#65

後夜祭の会場となる体育館は、演目の合間、一時の暗闇に包まれている。

生徒の主張、ライブ、コント‥様々なプログラムが組まれ、毎年満員御礼の人気イベントだ。


腕を組む宇髄は、チラリと隣を見下ろした。
「煉獄‥何で今年はこんなに観客が多いんだァ?‥お前の隣はどうした」

「俺か?」←冨岡
「うるさい」←伊黒
「‥‥‥」←悲鳴嶼
「来ちゃいました」←胡蝶
「何か文句あんのかァ?」←不死川
「‥来た」←響凱

「‥‥‥‥」
いつも後夜祭は生徒だけでどうぞと、大人達は職員室に引っ込んでいるのだが‥今年は何事か。
教師陣が並ぶと迫力が凄い。若干、周囲の生徒たちが離れて立っている。

「みょうじが是非と誘ってくれたので、周りにも声をかけてみた!」
「‥いや、それにしても‥特に伊黒」

宇髄の名指しに、煉獄の隣から伊黒が顔を出した。鋭い目付きには、黙れと書いてある。

「お前だって来ているではないか、宇髄」
「俺は毎年来てんの!異常発生すんなよ」
「人をバッタみたいに言うな」

バチバチと、両側で睨み合う二人をよそに、煉獄は楽しそうにステージを指差した。
「始まるぞ!頑張れ!」
「ダンスは応援じゃねぇから」←宇髄


「次は、ダンス部による‥‥‥」
拍手と共に、ステージが照らされる。

「おっいいねェ!今年も派手で!」
ダンス部の面々は、同一コンセプトで衣装を揃えているが、ジャケット、スカーフ、スカート、サルエルパンツ‥少しずつ個性を出している。なまえは短めのベアトップの上にジャケット、下はホットパンツである。
遠目にもわかる派手な化粧をしており、目の下のラインストーンが照明を反射して煌めく。とても華やかだ。客席が盛り上がる。


「‥露出が多すぎないか!」←煉獄
「まったくだ。これだから‥」←伊黒
「‥‥そうだな」←冨岡
「事前にチェックしろやァ冨岡」←不死川

「うるせェな!お父さんかお前ら!!」
あと毎年こうだから!‥と、宇髄は隣を睨む。

「お腹が冷えちゃうわね‥」
「お母さんもいた!」

ハァ‥とため息をつき、再びステージに視線を戻す。軽快な音楽で軽やかに踊っていた面々が、一斉に上着を脱いだ。
客席がワッと沸く。

「「「「‥‥‥」」」」
ビキリ、と同僚の額に青筋が浮くのを横目で確認する。何だよこいつら。祭りの顔じゃねェよ。アウト●イジだよ。捕まれよ。


隣が気になって全然集中できないまま、曲調が変わる。青いライトに照らされたステージには流行りの洋楽が流れ、ダンスのテイストもセクシーだ。

なまえが1人、前に出て踊る。どこからか「なまえちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」という汚ない高音が聞こえた。
善逸だけではない。腰を艶かしくくねらせたり、胸を突き上げたりと‥高校生としてアウトなのかセーフなのか、‥色っぽい動作の度に、客席からフゥーー!と、歓声が起こる。

あーあー、これお父さん達怒るぞ‥と、隣を見ると‥
全員、ぽかんと魅入っている。

おい、これはいいのかよ!基準分かんねーなもう!
‥もうダンスのパフォーマンスより、教師陣が気になって仕方がない。結局、宇髄が解放されたのは、ダンスが全て終了してからであった。





(はぁぁぁ、やりきったー!)

舞台裏、水を一気に飲んだなまえは、思い切り伸びをする。暗くてよく見えなかったが、煉獄が来てくれたのはすぐに分かった。あの美しい焔色は、暗闇でも目立つ。


さて着替えるかと、一度外に出たが‥あとはライブを聞けば後夜祭は終了だし、折角なので客席から見てみよう。荷物をまとめると、なまえは体育館へ戻った。


「あっ煉獄先生!」
後方の出入口近く、想い人を見つける。隣には宇髄もいるようだ。流石に寒いのか、煉獄はカーディガンを羽織っている‥とても素敵だ!いつも思うが、センスが良い。


「みょうじ!見たぞ!」
幕間で少し薄暗いが、声をかけたらすぐに気付いてくれた。奥から宇髄も「よっ」と、微笑んでくれる。

「格好良かったですか!?」
「うむ!感動した!」

でっへへ!
嬉しくてへらへらしているなまえの顔を、煉獄が口角を上げてじっと見る。

「化粧をしているな」
今日はがっつりアイラインに、キラキラのシャドウ、マスカラに‥目の下にラインストーン。唇も赤いグロスで派手に決めている。

「派手に似合ってるぜ!てか昨日みょうじが接客してほしかったわ。何でバケモノカフェ?」
「ありがとうござ‥コスプレ喫茶です!あと炭治カ達は花魁でした!」

煉獄を挟んで訂正するが、宇髄はうんざりした顔で「夢に出たし」などと言っている。

誰かが出入りしたのか、出入口から冷たい秋の風がふわっと吹き込んだ。夜はさすがに冷えてきた。間もなく冬である。


隣の煉獄は話している宇髄を見ていたが‥ふと、なまえへ視線をうつす。
「腹が出ている‥寒く‥なぜ倒れる!」

腹が‥出て‥いるだと‥!?

膝から崩れ落ちたなまえは、床に手を付き絶望する。何というパワーワード。一日100回の腹筋ではコミットできなかったというのか‥!!

「ははははは!みょうじ、お前本当に三枚目だな!」
慌てて腕を掴み、なまえを立たせる煉獄の隣で爆笑する宇髄。
意味が分からず眉を寄せる煉獄。

「俺は、寒くないかと聞いたのだ」
「はっ‥」
その出てるか‥!確かにジャケットはジッパーが開いており、中はベアトップで鎖骨とへそが出ていた。

危ない危ない。ショックすぎて気絶するところだった。
なまえが安堵の息をつくと、ステージの照明が着いた。締めは、ライブである。


ライブは、大体30分程度だ。流行りのJ-POPから洋楽、アニメなど、人気曲がのど自慢達によって披露される。選考会もあるらしく、そのクオリティはお墨付きだ。楽しみである。




「ねぇ、君」
「!」

いつの間にか隣にいた私服の男性が、声をかけてくる。大学生だろうか、生徒では無さそうだ。

「連絡先教えてよ」
「すみません、スマホ置いてきちゃって。」
文化祭は、出会いも多い。だがなまえは全く求めていないのだ。何なら今隣に好きな人いるんだけど。

「またまた。メールくらいいいじゃん」
「おい、しつこい男は嫌われるぞ?」
「!」

よくこの喧騒の中こちらの声が聞こえたな‥と、思わず感心するが。煉獄の隣からしっしっと、宇髄が追い払う仕草をする。

ほぼ輩に睨まれ、男性はすみません、と会場から出ていった。なまえは胸をなでおろし、礼を言う。

「うーん」
口角をあげたまま後方を見渡した煉獄が、「まだ何人かいるな」と呟いた。
「そうだな、地味にな。」、と、宇髄が同意する。事実、なまえが体育館に入ってきた瞬間から、何人かの男性が彼女を凝視していた。

‥何人かいるって、出会い系男子の事かな?何か悪役みたいな会話始めちゃったから、怖いんですけども。殺りそうなんだけど。とくに宇髄先生。


なまえが遠い目をしていると、煉獄が上体を下げ‥なまえの耳元に唇を寄せた。

「後夜祭が終わったら、送っていく。俺から離れるな」


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