#62「では、皆さん私の家にいらっしゃいませんか?両親が不在なので、遠慮なさらず!」
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「えっと、トマトと‥あ、お砂糖切れてた」
土曜日の午後。
休みだし、何か手の凝った美味しいものでも作ろうと、なまえは駅前のスーパーに来ていた。
(何にしようかな〜!あ、大根安い!)
お出汁が染みた大根は、本当に美味しい。何にしようか。おでん、大根ステーキ、大根飯、
「ふろふき大根は?」
「いいね!ふろふき大根にしよう!」
「‥‥‥え?」
一緒に買い物に来ました、みたいな空気で話しかけてきた美少年‥さらさらと綺麗な黒髪。柔らかい、中性的な顔立ちから、大人しい印象を受ける。いやどちら様。
でも、どこかで見た顔だな‥
「大根が安いから、メニュー考えてたんじゃないんですか?」
すんとした顔で、こちらを見る少年。
「えっ‥私声にだしてた‥?」
「いや、顔に出てた」
‥私の顔芸って一体‥‥。
そういえば、煉獄にも尻尾が見えると言われた。もう何も喋らなくていいじゃん。全部丸出しじゃん。
心の中で泣きながら、立派な大根を選ぶ。太くて真っ直ぐ!美味しそう‥!
「ところで、俺は何を買いに来たんですか?」
ニュータイプ出た!!
思わずガバリと彼の方を向いた。君優勝!今まで禰豆子ちゃんが天然一位だったけどたった今入れ替わったよ!断トツだよ!
「あ、そうだ、俺が夕飯当番だから‥今から決めるんだった」
狼狽えるなまえを気にもせず、彼は大根を選び始める。やはり、見覚えがあるが‥キメ学だろうか?
首を傾げながら、大根選びを再開する。下の方の大根に手を伸ばした瞬間。
「いって!」
なまえの買い物かごが、触れる程度、隣の男性に当たってしまった。
「痛ぇな!何すんだてめェ!」
見るからにヤンキー頑張ってます、といった感じの男は、かごが当たった場所と違う箇所を押さえて怒鳴ってくる。
「すみません。」
痛いはずないじゃない‥と呆れながらも、絡まれては面倒なので一応謝る。
「ごめんで済んだら警察いらねェんだよ。どう落とし前つけてくれんだ?」
あ?と、近寄ってくる男に嫌悪感を感じた、その時。
「ねぇ、当たった場所そこじゃないよね?」
「!」
なまえを挟んで反対側にいた少年が、どうでもよさそうに男を見る。
「は?ここだよ!赤くなってんだろ、二の腕」
「馬鹿なの?かごの位置みなよ。肘より下じゃん。あと服ださくない?」
少年んんんんん!!!
「服は関係ねェだろ!てめェ、なめてんのか!?」
少年の謎のディスりに激昂した男は、なまえを押し退けて彼の前に出る。周辺の客達がざわつき始めた‥。関わりたくないといった感じで去る者、野次馬する者‥。
「どうでもいいけど、近寄らないでくれない?面倒事は嫌いなんだよね」
「てめェ!!!」
愉快なスーパーの音楽と相まって、カオス。
いよいよ男が暴れだした‥
「何をしている」
‥と同時に凛とした静かな声が、後ろから聞こえた。
冨岡先生!また絶妙な空気感の人来ちゃった!
今日も、部活か何かでお仕事らしい。ジャージ姿の冨岡はさらりと間に入ると、男を鬱陶しそうに見下ろす。
「チッ」
自身より体格の良い男の登場に恐れをなしたのか、ヤンキーは舌打ちをして店を出ていった。ふぅ、助かった!
「時透、あまり挑発するな。みょうじも。危なくなったらすぐ逃げろ」
冨岡はため息をつくと、ぼーっと出口を見つめる少年を静かに諭す。
時透‥時透‥
すみません、ありがとうございます‥と口では言いながら、やはり聞き覚えがあると脳内で反芻する。
あ!将棋でメディアに出てた‥!うちの生徒だったのか!
確か気の強そうな双子の兄がいた。この子は弟に違いない。
「時透無一郎くん?」
「みょうじなまえ‥」
同時に声が聞こえて、ぽかんと彼を見る。
「俺、一年だから、同じ高等部です」
はーなるほど!で、何で名前知ってるんだろう‥?ふむむ‥
「ところで、冨岡先生料理するんでしたっけ?」
悩むなまえを放置して、無一郎は冨岡へ質問を投げる。確かに珍しい。そして私が答えたい。先生は、料理、しません。多分。
「いや、弁当を買いに来た」
「奇遇だな!俺も弁当を‥何だこのメンツ?」
伊之助増えた!ミュージカル式に入ってくる!
