なまえはお礼を言うと、ふらつく足で下校した。


「うぅ‥頭痛っ‥」
玄関に鞄を放り投げ、残りの体力で部屋着に着替える。酔っぱらいの脱ぎ捨てた服よろしく、制服が散乱してしまったが許してほしい。
ドサリとベッドに倒れこんだなまえは、泥のように眠った。





ピーンポーン

チャイムの音で目を覚ます。どのくらい眠っていたのだろうか。
時計を見ると、16:00。下校時間だ。

コンコンコン。
「なまえ、大丈夫か?開けてくれないか」
‥先程のチャイムは玄関のものだったらしい。誰かに付いて入ったのか。

「あああああなまえちゃん大丈夫!?色々もってきたよぉー」
何とか扉を開けると、三人が各々袋を持って入ってきた。‥一個一個の袋大きくない?何を持ってきてくれたんだろう?


三人がお土産をどさりと床に置く。
炭治カは両手いっぱいのパン。‥‥パン!?
善逸は風邪薬とアイスとゼリー。
伊之助は米袋を持っている。何でなの。

‥しかし、冷蔵庫は殆んど空だし薬も無かった。助かった‥ありがとう。本気で。


「ギャァァァまたパジャマのなまえちゃん!今日のも可愛いいいいい!!!」
「なまえは寝ててくれ!善逸静かにしてくれ!」

どうやら、おかゆを作ってくれるらしい。
嬉しい!お腹はそんなにすいていないが、薬も飲まなければいけないし、何より誰かの手作りごはんは花見以来だ!

わくわくしながら布団で待つ。

ザーーーーー!
「あっ伊之助!米全部入れちゃダメだ!」
「痛ァァァァ指切ったァァァ!!!」
「火が強すぎるぞ!」
「わっ燃えた」

「‥‥‥‥」
キッチンが不安すぎる。熱上がりそう。


30分後。
「なまえ〜おかゆだぞー!」
先程の様子からは信じられないほど美味しそうなお粥がでてきた。
料理は火加減!と誇らしげな炭治カが輝いて見える。お母さん‥!

「「「‥‥‥」」」
ふぅふぅと冷まし、スプーンに掬ったお粥を口に運ぶ。
「「「‥‥‥」」」
じーーーーーーーーーーー

不安そうな三人が固唾を飲んで凝視してくる。食べにくいわ!

「「「美味しい?」」」
ハモるな!

思わず笑ってしまう。
手作りのお粥はとろとろのお米に細かく刻んだネギ、梅、卵が入っており、ほんのり味噌の風味がする。物凄く美味しい!!
感想を言うと、炭治カと善逸は嬉しそうに笑った。伊之助は‥炭治カのパン食べてる!


お粥を食べ終わり、薬を飲んで横になる。眠くなるまでの間、三人は制服を畳んでくれたり、洗い物をしてくれたり、とても良くしてくれた。炭治カが子守唄を歌ってくれた時は地獄かと思ったけど。
みんな、本当にありがとう。






‥頭が痛い。
夢さえ見ずに眠っていた脳に、電子音が響き渡り目が覚めた。

「--------------------------」

辺りは真っ暗である。手探りでスマホを手繰り寄せ、時計を見ると、22:00。
よく眠ったが、まだ熱が高いらしく、少し寝返りをうっただけで息が上がる。

この音は着信だ。
炭治カ達が何か忘れ物したかな?と着信画面を見るも、知らない番号。携帯の番号だからセールス等ではない。出るか‥

「‥‥‥はぃ‥」
息が上がるし声が掠れる。はぁはぁ変態みたいで申し訳ないが、そっちからかけてきたのだから我慢してほしい。

「‥みょうじ?煉獄だが」
「!!!!!」

驚きのあまり、飛び起きたかったが体が動かず失敗。うっと声が漏れただけだった。何してんだ私。

「みょうじ?大丈夫か?」
電話越しの煉獄の声は、いつもより低く、落ち着いている。息遣いまでが聴覚に染み渡り、何とも扇情的で‥‥‥
‥あぁ、熱のせいだ。こんな事を考えてしまうのは。


「せんせ‥どうしま、した‥?」

なまえの脳内では「先生!どうしました!?」であるが、如何せん息も絶え絶えだ。教師に聞かせる声で無いのは重々承知であるが。


カチ、カチとウインカーの音がする。車の中か。


「‥君は一人暮らしだから、様子を知りたかった。寝ていたか。」

それにしても、布団の中で想い人の声を耳元で聞く、この‥えもいわれぬ幸福感たるや。

「‥いいえ、」
寝ていましたが、今全私が起きました。気持ちのテンションとしてはサンバのリズムを刻める位に。

「ありがとう、ございます‥」
‥何とか返事する。

わざわざ心配して、番号を調べてかけてきてくれたというのか?
煉獄の優しさがじわじわと胸に染みわたる。なまえは目を閉じた。途端に睡魔が覆い被さってくる。


「‥夜中に何かあったら、この番号にかけるといい。俺の携帯だ」

ウィンカーの音。車とすれ違う音。‥煉獄の優しい声。
熱で浮かされているせいか。煉獄への想いが溢れる。


「せんせぃ‥やさし‥」

‥あぁ、そういえば。一昨年のクリスマスの一件も、まともにお礼を言っていなかった。
‥あの日の記憶を、掘り起こすのを脳が拒否するのだ。
先生との、大切な時間だったのに。


「‥いつも、守ってくださって‥」

「心配‥して‥くれて‥」

「ありがと‥う、ございます‥」


元気か、どうした、と。可愛げなく慌てているなまえを常に気にかけてくれる。

「‥はぁ‥私、」
息があがる。薬のせいか、頭もぼんやりする。
「‥先生の、クラスで‥しあわせ‥」

「おやすみ、なさい‥‥‥」



「‥‥‥‥」
すー‥‥すー‥‥
端末の向こうから寝息が聞こえる。


横断歩道を足早に行き交う人。波が途切れ、信号が変わる。

「‥‥‥‥‥‥おやすみ」


長い長い沈黙の後、煉獄は通話を切った。





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