#77

「なまえ先輩、聞きました?○○の話」

ダンス部に顔を出した某日。
2年の後輩達が、練習終わりに話しかけてきた。

「◯◯さん?って誰?」
「ウケる!そんな感じですよね!」

アハハ!と盛り上がる後輩達に、なまえは首を傾げた。誰だっけ‥聞いたことあるような‥。しかし、なまえはダンス部以外の二年生は知らない。一人だけ知ってるのは、善逸の事を好きだったあの子だけど‥

汗が冷えて風邪をひかないよう、ジャージを羽織りながら話を聞く。校内は暖かいが、窓際に立つと冷える。

「ミスコンで一位になった子なんですけどね」
「あーあの黒髪ロングの子か!」
なまえはミスコンを見ていないが、文化祭のポスターを見ながら、善逸が教えてくれたので知っている。


「なまえ先輩にいじめられたとか言いふらしてんですよ」
「会ったことないのに!?」
卒業目前にどうした‥
記憶を辿るが、接点はまるで無い。一度だけすれ違った事はある。クリスマスパーティーの日、煉獄の周りにいたが‥

「ま、気にする事無いですけどね。うちらが睨んだらすぐ黙ってたし、3年は誰一人信じてくれないみたいでむしろ孤立してたんで」
‥何してんだ新キャラ!頑張れ!自滅早っ

なまえはむしろ、その子が逆に心配になった。いじめられた、の内容は何だろう?

「あ、何か"ミスコン1位とかブスじゃん"って言われたって言いふらしてました」
辛辣っ

なまえ先輩がそんな事言うわけないじゃんねー、と、後輩たちは話している。信頼してもらってとても嬉しい。

「人違いじゃないかなぁ‥名前間違えてるとか?私面識無いし」
ミスコンなら、参加者や応援側でぶつかることもあるだろう。そういう類いのものなのでは‥?

本気で身に覚えが無い。なまえはうーんと首を捻った。


「多分、煉獄絡みじゃねェ?」
突如後方から聞こえた宇髄の声に、ドキリとする。
煉獄先生絡み‥!?今度は何‥!?

なまえは心の中で泣いた。煉獄絡みで嫌われたのは、これで3人目だ。1人は女子生徒、1人は教師。陰口タイプはいなかったな。いや色々取り揃えなくていいわ!

一回、煉獄はお祓いに行った方がいいのではないか。強烈なのよ、母数も多いんだろうけど!


「あいつ、パーティーの時ずっと煉獄に付いて回っててさ、煉獄がみょうじと避難したの見て、あの二人はどういう関係だ!って、聞いて回ってたぜ。どんまいみょうじ!」
「軽っ」

全くもって他人事の宇髄は、意地悪な笑顔でこちらを見ている。何ですかもう、何も起こりませんよ。

「そう怒るなって。俺は派手にみょうじの味方だぜ?シメてきてやろうか?」
「大丈夫でしたすみません!!!」

ボキリと指を鳴らした輩‥宇髄を慌てて止める。何でバイオレンスなの。


お前が嫌になったら、マジで相談に来い、と‥やけに真顔で言った宇髄は、くるりと背を向けて去っていった。それ言いに来てくれたの‥?有難いけど‥!
同時に、スマホを見ていた後輩がうわっと顔をしかめた。
「マジかよ!ありえなくない!?」

何だ何だと皆で覗き込むと、件のミス☆キメツのSNSであった。
"今日もあの先輩に睨まれたぁ‥私じゃダメだったのかなぁ‥"
などと書いてある。

ほっほーぅ中々香ばしいぞこの子‥
後輩たちは怒り狂ってくれているが、もうこれはどうしようもない。そんな事より、今は受験だ、受験‥‥‥。
なまえはありがとう、私は気にしてないよ!などと言い、学校を後にした。





翌日。

登校中に、時透兄弟に会った。兄の有一郎が話しかけてきたものだから、とても驚いた。

「みょうじ先輩、あのミスコンの2年知ってます?」
例の噂?と答えると、彼は昨日後輩に聞いた内容を、彼女が自分たちにも言ってきた、と話してくれた。何と、学校中に吹聴しているのか。せいが出る。

「無一郎の言い返しが最高でしたよ。"顔で勝てないのに、中身も格下じゃん"って」
無一郎くんんんんんんん!

思わず、隣でぼーっとしている弟を見てしまった。てか顔は向こうミスコン1位でしょ!?

