#64

「ぎゃー!どうしたの!顔!!」

文化祭初日。
元気に登校したなまえは、炭治カ達3人の顔面を見て腰を抜かした。

「見よう見まねでメイクしてみたらこうなってしまった!すまない!」
くもりなきまなこで見てくる炭治カは、2丁目の様な真っ青アイシャドウを、瞼のみならず狸のように目の回りに塗りたくっており、善逸はつけまつげに失敗したらしく体中にムカデが付いているようだ。伊之助は口紅が唇を大幅にはみ出している上、歯まで真っ赤になっている。

「何だ、騒々しい」
なまえの叫び声で顔を出した伊黒が、ギョッとした顔で煉獄を睨む。

「おい、うちは化け物屋敷か?」
「いや!花魁を目指したらしい!失敗だな、はははは」

笑ってる場合じゃないですよぅ!可愛いけど!
なまえは慌てて鞄を置き、ポーチを取り出した。
「皆直すからとりあえずメイク落として、座って!」





何とかネットの動画を元に浴衣の着付けまで行い、店の体裁を整える。紹介用の写真を撮り、コンビニで印刷し貼り‥

窓から来場者の列が見えた時には、ギリギリ完成していた。


「なまえちゃん見てて!アタイ、トップ取ってみせるから!」
善逸が謎にやる気満々で控室に消えていく。指名制度ではないけど‥
頑張れ、と応援したなまえもメニューの準備を始めた。




「蓬カフェ、1時間待ちです」

受付の子の声がする。
非常に盛況している!!客層も偏りない。

たこ焼きをチンして、トッピングして‥次はミルクティーを注いで、タピオカを投入!忙しい!

あまりの忙しさに担任二人も手伝ってくれている。ジュースの段ボールを搬入したり、食品を冷凍庫にしまったり‥


「いや飲食店に蛇はダメだろ」
客席から宇髄の声がする。

遊びに来てくれたらしい。
隙間からチラリと見ると、宇髄、不死川、冨岡が着席している。

「伊黒、みょうじ出せやァ。野郎喫茶に文句がある」
「生憎指名制ではない」

ご不満の不死川に名前を出され、なまえは震えた。何故か私のせいになってる!今出ていったら‥殺られる‥!

「そういえば‥、みょうじにまだ先日の礼を言っていなかった」←冨岡
「それな、俺まだ混乱してるんだけど。とりあえずみょうじ出せや」←宇髄

私めっちゃご指名されてる!!冨岡先生以外は危ないぞこれ!

バックヤードで冷や汗をかいたなまえは、ひっそりと品出しに戻ったのだが‥一連の会話を聞いていた友人に、笑いながら背中を叩かれた。
「アハハ!なまえめっちゃご指名じゃん!」
「いたっ」


その瞬間、パーテーションの隙間から‥こちらに三人の顔がぐるりと向いたのを見た。
ホラーだよ!

隠れるのもアレなので、狭いスペースを抜け、教師達の元へ行く。こんにちは、と言いながら‥さりげなく伊黒の後ろに隠れた。

「「「おい先日野郎どう鮭煉獄だろんだ?」」」
「「は(い)?」」

三名がいっぺんに話すものだから、伊黒となまえは何も聞き取れない。とりあえず冨岡は鮭しか聞こえなかった。


「おいみょうじ、野郎喫茶とは聞いてねェぞォ‥しかも何だあの三人犯罪かァ」
「え?」
不死川に言われた方を見ると、必死に料理を運ぶ炭治カ達三名‥の浴衣が乱れに乱れて生足が見えている。セクシーー!

慌てて駆け寄り控え室へ押し込む。
アラヤダ!と口に手を当てる善逸達を鏡の前に立たせ、身振り手振りで内側の布を背中側へ押し込むよう指示し、帯を結び直す。

教室へ戻ると、教師達は伊黒と煉獄が相手をしていた。いやもう職員室じゃん。





「はぁ、疲れた‥‥‥」
一日走り回り、夕方にはキメツ☆音祭でコピーバンドのバックダンスをつとめ、再び喫茶店に戻り‥‥‥とんでもない運動量だった。ちょっと痩せた気がする。

「俺も‥足が痛い」
隣で善逸がテーブルに突っ伏す。

現在、四人でファストフード店で打ち上げ中。

「俺なんか‥またナンパされたぞ。男だっつったら、知ってるとか言われてよ‥」
伊之助が、眉間に皺を寄せながらジュースをすする。笑っていいところか分からないな‥

「良かったじゃないか伊之助!同姓でも、好意を持ってもらうのはいいことだ!」
「‥‥‥」

澄んだ瞳の前向きすぎる言葉に、全員が微妙な顔を向ける。どうした?などと首を傾げているが‥

「それじゃぁお前、修旅の時告られて嬉しかったのかよ?」
何か苦い思い出があるのか、ポテトを猛獣の様に食い千切りながら善逸が問う。‥何だろう、相手ポテトなのに残虐な感じ出てるんだけど。子供見たら泣きそうなんだけど。

う、と詰まった炭治カは‥丸い瞳をじわりと曇らせて、下を向いた。何やら「申し訳ない事をしたなぁ‥折角好きになってくれたのに‥」などとつぶやいている。同志よ。
‥だが、後半若干嫌気がさしてしまった分、なまえはまだまだだ。彼のピュアな心には遠く及ぶまい。

「‥‥‥」
なまえは食べる手を止めて、2階から窓の外を見た。もう外は真っ暗で、街頭と店の明かりが繁華街を行き交う人々を照らしている。


その中に、あの女子生徒が‥‥
「「え!?」」

なまえと善逸の声が重なる。

「‥見た?なまえちゃん‥」
気遣うように、眉を下げた善逸がなまえの顔を覗き込む。

‥今、確かにいた。煉獄に好意を持ち、なまえを茶髪ピアスに売ったあの女性が。友人らしき人と、歩いていた‥‥


「どうした?善逸」
炭治カと伊之助が、眉を寄せてこちらを見ている。なまえが頷いたのを確認した善逸が‥今の出来事を伝えた。

「‥‥‥‥‥」
「今度何かしたら許さねェ」
伊之助の瞳孔が開いている。

‥理事長の話では、彼女は卒業を前にして退学となった。確か、他県に越して行った筈だが‥‥電車で来れる距離だ、友人にでも会いに来たのだろうか‥‥。

遠目だったが、それでも凄まじい衝撃であった。思わず身震いしたなまえの手を、炭治カが優しく握る。

「大丈夫だ、なまえ。怖いやつはもういないし、あの人は絶対になまえに近付けないよ」



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