‥聞けば、ひささんが腰を痛めたので、彼女の分も含め夕飯を買いに来たらしい。
「あっみょうじ先輩!時透先輩、嘴平先輩‥冨岡先生!こんにちは!」
どんどん増える!千寿カくんまで!
焔色をふわふわ揺らし、大きな赤い瞳をきらきらと輝かせてこちらを見る千寿カに、思わずへらりと笑顔になる。
買い物かごを持った千寿郎くんも、可愛いっ‥!はじめてのおつかい感‥!
それにしても。
なまえ、無一郎、冨岡、伊之助、千寿郎。
‥大根コーナーむさ苦しっ
・
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かくかくしかじかで、夕飯難民な事を軽く話し、冒頭に至る。
「では、皆さん私の家にいらっしゃいませんか?両親が不在なので、遠慮なさらず!」
「え?」
‥千寿カ曰く、煉獄家の台所は広く、道場の生徒も合宿時などは使用するため、両親が不在の日は自由に使っていいらしい。
皆でまとめて作って食べよう、との事だ。
「今日は私一人のため、兄も実家に帰りますので」
などと言いながら大根を6本かごにいれる千寿カを止めるべきか否か。え?どういう計算?ほぼ1人一本なの?
「もうすぐです!」
冨岡と無一郎が譲らなかったので、ふろふき大根と鮭大根、さつまいもの味噌汁という大根祭りになった。大量の具材を抱え、煉獄家へ向かう。
ちなみに会計は冨岡が「何か高い」と言いながら出してくれた。申し訳ない‥
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・
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冨岡には後ほど届ける事にして、生徒のみで調理にとりかかる。が、伊之助は豪快で危なすぎたので、速攻クビになった。
トントントン‥
台所に軽快な音が響く。
大根を切り、下茹でして‥
予想外の巨大な鍋に入れ、火にかける。‥どう考えても量が多いが、千寿カ曰く、「兄はよく食べますので!」との事だった。いっぱい食べるんだ、煉獄先生!好き。
「わぁっ‥なまえさん、料理得意なんですね。見た目に反して」
「ありが‥一言多っ」
ふろふき大根を味見した無一郎の、アメと鞭が凄い。同時に来たからびっくりしたわ。
「美味しい」
味見をおかわりしている。伊之助が刻んだ、もはや凶器のように尖ったふろふき大根を口にいれた無一郎が‥ふわりと微笑む。
「兄の分も貰っていいですか?今日両親遅いんで‥」
もちろんどうぞと言うと、無一郎はまた、嬉しそうに笑う。何だ、可愛いじゃないか。時々信じられないパンチ打ち込んでくるから気付かなかったわ。
「あ!できたのか!?俺も食う!」
道場で暴れていた伊之助が、いい匂いに釣られて戻ってきた。鍋から取り分けるところを、目をキラキラさせて見ている。小さい子供みたいだ、もうすぐ大学生なのに。
「うめェ!ばあちゃんの次にな!」
頬袋にいっぱい大根を詰め込んだ伊之助が、何故か胸を張っている。何だか私、寮母さんになった気分だよ、ここにいると‥
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「失礼します」
18:00。高等部職員室の扉をガラリと開け、千寿カが入る。
「どうした!何かあったか!」
驚いた煉獄が立ち上がる。
出社していた宇髄と胡蝶も、何事かと少年に注目したのだが。
「兄上、何でもありません!あ、冨岡先生、お弁当です!鮭大根とふろふき大根はみょうじ先輩が作って下さいましたよ」
千寿郎がまっすぐ体育教師の元へ向かうので、全員目を丸くして沈黙した。
悪いな、と受けとる冨岡が、タッパーの横から見える鮭大根に頬を緩める。
「この前といい、嫁かよ!おい、冨岡。いつから‥」
「兄上の分も、お鍋に残ってますよ。」
冨岡に詰め寄る宇髄の横を抜け、煉獄に告げる千寿郎に、また全員が沈黙する。
「何これ?俺今年で一番混乱してんだけど」
何で煉獄の家でみょうじが冨岡の飯作ってんの?
宇髄は頭を押さえ、横目で煉獄を見る。‥彼は既に帰り支度を整えていた。
「俺も良く分からんが、夕飯があるらしいので失礼する!」
行こう!、と千寿郎の背を押すと、煉獄は風のように出ていった。
「‥‥‥」
その後、美術室の方角から何かの爆発音が聞こえたらしい。
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