相変わらず可愛い顔して猛毒をぶち込んでくる。大根で懐いてくれて良かった‥


双子と歩きながら、ぐるぐると考える。
あと1年以上この学校に在籍する予定であるのに、何故すぐに卒業するなまえにそこまでするのだろう?なまえは理解できなかった。もしかして、クリスマスの日‥上まで付いてきて見ていたとか‥!?いやいやいや、廊下には誰もいなかった。

「‥‥‥‥」
あの時、煉獄は背中を手で押した。最近は嬉しいとしか思っていなかったが‥煉獄と仲が深まる前は‥いや、彼が自分以外‥女子生徒に触れるのを、見たことが無い。煉獄を好きなのであれば、その光景に衝撃を受けてもおかしくはない‥‥‥それか。

(はぁ‥折角一難去ったのに‥)
彼女が、なまえを煉獄から引き離す目的で動いているのは分かった。だが彼女は、煉獄という人間を分かっていない。
彼は自分の確固たる価値基準を有しており、それは他人が何を言ったところで、揺るいだりしないのだ。言い換えれば煉獄の他人に対する評価は、外野とは全く遮断された彼のテリトリーで行われており、何人たりとも干渉することができない。むしろ、彼のような清廉潔白なタイプは、陰口を言うような者は相手にしないと思われる。例えその内容が、真実であっても。


「おはよー!」
上記の考察から、なまえは特段彼女の行動を気にかけていない。友達と、煉獄さえ信じなければ、それで十分なのだ。

自席に着き、カバンを下ろす。
「おはよぉぉぉぉなまえちゃんんん!」
「善逸くん!?」
こちらを向いた善逸が、歯を食い縛っているので二度見した。何て顔してんの!

「なに?何かあった?」
「何もないぞ!」←炭治カ(変な顔)

嘘ついてるー!この顔知ってるぞ!
絶対何かあった。それも、なまえ絡みの‥まさか。


後ろを向くと、伊之助が頬杖をついて事情を話してくれた。

「皆の所にも来たの!?」
嘘でしょ!?と、なまえは目を剥いた。この三人は、なまえが最も仲の良い親友であり、かつ校内ではそれが知れ渡っている。怖いもの知らずか!流石に強すぎる。


「なまえちゃん心配しないで、コテンパンにしておいたから!」
「やっつけちゃったの!?」

善逸の力強い言葉に、汗が出た。
無一郎といい、なまえの味方は過激派が多い気がする‥。


内容は、以下の通りだった。
「相談がある」と言って三人を呼び出した彼女は、「なまえにブスと言われた。会うたび睨まれるし、何か心当たりがあったら教えてほしい」と言ったそうだ。
あまりに理解しがたい内容であった為、人違いを指摘したが‥蓬組の、これこれこういう見た目の、みょうじなまえ先輩ですと言われ‥

一番優しかったのは、やはり炭治カだったらしい。「何故嘘をつくんだ、君自身も傷つく。なまえに謝って心を入れ替えろ」と。
残りの二人はもはや会話にならなかった。善逸でさえ怒鳴るものだから、最終的に彼女は泣き出してしまい、付き添いの女子生徒達に連れられ、去っていったらしい。

もう彼女の中では、妄想が事実化しているのではないか。でないと、この行動力は産み出せないのでは。
‥なまえは頭が痛くなった。何だこの事態は。


「‥バレンタインか‥!」
何気なくスマホのカレンダー見たなまえは、彼女の思惑を理解した。もうすぐ、煉獄に気持ちを伝えるつもりなのだろう。それまでに、ライバル(?)を‥


「バレンタイン!!!初めてなまえちゃんがいるバレンタイン!!!」
「わっ」
急に大声を出す善逸に、もやもやとした思考がバチリと遮断された。

先程までの怒りはどこへやら、彼は瞳をきらきらさせながらこちらを見つめている。
「なまえちゃん!俺、チョコレートが欲しいの!!!」
ダイレクトにおねだりされた!

思わず吹き出す。
勿論あげるよと言うと、善逸は顔を真っ赤にして高速で机に頭を打ち付け始めた。ホラーだよ!

「良かったなぁ善逸、1年の時はどうなるかと‥」
「やめて!黒歴史やめて!」
にこにこする炭治カを、善逸が制する。

だがそんな微笑ましい二人は、伊之助のまさかの一言で固まった。

「2/14は‥俺等の大学の試験だぞ」
「「「え」」」

三人がぐるりと後方を見る。
「こっち見んな」
酷っ


そうかーーー!‥なまえは肩を落とす。
日にちがかぶってしまった。
善逸達には当日試験会場であげればいいとして、煉獄にはどうやって渡せばいいのだろうか‥。あああまさかの弊害が!

(まぁ‥ダイレクトに告白しちゃったし、チョコは渡せたらでいいか‥)


隣でしくしくと涙する善逸を慰めながら、なまえは呑気に考えた。




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