不意打ち

「おいみょうじ‥‥何だこの点数はァ‥殺すぞォ‥」
不死川先生、アウト!それアウト!
顔と台詞がアウトぉぉぉぉぉ!!
「ヒィィ」

授業終わりの筍組教室。
小テストを返却し終えた数学教師に迫られている。素敵な意味じゃなくて。

椅子に座るなまえの右横に立ち、恐ろしい形相で教師はトン、トン、と答案用紙を叩いている。


「すみませんすみません、数学苦手なんです‥三角関数が全然理解できなかったんですこれっぽっちも」
「どんだけだァ‥」
清々しいなまえの告白に不死川も思わずI●KO化する。

「お前‥放課後職員室来いやァ‥」
「ヒィ!部活は‥」
「休めェ!」



ガラッ
「失礼します‥」
「みょうじ‥どうした‥」

しょんぼりと職員室の扉を明けると、悲鳴嶼が珍しいと言いたげに声をかけてくる。

「数学の補習です‥もしかしたら無事に戻らないかもしれません‥痛っ」
「んなわけあるかァ」

バシッと丸めた教科書で頭を叩かれる。
「始めるぞ、そこ座れェ」

そういうと不死川は、職員室の奥を指差した。


広めの机に着席すると、不死川は机を挟んで反対側に座る。
基礎を不死川が説明し、例題を解く。数学が苦手ななまえのペースに合わせてゆっくり何度も説明してくれるので、何とか理解することができた。

途中ほかの教師が足を止め、驚いた表情でこちらを見るのが居たたまれなかったが。


「数学はなァ‥基礎で躓いたら応用に進めねェ。これからは分からなくなったらすぐに聞きにこい。いいなァ?」
「はい!」

一通り終わると、不死川はそう言って教科書を閉じる。
「‥‥‥」
そのまま机に片肘をついて、なまえをじっと見つめた。

「‥不死川先生?」
「‥俺の説明はわかりづらいか?」
「え?」

眉を寄せて少し気落ちした様子の不死川に驚き、質問に疑問符で返してしまった。
「お前、他の教科は満点近くとるらしいじゃねェか。」

そう、なまえは地頭がよく努力家の為、成績がいい。まだ学期末の成績表が作成されていない現状、担任の悲鳴嶼も実情を知らないし、先ほど通りすぎた他教科の先生もなまえは優秀であると認識しているのだ。

‥知らぬところで教師内の会話に自分があがっていたのは恥ずかしいが、先程の様子から数学がダメな事は伏せてくれていたらしい。


「‥先生の説明はわかりやすいです!私が最初に躓いちゃっただけで‥」

本心だ。
だからそんな反省しないでほしい。
いつもの殺伐とした怖い不死川でいてほしい。
そんな捨てられた子犬のような顔をされたら、ドキドキしてしまうではないか。
じ、と見つめてくる教師の視線に耐えきれず、あちこちに視線を泳がせた挙げ句なまえは膝に置いた自分の手を見つめる。

そして意を決して不死川の目を見た。

「‥」
「今日補習していただいたので、三角関数は完全に理解しました。かかってこい!!」
「ぶっ‥みょうじっ、」
「‥!!」

今、笑った。
不死川が‥。
ヤバい。グッときた‥

惚けるなまえに、不死川が手を伸ばす。
「へ?」


ぽん、ぽん。
「頑張りなァ。いつでも質問にこい」
筋ばった大きな手が、なまえの頭をなで離れていく。そんな優しい顔で、笑うとか。

「‥‥‥は、ぃ‥」
顔から湯気が出るかと思った。
声がでない。


「なんだ不死川、セクハラか?」←伊黒
「違うわァ!(ガターン!)」

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