#57

Ladies and gentleman,‥

軽快な音楽が多方面から聞こえる。とてつもなく完成度の高い風景が、また、入園直後からグッズを身にまとった客たちが、日常を忘れ、一時の夢の時間を与えてくれる。そう、ここは、ディ‥
「あ!煉獄先生!」
本当ですか!!!

言われた方へ、凄い勢いで振り向いてしまった。まさか、先生が遊園地にいるとは!!


呼ばれた煉獄は、噴水の前で腕を組み、続々と入ってくる生徒に手を振っていた。


「煉獄先生、おはようございます!」
「うむ、おはよう!」
炭治カが声をかけると、赤い瞳がにこりと微笑んだ。朝から美しい。ありがたや‥

「先生も遊びに来られたのですか!」
「違うな!付き添いだ!」
朝から元気だなぁ、二人とも。

確かに、二日目の自由行動は、多くの生徒がこの遊園地に訪れる。トラブルがあった時の保護者として、教員が配置されるのはおかしくない。

「え?じゃぁ伊黒先生も‥?」
恐る恐る女子生徒が聞くと、煉獄は首を横に振った。あ、ですよねー!流石に伊黒先生がランドにいたら驚くわ。この世界観‥、
「伊黒はシーだ!」
いるんかい!

どうしよう、見たすぎる。今だけは煉獄の側を諦めて、伊黒を探しにいきたい。そしてアトラクションに誘いたい。
‥‥いや待てよ、あの人綺麗だから普通にベネチアあたりの風景に溶け込んでそうだな。それはそれで見たいけど。


「まずはあれだ!」
痺れを切らしたのか突如、伊之助が火山のようなものを指差して走り出す。走らんといて!

あれはジェットコースターだ。この遊園地はパリで行った事があるが、中身が違うらしい。そうなると、世界制覇したくなる‥


「いってらっしゃーい!」
平日のせいか、そこまで並ばずに乗ることができた。善逸がにこにこしながら隣に座ってくる。うん‥いつもの事なんだけど‥今日は気まずい。というか、昨日も散々こんな感じだったけどよく耐えれたよね、我妻女子‥。

「なまえちゃん、怖かったら俺にしがみついていいからねェー!」
くねくねする善逸。あぁ、やっぱり脈無いなぁ。あったら絶対彼女の隣に座るもの!

その後ろは、炭治カと伊之助である。誰得の布陣!あ、善逸か!

ゴォォォォォォォ‥
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
言わせてほしい。決して、可愛いこぶっている訳ではない。本気のやつだ。この落下するときの浮遊感、スンッてなる感じがとても怖い!!手すりに全力で捕まり、目をつぶり顔を下げる。よく、目を開けた方が恐くないよ!などという妄言を聞くが‥そんなわけない!目を開けたら怖くて泣いたわ!


「うぅ‥ゲホッ」
‥そんなこんなで、降りたときにはげっそりしてしまった。残りの人たち喜んでるけど。

チラリと列を見たら、自分より遥かに年下の子が楽しそうに並んでいる。うぅ、恥ずかしい。皆よくあのスンッに耐えられるな‥


その次は、何故か絶叫系を梯子され、水の上を滑る丸太が急降下するアトラクションに並んでしまった。
今度は係員に誘導され、伊之助の隣になる。後ろを見ると‥炭治カと善逸!本格的に誰得!てか頑張れ女子たち!

「おぉ、すげェ!見ろなまえ、うさぎが‥」
伊之助は目をきらきらさせて喜んでいる。
そうだね、楽しそうだねうさぎたち。でも私は騙されない。平和な子供向けアトラクションに見せかけて、結構な落下があるの外から見えたからね!もう怖い!


はい落ちた!
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
パシャリ。

バシャーーーン‥

‥前のバーに掴まり顔を全力で下げていた為、写真になまえがいないと、この後メンバーがざわついた。





「次はあのおばけマンション行きたい!」
昼食後、ついにこの時が来た。

何も知らない男子達と共に、エレベーターらしきものに乗り込む。確かに薄暗く、周囲の人と順番関係なくごちゃ混ぜになる為、はぐれることもできそうだ。とりあえず炭治カだけ見失わないようにして、エレベーターを降りる。

「ここには999人の‥」
二人がけの動く椅子に乗り込む。うまく炭治カと一緒に乗れた。あとは頑張って。前後の椅子が見えないから、どこにいるのか分からないけど‥


「凄いな、お化け屋敷かと思ったけど、凄く良くできてる!俺もお化けになったみたいだ!」
炭治カがにこにことピュアな感想を述べている。‥一度、炭治カが下の兄弟たちと戯れるところを見てみたい。日だまりみたいな暖かさなんだろうなぁ‥。


「おかえりなさーい」
1000人目がくるのを待っていると言っていた割りに、全く勧誘されることなくアトラクションは終了した。マイルド!


「あれ?皆いないな」
出口できょろきょろする炭治カに、事情を説明する。真ん丸な目をぱちくりさせて聞いていた炭治カは、
「なるほど!がんばれ、皆!」
と言い、眩しい笑顔を浮かべた。




「どうした!はぐれたか!」
炭治カとまったりベンチでチュロスを食べているところに、煉獄が通りかかる。

今日の煉獄は襟付シャツの上に、前の開いたパーカーだ!初めて見たが、格好良さと可愛さの殴り合いである。‥どういう意味?

天色の澄んだ空を背景にこちらを見下ろす焔色が、きらきらと輝きとても美しい。一緒に来ているわけではないが、この空間に煉獄といるという事実が、気分を高揚させる。


「いえ、ラブラブ☆大作戦です!」
キリリと告げる長男。私そんな名称言ってないけど‥うちら余ってる側だし‥。


「あっそうだ!!」
何かを思い付いたように、手をぽんと打つ炭治カに、二人が注目する。

「なまえ、今夜の自由行動、一緒に出掛けよう!」
「え?」
「外に出てしまえば、誰もなまえを見つけられないしな」

‥もしかして、今夜の告白を丸ごと回避しようと提案してくれてるのだろうか。
確かに、まだ夜の約束はしていなかった。とても有り難い。


「見つけられない?‥あぁ、なるほど。」
「え?」
片手を顎にあてて炭治カの言葉を反芻した教師は、合点がいったようにこちらを見た。

‥今の内輪的な会話で、内容を理解したらしい。眉を寄せた煉獄を見て、あぁまた迷惑を‥などと考えてしまう。
‥まぁ、この学校の恒例イベントらしいから、教師は色々と知っているのだろう。


「みょうじ、」
「はいぃ‥」

煉獄が両手を膝に付き身を屈め、視線を合わせてくる。急に縮まった顔の距離に、思わず上擦った声が出た。

「今夜、俺は別館の会議室か、その手前の談話スペースにいる。」
「何かあったら、逃げてくるといい!」


何と。先生が匿ってくれるというのか‥!
「ありがとうございます!」
嬉しい。いざとなったら煉獄が助けてくれると思ったら、もう何も怖くない。何なら煉獄の居場所がわかった以上、用がなくてもうろついてしまいたい。やらないよ!


「ありがとうございます!」
炭治カまでお礼を言うので笑ってしまった。
妹じゃ無いってば!


そこへ。
「あああああなまえちゃぁぁぁぁん!!ごめんねぇぇぇはぐれちゃって!!俺がいなくて寂しかった!?寂しかったよね!?」

「おいお前ら!迷子になるな!隊長に断ってから行動しろ!てか電話出ろよ!」

右から左から、二人が走ってくるのが見えた。


「‥‥失敗かぁ」
まだ30分程度しか経っていない。時間的にアトラクションも乗っていないだろう。
目を丸くして首を傾げる教師が可愛すぎるが‥‥予想通りの展開に、苦笑いだ。



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